本日は世間ではお嬢さん方の決戦の日バレンタイン。
切原家の長女である切原さんも毎年バレンタインと言う行事には形ばかりでも参加はしていたのだが…。
今年は何やら様子が可笑しい。
何が可笑しいかと言うと、やる気無さそうに…朝からだれ気味なのだ。
リビングに置いてあるソファーにだらしなく座り、朝の情報番組をぼんやりと眺めていた。
その姿からは、チョコを渡す気など微塵も感じられない。
さんは…世のお嬢さん方の行動とは逆行した行動に出ているのである。
家族…と言うか両親は、さんの行動に「あら?珍しいわ」とか「こんな日も有るだろう」と思いながら、別段注意する様子は無い。
実は…こんなにダラダラしているが、さんは普段はとっても真面目なお姉様なのである。
それを知る両親の態度は当然と言えば当然な態度なのであろう。
だが違う反応をする者もいたりする。
早起きが苦手な、さんの弟で自称立海二年エースの赤也さんは…気怠そうな姉の姿を見て驚いた。
目を擦りながら、何度も姉の姿を確認して…これが現実で有ると認識した赤也は信じられないといった表情を濃くした。
「姉さんそんなにゆっくりしてるけど…学校良いんスカ?」
ダラダラとソファーに転がり、TVを見ているを見て赤也は不思議そうに声をかけた。
姉で有るが、こんな時間にダラダラしているのが心底不思議で仕方がないらしい。
赤也の心境など知らないは弟の方に見向きもせずに、TVに視線を向けたまま言葉を紡ぐ。
「今日は休み。寧ろ自主休校だ…大学は良いな〜高校とは大違いだ」
パタパタと手を振り、本気か冗談か分かり難い口調で赤也に答える。
姉の姿に弟である赤也の困惑は増すばかり。
(姉さん…普段はサボリ何てしたこと無いんスけど…何言ってるスかね〜…。あれ?そう言えば今日って…)
少し眉間に皺を寄せて、赤也はそんな事を思いつつ…何気なくカレンダーに視線を向けた。
そして何気なく眺めたカレンダーには、2/14の文字。
言わずと知れた、女の子の決戦の日バレンタインデー。
(バレンタインデーだよなぁ〜今日って…)
そんな事を思いつつ、赤也はとカレンダーを交互に眺め…疑問を姉にぶつけるべく口を開いた。
「でも今日はバレンタインデースけど」
カレンダーを指さして赤也は、にそう言った。
言いながら…もしかしたら、この姉は忘れているのでは無いのだろうか?と思ったのだろう。
だが、赤也の親切心も姉には届かなかったのか…相変わらず気の無い声が戻ってくる。
「だから休むのよ赤也」
サラリと紡がれる姉の言葉に、赤也は眉を顰める。
「はぁ?意味分かんねぇ〜スよ」
「ふふふふ赤也よ…まだまだ女心が分からないようだね」
顔を顰める弟に姉は、不敵に笑ってそう言った。
かなりの余裕の表情で有る。
赤也はそんな余裕なに顔を顰めたまま言葉を吐き出した。
「寧ろ女の子のイベントだと記憶してるんスけど」
首を傾げながら赤也はにそう答えるが、姉様はそんな赤也を意味有気な微笑を浮かべて見返してくるばかり。
「あは。残念〜赤也の言うのは乙女心だね。ちなみにお姉様はが言っているのとはチトばかし違うのですよ弟君」
紡がれたの言葉に、意味をサッパリ理解出来無い赤也の頭は疑問符で埋め尽くされている。
弟の頭が疑問符全開の事には気が付く事無く、
「それより我が弟君。朝練の時間に間に合わなくなるけど…良いのかね?」
少し茶化す要素は言葉の中に有るけれど、ごもっともな姉の言葉に赤也は慌てて時計を見た。
時計の針は、朝練に間に合うか微妙な時間を指していた。
「ゲッ…こんな時間。姉さんサンキュース。んじゃ行ってくるス」
テーブルの側にスタンバイさせておいたテニスバックを担いで、席を立つ赤也に「ちょっと待った」とが声をかける。
「ああ…そうそう貰ったチョコ食べずに持って帰ってきてね。どうせ食べきれないだし」
「別に構わないスけど…」
姉の言葉の真意が良く分かってはいないけれど、赤也はの言葉に頷いた。
