地震、雷、火事、親父
天災は忘れた頃にやってくる
そんな言葉に納得していた時が有った。 その頃の私はまだまだ若かったのかもしれない…。 でも、それに差し替えれる言葉が私の中に有る…。
『人災は忘れた頃に…兄と共にやってくる』
それは私の揺るぎない…格言となったのだから。
青い空。 薄緑や濃緑のコントラストが眩しい、木々。 その隙間から差し込む木洩れ日。
生活用水とされる湧き水の流れる音。 小鳥の囀り。
空気も綺麗で、土本来の香りが漂う。 都会には無い、豊かな自然に住む私。 ゴミゴミとした華の東京に暮らしていない私、加山
は実に充実な生活を送っていた。
車も頻繁に通る訳でも無いし、娯楽が多い訳では無かったけれど…それでも、始めからこの生活しか知らない私には十分な事だった。
水も美味い。 空気も美味い。 そして…食べ物美味い。
文句の付け所が何処に有るだろうか? 一つ文句が有ると言えば…家業の忍び修行ぐらいだが…。 家業だし…仕方がないと腹を括った。
何処か、普通の家に嫁ぎさえすれば…私は解放されるのだからという風に思えば苦にならない。 こんな時自分が女で生まれた事に感謝できた。
まぁ〜何事にも、平和で変わらない日常を送っている。 全てが平穏無事だった。 帝都東京も、また平穏無事の平和な世の中になった。
まぁ黒鬼会を帝国華撃団が退治したからなのだが…。 御陰で、農産物も帝都にまた出荷出来て…ここの地方も潤うものだ。 本当に平和で何よりである。
そんな平和なのには…まぁ私にとって平和なのには、訳が有ったりする。 その前にこの話をしなくては話が進まないので、話すのだが…。 余談で有るのだが…。
私には兄が1人程居る。 名前の紹介で億察しの方が居るかと思うが…一応言っておいた方が良いだろうか? 帝国華撃団月組(通称隠密部隊)の隊長をしている加山雄一。 ソレが私の兄である。
けして自慢の兄と言う訳では無い。 断じて無い。 完全否定を実の妹にされても可笑しくない…そんな人が私の兄である。 属に言う愚兄と呼べるかもしれない。
兄の行動に振り回されていた記憶しか私には無い。 要するに良い思い出が無いのである。 さて、兄妹だから容姿は似ているのか?とか色々疑問があるかもしれないが…。 似ているか?と尋ねられれば、答えはNO。
ハッキリ言って似ていない。 姿形も…中身も全然違うのである。 他からみたら、兄と妹と言うより…従兄弟ですと言った方がしっくりくる。 それ程までに、似ていない。
全てが似ても似つかない兄である。 髪の毛の色は兄が茶色かかった髪なのに…私は真っ黒な髪。 顔立ちも兄は、人好きしそうな甘いマスクと言いますか…優男的な顔立ち。
私はアッサリ醤油顔。 典型的な日本人の娘さんの顔立ちである。 性格だって、兄がお気楽極楽なら私は苦労性(と言うより、先先読み過ぎて勝手に疲れるタイプかも)。
忍び家業だから…仕事中は、真面目にしてるけれど…何もなければお気楽極楽…ヘタすると昼行灯って奴とも言える。 まるで水と油と言っても良い程、私たち兄妹は対照的。
後から考えれば、良く兄妹仲良く生活していたものだと感心してしまう。 (ひとえに私の苦労の賜物かしら?)何て自画自賛したくなる時がある。 と言訳で、この兄加山雄一の居ないと言う事が平和の要因であろうと私は思っている。
そう言えば…そんな兄が家業も継がずに…実家を飛び出したのは何時の事だったろうか? 記憶の断片を想い出すように、私は記憶の海に自身を沈めていった。
天気の良い日だった気はする。 今日のように晴天で、真っ青な青空が眩しいな〜と思えるような日だった。 ふいに真剣な顔をした兄が、私の目の前に来て…地雷のような一言を落としていった。
「
