心配事が尽きないものです
私の弟は昔から気性が荒い奴だった。
負けず嫌いで、プライドも高い。
どこでどう間違ってしまったのか、実に凶暴な性格である。
まぁ、家族や私には凶暴性をあまり見せないけれど、周りにしてみればはた迷惑な話だと心底思う。
だからと言って、私達家族が手をこまねいていた訳では無い。
カルシウムを与えたり、クラシックを聴かせたり、全うなスポーツマンにさせるべく、野球やら空手とか柔道に行かせれば、逃亡するは、出入り禁止になるとか…色々である。
仕方がないので、気付きしだい鉄拳制裁を加えて矯正を図ってきたけれど、まぁ限界がある。
残念ながら、赤也と私は歳が離れている為、学校が被る事はまず無いに等しい。
家や近所については何とかなるが、学校については不可能に近い。
いっそう、監視カメラとか、孫悟空の頭の輪とか付けてやりたい程の問題児なのだ。本当に。
そんな訳で、我が家は小さな子供でも居る訳でも無いのに、自賠責保険に入っている念のいりよう。
そうやって、念には念をいれていた最中、我が家の馬鹿坊主の赤也が問題をおこしやがった。
おっと失礼、おこしたのである。しかも、外部の学校の年下の子を怪我させたという。
赤也の先輩の真田君から電話がきた時はこめかみがビクついた。
(あーぁ。やってしまった)
心底頭を抱えたくなった。
しかも、赤也ときたら悪い事をした気が無いようで尚悪い。
(そこまで、アホに育てた覚えがなかっただけにショックだ。それより、怪我させた事が問題だよね。その子大丈夫かな?)
重い気持ちのまま、電話先の真田君に言葉をかける。
「さて、真田君。悪いけど君らの試合は諦めてもらうよ」
「…」
「君らが全国制覇を目指しているのは分かるけどね、流石に赤也の行動は目に余るものがあるよ。こないだもあったでしょ」
「はい」
「武道をたしなむ君なら、赤也のした事は道徳的に反していると思うけどどうかな?」
「返す言葉も在りません」
キッパリと言い切る真田君に私は小さく溜め息を吐いて言葉を紡ぐ。
「まぁ真田君を責めるのはお門違いだけどね。赤也の問題は切原家の問題だから。これに立海大のテニス部を巻き込んで本当にご迷惑。赤也を退部させて、向こうの親御さんやその子が納得してくれるなら、それで良いだけど、無理だろうしね」
「覚悟はできてます」
重く言う真田君は、きっとだれよりも悔しいだろう。
弟と一つしか違わない真田君には重い内容で本当に申し訳無い。
(対話で済む内容じゃないよね…それでも、努力はするけどね)
心の中でそう思いながら私は、真田君に件の被害者の少年の連絡先を聞いたのだった。
と言えど、真田君は試合に出る事を諦めては居ないだろう。
何分、部長たる幸村君が病で抜けている…その際にした男同士の約束故に…彼はどうにかしようと考えている事は何となく分かる。真田君以外でも、それは言えることで…赤也に対してもだけど、この子たちが道を外さない様に気を付ける必要さを考えると、本当に頭が痛いお話しである。
(これは幸村君崩しをしつつ、先方の親御さんに謝るより他ないか…)
考えるだけでも頭が痛くなる、現状に憂鬱に思いながら、私は先方へ連絡をとった。
結果論から言えば…。
立海は通常通り試合に出れ、真田君達が悪に染まることもないまま、私としては微妙な心境のまま和解とあいなりました。
先方の親御さん曰く。
「ガキ同士の問題だしな。リョーマにいたっては、借りは試合で返すっていうから、お嬢ちゃんは気にし成さんな」
そういって話を終了されてしまった。
私としては、怪我をさせた時点で『ガキ同士の問題』では無いと主張するが叶わず…両親と相談した結果、今後この様な事が起きたら赤也を問答無用でどうにかする事を取りきめ、怪我をさせてしまった越前家には両親が菓子寄りと、テニスで使用する消耗品を持参し、断られる前に置いてくるということで終止符を打った。
今後も起こりそうな赤也の行動に、私はこれからの赤也への一層躾を強める事を心に誓った。
(いっそうテニスやめさせて、何処かの傭兵部隊にでもおしこんでやろうかしら?)
などと思いながら。
おわし
2012.7.24. From:Koumi Sunohara