はそんな赤也を満足気に見ると…「コレ餞別。恐らくコレが役に立つよ」と言いながら折りたたんだ紙袋を赤也のテニスバックに詰め込んだ。
赤也はの行動に短く礼を言うと、バタバタとリビングを後にしたのだった。
お姉様コトの予想通り、赤也は姉の持たせた紙袋のご厄介に為り…大きな紙袋パンパンに切原赤也は帰宅した。
「ただいま〜帰ったスよ」
自宅に姉が居る事の知っている赤也は元気よく玄関先で帰宅を告げた。
弟の声で帰宅に気が付いたさんは、パタパタとスリッパを鳴らして玄関先に顔を覗かせる。
「無事に帰ってきたね。お帰り赤也」
赤也を視界に入れたは、帰って来た赤也にそう返す。
「姉さんとの約束通りチョコ持って帰ってきたス」
手柄を持ってきて飼い主に褒められたい犬のように…赤也は、ズイっと紙袋をに渡した。
はソレを見て、ご満悦といった様子だった。
「よしよし。赤也にしては上出来だね」
目の前に出された紙袋に入っているチョコレートの箱の数々にはニンマリと笑みを浮かべた。
「“しては”余計ス。俺の実力の賜物ス!そこは、間違えないで欲しいスね」
姉の言葉に聞き捨て成らないと言いたげに赤也はに、そう返す。
そんな不機嫌な弟の姿を一瞥した姉は、弟…赤也を黙らせるべく言葉を紡ぐ。
「日頃の行いでしょ」
「俺は日頃の行いが良いから、こんなに収穫が有ったス」
エッヘンと胸を張って赤也はに言い返した。
その言葉にの米神がピクリと波打つ。
「ほぉ〜赤也はお姉様に口答えするって言うのかしら?何時から偉くなったのかな〜赤也君?」
バックにブリザード全開には、少し声のトーンを落として言葉を投下した。
(ゲッ…滅茶苦茶…不機嫌…ヤバイ…ココはひとまず謝っておくのが得策ス)
姉の著しく低下する機嫌を感じ取った赤也は、パット表情を変えて…怖ず怖ずと言葉を紡ぐ。
「偉くは…無いス。俺が悪かったス…」
「良し。分かれば良いのよ赤也君」
フフンと勝ち誇った表情ではそう哀れな弟にそう返す。
そして…「そうそう…よい子の赤也君に、お礼しないとね」と笑ってない目のままそう告げた。
赤也は姉の異変に気が付いていないようで…「え?何スか?」ウキウキと目を輝かせて、赤也はの言葉を待った。
はそんな弟を満足そうに見返し…。
「私のお仕事を手伝わせてあげるわ♪光栄でしょ?」
ニッコリと笑い、学校からクタクタで帰ってきた弟にはサラリとそんな言葉を吐いた。
かなり横暴極まりないお姉様。
勿論赤也がその姉の横暴な言葉に納得するはずもなく…。
「ええええええぇ?面倒ス…やりたくないス」
ウンザリした表情で赤也は本音を口にする。
ちょっぴり学習能力の無い赤也君で有る。
そんな弟の行動を完全に掌握しているお姉様のさんが…それを見逃す筈もなく、赤也を冷たい目で一瞥した。
「この前、赤也が壊したロイヤルコペンハーゲンのティーセット…べん」
“弁償してくれるの?”と言う言葉をに全部言終らせる前に、赤也は“ワーワー”と慌てた。
「あああああ。やるス!やらせて下さい…寧ろ…お姉様の為にお仕事したいなぁ〜何て」
「そう?別に良いのよ赤也」
短く言うの言葉の裏には『弁償してくれるなら』と言う言葉。
それを理解している赤也は更に慌て、急いでに言葉を返す。
「何言ってるんスカ。俺は姉さんの役に立ちたいと思ってるんス」
“ホラ。この目を見て下さいよ〜。やる気に満ちてるでしょ?”と付け足しながら赤也は言う。
「赤也がそこまで言うんなら…」
(相変わらず、扱いやすい弟ですこと。でもこんな風に簡単に使われて…学校で大丈夫なのかしら赤也ったら…)
内心少しばかり弟想いの姉みたいな事を思いながらは、作業内容を赤也に伝える為に言葉を紡ぐ。
「高そうなチョコと手作りと普通ポイチョコに分別を手伝って欲しいのよ」
そう言うや否や、は段ボール箱に『入る、入らない』と貼られた箱を後ろから出して赤也にそう言ったのである。
ほどなく赤也とのチョコの分別作業はスタートする事になったのだった。