…俺は海の男になるぞ!な〜に、心配するな。お兄ちゃんが海の藻屑になるはずが無いだろう!」
突如意味不明ともとれる…主語述語の抜けている言葉に私は唖然とした。
「お兄ちゃん…何を突然。海の男って…って言うか、家はどうするのよ?」
当然の如く私は、呆れた口調で兄にそう言った。 でも兄は、何処吹く風ってな感じでヘラリと笑顔で答えてきた。
「小さな事を気にしては、海の男にはなれないものさ。第一海に出るは…男の浪漫だぞ
。まぁ突然でお前には迷惑がかかるだろうが、俺の妹だし何とかなるだろう。では、そろそろ行くとするか…アディオース
♪」
「ちょっと、お兄ちゃん〜」
二の句が継げないまま、兄はふざけた別れの言葉と…ギターの音色だけ残して姿を眩ました。 呆然と立ちつくす私と、その後兄が家出で加山家は大いに荒れた…。 御陰で、私に家督が一時的に回ってくるという…有り難くない自体まで起きた。
(あの時は大変だったな〜)
振り返る記憶の中で、私はしみじみと思った。
(まぁ〜その御陰で、大神さんと仲良くなったんだけどな〜)
と想いながら、また記憶の海に私は沈んでいった。
突然の兄の逃亡騒動も、何とか収まって…兄の居ない生活が日常になりつつあったある日1通の味気も何にも無い、巫山戯た手紙が届いた。
『やっほ〜!!
、元気か?俺は元気だぞ。今は帝都で真面目にお仕事に励んでるんだぞ。お国の為に日夜頑張っているぞ〜。でだ、折角俺が帝都に居るのだし…田舎暮らしで飽き飽きしているだろう
を帝都に招待しようじゃ無いか。切符は入れてあるからちゃんと、来いよ。向に行くからな 海の男な兄加山雄一より』
|
数年間音沙汰が無かった兄からの、内容もかなり巫山戯た手紙に私を始め…家族中は激震を覚えた。
「何じゃこりゃー!!」
私のみならず家族中が叫ばずに居られなかった。 騒然としながらも、悲しくもお家柄か…冷静さを取り戻した私達は、すぐさま手紙の検証と…対策会議が開かれた。 一応加山家の長兄ということも有り、兄の仕事ぶりを観察せよとの後達しが私に下された。 後は、汽車の切符代がタダだというものも大きな原因だろうが。 要するに貧乏性なのだろう…何せ田舎暮らしだし…。 何はともあれ…結局私は、兄に振り回される形で有るが帝都に向かう事となった。
優雅とはけして言えない汽車の旅を満喫した私は、上野駅に降り立った。 手紙によると、兄が迎えにきてくれるとの事だったから…ぼんやりと見つけやすそうな所に立ってみた。
(ココなら、流石に解るだろう)
私は忙しなく行き交う人を眺めながら、そんな事を思った。 だが待てどくらせど兄の姿は一行に現れる気配は無い。 最初は我慢出来たが、流石に1時間ぐらい経過すればイライラが募るものであろう…。
「あのバカ兄め。迎えに来るって嘘か?」
ブチブチとココには居ない兄に恨み言を言いながら、私は上野駅で文句をたれながら兄を待っていた。 すると、如何にも日本男児ですという顔立ちの…モギリでもやっていそうな、お兄さんが伺うように私を見て声をかけてきた。
「もしかして、加山
ちゃんかな?」
ふいに自分のフルネームを呼ばれたものだから、私は訝しげに相手を見る。
(知り合いでは無いな…見覚えが無いし…)
記憶力に自信があったので、相手顔をシゲシゲと見つめながら記憶を辿るが…思い出せない。
「妖しいものじゃ無いよ。俺は大神一郎。加山とは海軍士官学校時代の同期で親友なんだよ」
私がジーッと見ていた所為なのか、大神さんは慌ててそう口にした。
「…(親友?あの兄の?)」
驚いた表情をした私に、大神さんはふと考えてから口を開いた。
「もしかして…加山から話し聞いて居ない?」
大神さんは困ったような顔になって、私にそう尋ねてきた。 兄に良いように使われている大神さんが、私は何だか可哀想になって、兄の代わりに謝罪の言葉を口にした。
