ぶつかり合う策士
何時だって、何をしてもその人物に勝てた事なんて無い。
勉強、運動、世渡りの良さ。
揚句の果てに、容姿端麗と来たら、神様は不公平だと切実に思う。
そこまで、大盤振る舞いをしたのだから、ついでに性格も良くしてくれれば言う事無しなんだが、やっぱり現実は甘く無い。
ああ言えば、こう言う。打てば響くがグサリと刺さる言葉が返ってくる。サド気がある策略家なのだ、我が幼馴染みである有定修也と言う男は…。
そして、なまじ顔が美形である為に、様々な弊害が私を襲う。
妬みに嫉妬。修也に対する嫉妬や妬みは勿論のこと、幼馴染が非凡の為に平凡の私は格好のクレーム受付所となる。美形で一見非の打ちどころが無い人間に、文句は言えないが、平凡な私には文句やクレームを言っても良いと言うかなり理不尽な感情の所為で迷惑極まりないのである。
(まったく、本人に言えっていうの)
何度となくそう思い、そう口にしても一向に改善されない。
最近は、面倒なので聞き流す様にしているが…本当に迷惑である。
それも、中学、高校が男子校に通ってくれただけ、被害はある意味最小限に収まった。しかしながら、学校での鬱憤を修也が発散するべく、その分短時間で濃度の高い被害が勃発する。これは、もはや仕方が無いともはや諦めた。
扶養される人間である以上、修也から…修也の関わるすべてから逃げるには、遠くの地に逃げるしか方法は無いと思うけど、上手くいく気がしないと不吉な予感があったりする。何だか、逃げても地の果てまで追いかけて来そうなのだ…。
猶予期間内に様々な事をシュミレーションをしたが現状が変わらない…否、大学進学を気に悪化の一途を辿った気がする。
そもそも、私なんかより数段に頭の良い策士家と戦うなどと言う事は、蟻がライオンに挑むぐらい無謀だと思う。
それでも、私の人生な訳でやりたい事をしたいと思う事は贅沢な願いでは無いと思うのだけど。
修也いわく…。
「別に強要してないよ。陥れる事はするけどね」
などと、アッサリ物騒な言葉を口にするのだから、本当にたまらない。
それでも、長い付き合いのおかげで修也との最小限の被害で済む方法で精神被害は最小限である。
何故に私に対して、執着するのか不明。
(さしずめ、ジャイアンとのび太の関係なんだろうか?)
そんな風に思うけど、彼の虐められ子の様な虐めは無い。
言葉尻はきついけれど、意図した虐めは無いし、寧ろ優しいところもある。と言っても、私を虐める者には容赦が無いのだけど。
他人からもきっと、どうしてそんなに、修也が私と共に居るか不明かもしれないが、当事者が一番不明なのだから困ったものである。
不幸自慢に来た訳ではけして無い。
(ぼやきたい気持ちは勿論ある…あるけれど)
それは一先ず置いておく。
思いだせば出すほど、何だか悲しさばかりに陥るからだ。
まぁ、本当にさておいて…今回は成人式にまつわる出来事だったりする。
七五三に継ぐある意味親が子供にするある意味最後の舞台…それが成人式。
昔は成人式に振袖を着たいと言う願望もあって、卒業式には袴も良いと夢見た事もあった。
けれども、藤森の高等部に上がった修也は整った顔立ちから、『姫』と言う役職で、それはそれは別嬪さんな和服姿を着こなした。
本当に和服の似合う姫様なのだから堪らない。
変な女の子よりも実に美しく、可憐に着こなして居るのだから…一般人代表の私なんか叶うはずもない。別に負けてる事が悔しい訳じゃ無く…幻想を抱いた自分が馬鹿に思えた。
そんな訳で、成人式に着物と言う公式は見事に崩れ去った訳だ。
そもそも、無理して高い着物を一式揃え、自分よりも明らかに似合う修也と同じ成人式に出る事事態が私の頭の中で拒絶反応が起きたと言う言葉が正しいのかもしれない。