チョコの分別作業に仲良く励む中、赤也が不意に言葉を紡いできた。
「こんな風に分別して、コレどうするんスカ?」
入る入らない状態で分けながら赤也はに素朴な疑問をぶつけてみた。
「ああ。再利用よ再・利・用♪」
軽くそう答えながら、はポイポイとチョコレートを段ボールに放り入れる。
どうやら、投げているチョコレートは『入らない』に分類されているチョコレートらしい。
赤也を相手にしながら、は淡々と作業をこなしている。
鮮やかな姉の作業ぶりを、赤也は感心した様子で眺めるが…
赤也の疑問は未だに解消されぬままで、赤也の表情は晴れていない。
困惑気味の弟には苦笑を浮かべつつ、赤也にはまたもや言葉を紡ぐ。
「仕方がない…少し話を変えよう。…あのね、赤也ってさ…沢山チョコ貰うけど、大抵全部食べれないじゃない?」
「そうスね。姉さんとか母さんとか…下手すると賞味期限切れになる時も有るスね」
ウンウンと頷きながら、赤也もに習ってチョコの選別しながら会話をするが…どちらに入れて良いか分かり難い箱を見つけ、首を捻り問題の箱を姉の方に向けて「これ…どっち?」と尋ねた。
は見せられた箱に対して「ソレは入る方に入れて」と言いながら、自分の手を休めず分別に励む。
赤也はの言葉に従って、慌てて段ボールにチョコの箱を納める。
見届けたは、思いだしたように言葉を紡ぐ。
「それでは、チョコ勿体ないと思わない?」
「確かに勿体ないスね…だからお菓子に再生させるんスね!」
“ああ分かったぞ”と言った表情でに言う赤也。
赤也の言葉に軽く首を横に振る。
「イイエ。私お菓子作り何てやらないでしょ」
「うっ」
の言葉に言葉を詰まらせ、ウヌーと唸る赤也には可笑しそうに目を細め赤也を見る。
そして、繰り返している言葉を再度赤也に告げる。
「だから再利用って言ってるでしょ」
「姉さん…もう少し分かりやすく説明してくれると有り難いス」
ヤレヤレと肩を竦めて、は弟の為に説明の言葉を紡いでゆく。
「分からないかなぁ〜?あのねホワイトデーのお返しは三倍返しは当然なのよ。従って、ちとばかし値のハル物をバレンタイン時期に送る訳よ…そのブツが赤也の収穫したチョコって訳。ちなみに普段の日頃の行いが良いお姉様は本日風邪で寝込んでいるって事になっているので…明日、明後日チョコがズレ込んでも問題なし」
そんな事を言い切った姉の姿に、赤也はただ黙るしかなかった。
二の句を繋げない赤也を余所に、のトークは留まることは知れず…ドンドン言葉を紡いでゆく。
「先の壊したティーセットの件だけど…チョコを持ってきたって事で赤也の極刑は免れたって訳よ…でも執行猶予は有るから…其処の所は理解しなよ」
晴れやかにそんなコトを言うに赤也の顔から血の気が引く思いで一杯だった。
(そりゃーあんまりだよ…つーか悪徳商法一歩手前スよ姉さん…でも…その御陰で俺は少し助かったんだけどさ…)
実の姉の凄まじい思考に、チョコを渡される相手に同情しながらも…こんな貰い物のチョコで首の皮が繋がった自分の幸運ぶりに、赤也は感謝しつつ…自分の血の繋がった姉の姿を眺め…。
「外面に惑わされたら駄目って事スよね…」
によって没箱行きになったチョコを齧りながら、赤也は姉に聞こえないように小さく呟いたのである。
お姉様のホワイトデーでの収穫結果が分かるのはもう少し先の事。
END
2004.2.10. From:Koumi Sunohara
★後書きと言う名の言い訳★ テニプリ赤也で姉様設定バレンタインネタでした。 赤也が哀れな事になってしまいましたが、楽しんで貰えたなら幸いです。 優しい姉でも良いのですけど…今後書く…と言うかこの姉様設定で書こうと思っているお話が有るので…こんなお姉様になったんですけどね。 こんなお話におつき合い頂き有り難う御座いました。 |
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