どんより曇り空 |
肌に刺さる寒さから、一変頬を撫でる柔らかな風が吹き始める。
路地にもポツポツと、春を感じる草花が少しずつ顔を出している。
確かに感じる春の息吹。
少し前までの寒さが、嘘のように春めいて心が躍る時期だと言うのに、私の心はどんよりとした曇り空の様な気分だった。
別に春が嫌いな訳でも、冬が恋しいわけでも無い。
寧ろ、桜が咲き乱れ、緩やかな暖かさや五感を刺激する春の香りに目でも楽しいとさえ感じる事に、心地よささえ感じる。
基本的に春と言う季節は個人的にも好ましくて、毎年心躍るように楽しみですらあるのだけど…。
私の心が曇り空のように晴れずに、心が踊らないのには、大きな訳と言うほどでは無いけれど理由があったりするのである。
それは、冬がまだ残る2月。現在から遡る事と、一月前のとあるイベントにほかならない。
一ヶ月間…。
少し肌寒さを感じつつ、甘い香りが漂う乙女の祭典…バレンタインデー。
義理チョコだったり、友チョコだったり、はたまたすごく意気込んで用意した本命チョコレートを渡したりと、一種の競技大会の様な-バーゲン戦争の様なイベントである。
一応、生物学上女性という分類である私も、例に漏れずに義理チョコや友チョコなんかをくばったりした。ある意味お歳暮やお中元を配る社会人の感覚に似ているのかもしれない。
友チョコは、交換制なので後腐れのない感覚で、目当てのチョコが食べれてラッキーぐらいの感覚でありコミニュケーションの一環であるので、実に楽しいものだった。
義理チョコにいたっては、ある種の義務感と言うのだろうか…もとよりお返し自体に期待の無い、掛け捨て保険の様なもんである。寧ろ、誰に贈ったのかすら怪しいというのが通年の私の義理チョコ事情だったりする。
しかしながら、今年に限っては私にとって不測の事態と言うのだろうか?もしくは予想不可能な出来事が起きた。
逆チョコなるものが私の元にやってきたのである。
仲の良い男友達が冗談交じりに世の情勢に便乗して贈った逆チョコだったなら、私だってそんなに深刻に悩むことは無い。寧ろ上冗談には冗談で返すにきまっている。
しかしながら、私にチョコレートを贈った人物は、冗談だとか、気安くて仲が良いとか言うような、そんな言葉で解決するような人物では無い故に、実に困ったものである。
(友達や冗談としてのチョコなら事はもっと簡単なのだけど)
幾度と無く、貰ってからあれこれ考えるが…笑ってすむ問題じゃ無いのが現状。
そして、幸か不幸か私に逆チョコを送った人物は、校内でも有名な坂本春海その人からの逆チョコだったりするのだ。
正直に人気者である坂本君との接点は、学部が一緒であるとか…とっている講義が一緒、学年が一緒。会話だって、数回程度。
どう鯖よんでも、親しい友人というポジションでも…ちょっとしたドッキリと言う線が考えにくい状態だ。
更に私に追い討ちをかけたのが、私以外に逆チョコを贈った様子が見受けられない事実だったりする。坂本君の取り巻きの人達が何だか愚痴を漏らしていたから間違いない。
(それにしても、男前なのに取り巻きが男ばかりなのは何故なんだろう?しかも結構熱狂的だし…)
ぼんやり当時の記憶を思い返すものの、浮かぶのはそんなことばかり。
そうなると、彼が私にくれた理由が尚の事分からない状態なのだ。
ストレートに好きだとか、友達だとか…はっきりとしたメッセージや言葉が添えてあれば、それそうなりの対応がとれるけれど、日本人特有のばやかした様な雰囲気なのだ。
正直坂本君の普段の雰囲気なら、結構ハッキリと口にするイメージがあるのだけど…実は奥ゆかしい人だったのか…それすらも実に不明。
迂闊にも受けとってしまった自分を悔やむけれど、現実は変わらない。
某猫型ロボットでも、いない限り貰ってしまった現実は変わらない。
(このチョコレートの意図さえ分かれば、こんなに悩まないのに…)
最初は人気者の坂本君からのチョコだし、甘いものが好きだし有難く受け取ったけれど…ここまで厄介なものだとは正直誰が思うだろうか?
それでも、時間は無情にも刻々と過ぎゆくし、講義もあればテストもゼミもある。日常の流れは私が悩んでいようとお構いなしに過ぎてゆくのだ。
無論、私を悩ませている張本人である坂本君に遭遇する事だってある。
いっその事、彼に事の真相とホワイトデーに何が欲しいのか聞きたいところだけど…彼の取り巻きのガードがやけに固い。バレンタインの一件から、割と顔を合わす機会や、言葉を少しやりとりする様になった所為なのかは、若干疑問は残るが…ガードが堅いのである。
結局は、八方塞がりで…そんなこんなで、私は1カ月近くもどういった意図で渡されたのか不明な坂本君の逆チョコに悩まされたのである。
結局、失せ物である当たり障りのないクッキーを用意しつつ、必ずやってきてしまうホワイトデーに憂鬱に思うのである。
おわし
2010.6.8.(web拍手掲載:2010.3.31.) From:Koumi Sunohara