高校1年の時点で、成人式にはスーツを決めた私は、髪の毛も短くしていたし、両親にもスーツで良い旨も伝えていたので、まったく問題は無かった。少し残念がってはいたけれど、大学進学の事もあるので、それはそれで助かったようであった。本当にこの世の中は物入りである。
そんなこんなで、私の中で成人式=振りそでと言う図式は綺麗サッパリと忘れていたのだけど、修也は成人式=振袖でという考えの人間だったらしい。
それは、ある日の休日のこと。
修也が私の家にやってきて、何故か優雅なティータイムを繰り広げていた時に其れは話題に上がった。
「そう言えば、はどんな着物にするの?」
我が家で本来の家主よりも家主らしい優雅な態度でコーヒーを啜りながら、私にそんな問いを口にした。
この時私は、修也が何の事に対して『着物』を指しているのか不明であった。その為、よく考えずに疑問形で聞き返した。
「ん?着物って何の?」
「何って成人式に決まってるでしょ。ちなみに勿論振りそでだけど」
呆れ顔で言う修也に、(ああ、着物着ないって言ってなかったけ?)と思いながら、簡潔な言葉を返した。
「着物は着ないよ。ちなみに、成人式はスーツだけど」
その言葉に、不機嫌を隠さない様子で修也が反論をした。
「はぁ?何言ってるの。成人式は振袖…卒業式は袴に決まってるんだよ」
「いや…決まって無いし」
「決まってるんだよ。俺が振袖って決めてるんだけど文句ある?」
有無も言わさぬ口調で言い切る修也に私は、(文句は大有りなんだけど)と思いつつも、呆れと強く突っ込む勇気は正直湧かなかった。
せいぜい…。
「大学進学したしね…お金かかるから断ったんだよ。不景気でしょこのご時世」
乾いた笑いを浮かべつつそんな言葉を口にした。
「ふーん。“七五三に継ぐある意味親が子供にするある意味最後の舞台”に力を入れなかったところをみると、結婚式の時覚悟した方が良いね」
「はぁ?」
「まぁ、その時のお楽しみってことだよね。で、は成人式に振袖は着ないし…振袖姿の写真も撮らない気でいると言う訳なんだ」
疑問形では無く、肯定前提とした物言いの修也に私は首を縦に振る。
私の態度を横目で見た修也は、カップに残ったコーヒーを一気に煽り、一拍置いて言葉を紡いだ。
「確かに最近はそんな風潮もあるけど。は着たくないの?振袖」
「そりゃー憧れたけど。高いし着る機会が」
「今更着たくても着たいって言えないって言うならさ、大義名分作ってあげるよ」
ニッコリと綺麗な微笑みを浮かべ、そんな言葉を口にする。
「大義名分があろうが、無かろうが今更遅いでしょ。レンタルだって着つけの予約だって色々大変だし…気楽にスーツで問題ないよ。まぁ…‟結婚式の時覚悟”って言葉が気になるけど、別に私としては問題無いし」
ため息交じりの私の正論に、珍しく修也からの言葉は意外なものだった。
「分かった。取りあえず成人式の日は俺が迎えに行くからね。逃げようなって考えない方が良いよ」
若干のブリザードが吹いた様な気もしながら、その場の平穏な時間が欲しかった私は迂闊にも修也の物騒なもの言いも聞かない事にしたのであった。
後日-
成人式当日早朝に修也によって拉致られた私は、何処で手に入れたのか不明な大層立派な振袖を修也によって着つけられ、髪のセットからメイクまでされていたりした。
かなりの勢いで、理解不能な私は茫然と成すがままされるがまま…凄く機嫌の良い修也と共に無事に成人式を終えたのであった。
そんな修也は機嫌が絶好調な修也は、色んな意味で最強な言葉を口にした。
「安心してよ。俺はお金かかってないし…姫時代の衣装担当が善意で作ってくれたんだよ。結納の時にでも着てもらおうと思って作らせておいたのが役に立つ日が来るなんてね」
本当に修也には一生叶わない気がする。
おわし
2009.2.2.From:Koumi Sunohara