もどきモドキ  


我が家の愚弟は、食べ盛りである。
スポーツをやっているから仕方がないが、本当によく食べる。

そして、所謂…嗜好品が好きだ。寿司、焼き肉、ステーキ、ハンバーグ。ジャンクフードも好きだけど、割高な物でも力の限り食べたいというのが、我が弟の赤也の困ったところである。

最近は、マルチな食べ放題があるので、寿司や肉系に関しては心配が無いが…。

きたる土用の丑の日の鰻も、赤也が好きだったりするのである。

かくゆう私も嫌いでは無いけれど、お腹一杯の鰻という気持ちにはなれないので、例えば…回転寿司で鰻を二巻食べれば良いかな?と言うぐらい。

けれど赤也は、好きな物はお腹一杯食べたい性質。

しかも最近カルシウムが足りないのか、反抗的でキレやすい。

まぁ私は力技でねじ伏せるけど…。恐怖政治上等です。

それに何て言いますか、食べ物の事に関してはデリケートな問題だと思う。

動物から餌を奪った後が怖いとか…。食べ物以外なら、別に赤也に気を遣う必要を私は感じ無いのだが…。

そんな訳で、どうしたものかと思う。言い聞かしたぐらいで、納得しそうに無い弟を思い浮かべて気が重くなる。

鰻高騰とか本当に嫌になる。


(いっそうの事秋刀魚の蒲焼きをご飯の上に敷きつめてみようかしら?長さは正直足りないが、一口だいに切って…鰻のタレをこれでもかとかけたなら、案外気がつかないかもしれない)


何て思わず考えてしまう。
苦し紛れに浮かぶ考えに私は、流石にそれは無いかと思い直す。


(鰻と秋刀魚じゃ流石に分かるでしょ…分からなかったらそれはそれで切ない)

不意に想像するのは、鰻だと思いこんでいる秋刀魚の蒲焼きを美味しいそうに食べる赤也の姿。
幸せなら良いけど、今後の弟が心配になる。(んー。本当にどうしたもんかねぇ)なかなか打開策は出てこない。

そんな折り、テレビでは鰻の話題でもちきりだった。
ニュースキャスターも国産、輸入品も高値になっている話や、鰻専門店の大変さなどをこぞって取り上げる。

某牛丼屋でも取り扱いのうな丼の値上げなど、本当に庶民に優しく無い現実が否応なしに突き付けられる思いである。


(戸時代に土用の丑の日に鰻を食べると決めた平賀源内を恨めしく思うは本当に)


つい最近に始まったイベントじゃないだけに、益々やるせない気分になる。
戸時代に腹がたとうが、我が家の腹ペコ末っ子殿の性格が一瞬で変わる訳でも、問題の鰻が安くなる訳でも無い。


(本当に手詰まりだわ)


やれやれと、どうにもならない現状に頭を悩ませている私に、ネガティブ発言が多かったテレビから、天の声が聞こえた。


『こんな時代だからこそ、擬き料理です』『擬きですか』

『はい。禅寺や肉を食べてはいけない修行僧は擬き料理を食べて食べた気分を味わっていたものです。精進料理には、そのような文献が数々存在します』

『ほぉ…凄いですね。流石に鰻は無理じゃないですかね』

『そうでも無いですよ。だって今食べてらっしゃる鰻の蒲焼きも擬き食品ですよ。気がつかなかったでしょ?』

『えぇー。冗談ですよね。だって小骨の感じしますよ』


などとやり取りが流れていた。少し大袈裟な感じは否め無いが、実際騙されている人が居るいじょう、案外簡単に騙されるかもしれないと私は思った。


(鰻の蒲焼き擬き…試してみる価値あるかも)


少し大袈裟なキャスターは兎も角、私は精進料理を信じてみる事にした。
まぁ戸時代に対抗するにはコレぐらいしか無いと思ったからだ。


私は早速、ネットや図書館の精進料理から一般の主婦の人が考えるモドキ料理を色々調べてみた。其処には、鰻は勿論の事、肉なしのトンカツやらある意味精進料理と言う名の錬金術の様なものまで多彩に存在していた。


(砂から金とか水から命の水を作るまでとはいかないけど…肉ですら無い物から肉の様な物を作るとは…昔の錬金術師も驚くでしょうに…)


知れば知るほど、深いその世界と食べれないところかた生み出す人間の貪欲さに恐れ入る。

純粋に菜食主義の人達にはある意味、このモドキ料理や精進料理は助かるものなのであろう。


(ついでに、切原家も救ってくれたら万々歳であるのだが…どうなのだろう?)


そんな事を思いつつ、発見した鰻の蒲焼のモドキ料理は、簡単な材料でどうにかなるようであった。

豆腐、大和イモ、牛蒡、海苔、ウナギのタレ…鰻のタレ以外はどう考えても、魚や肉ですら無い…畑の恵みと海の恵みそのものである。一抹の不安を感じながら、私は切原家の平和の為に鰻の蒲焼モドキの成功に尽力をつくしたのである。


後日、念の為輸入物の鰻の蒲焼を冷蔵庫に入れつつ…練習に練習を重ねた、鰻のかば焼きモドキを力いっぱい赤也並びに両親に御馳走したところ、まったく気がつかづご満悦で平らげていた。


「輸入の鰻の所為か…何かあっさりしてるけど、こんなに一杯食わせてもらってるし、俺は満足だぜ。有難うな姉ちゃん」


等と言う言葉と共に。
結構素直な弟に、私はこっそり罪悪感を覚えたのは言うまでも無い。


(お姉ちゃんは赤也の行く末が心配でなりません)


自分でやっておいて私は本当に、心底そう思わずににはいられなかったのである。


おわし


2012.9.14.(WEB拍手掲載:2012.8.14.) From:Koumi Sunohara

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