「全然…いえ。数年近く連絡無かったもので…スイマセン大神さん」
「数年も連絡を取ってなかったのか彼奴は…」
私の言葉に、大神さんは呆れたように…唖然として言葉を漏らしていた。 その様子を見て、私は(この人は常識人なんだな〜…。さぞ兄はこの人に迷惑をかけたことだろう…)と思わずにはいられなかった。
「ゴメンね
ちゃん。加山の奴急に仕事が入ってしまったらしいんだ」
今度は大神さんが謝罪の言葉を口にした。 どうやら、兄がココに来れない理由を教えてくれているらしい。 私はボンヤリと話を聞きながら、言うべき言葉を紡ぎ出す。
「良いですよ大神さん。気にしないで下さい、“あの”兄が真面目に仕事をしているのなら良いですよ。寧ろ今日が、雨じゃ無いのが不思議なくらいです」
「手厳しいね
ちゃん」
「あの兄を持ってしまった、妹の宿命みたいなものですね。御陰で私が、現在家業を継いでいる身なんですから」
明後日の方向を見ながら、私は溜息混じりにそう言葉を紡いだ。
「確かに…。そうだね、俺なんかより
ちゃんの方がよっぽど大変だよな」
大神さんは心底気の毒そうに、腕を組んで声のトーンを幾分落としてそう返してきた。 それは正に、兄の迷惑を滅茶苦茶被ってる人の哀愁を見た気分だった。
結局兄は、来ず。 私は大神さんと、兄に対する鬱憤晴らし大会となった。 振り回される私に、同じく私の分まで兄に振り回されている宿命を背負ってしまった…少し可哀想な大神さん。 それから大神さんとは、意気投合して手紙や電話をやりとりする間柄になったのだが…。 本当に兄に振り回されて可哀想だな〜と毎度毎度思わずにはいられなかった。 解った事と言えば、兄が帝国華撃団の月組隊長で、大神さんは花組って方の隊長で…兄が大神さんに迷惑をかけている事だった。
(それって収穫だったのだろうか?)
この疑問は現在に至るまで謎のままである。
ぼんやりと家の縁側に座り、風をそよそよと受けるように座り晴れ渡る空を仰ぎ見る。
(それにしても、色々あったものだ)
振り返った記憶を整理しながら年寄りみたいに、感傷にひたってみる。
(そう言えば…アレはどうしただろうか…?)
また記憶の海に沈みこもうかと思ったその時…。 ガラガラ。 家先の引き戸が軽い音を立てて、開かれる。 それと同時ぐらいで、よく通る声が家の中に響き渡る。
「加山さ〜ん。郵便だよ」
何時も手紙を届けてくれる郵便屋のおじさんの声に、私は少し慌てて言葉を紡ぐべく口を開いた。
「はいはい。今行きます〜っ」
私は元気よく郵便屋のおじさんに答えると…足早に、玄関に向かう。 (少しボーっとしすぎたかな?)と私は思いながら、歩く。
「ご苦労様。ね〜おじさん、何か変わった手紙来てた?」
パタパタと足音を立てながら、私は玄関先に居る郵便屋のおじさんに声をかける。
「
ちゃん〜、相変わらず元気が良いね。変わった手紙かい?そうだな〜変わってると言う訳では無いけれど…帝都の方から速達で手紙が届いてるよ」
“そうそうコレね”と手紙の束の上に、ご丁寧にも帝都の手紙を一番上にして…おじさんは足早に去っていた。
「帝都?」
私は訝しそうに言葉を発しながら、郵便配達のおじさんから…速達の手紙を受けとった足で、玄関から家に入るべく足を動かした。 その間にも自分宛の、帝都からの手紙に視線を流しながらであるが…。
「何だろう?帝都何て…大神さんからかな?」
知りうる帝都での人間の顔を浮かべて、私は居間の中に入りながら独りごちをする。 ちなみに、兄雄一からの手紙ではないか?という項目はまったくもって、存在しなかった。 ともあれ、帝都からの手紙なんてものは…珍しすぎて…嫌な予感ばかり頭を掠める。 (ワザワザ不幸の手紙を帝都から送ってくるはずも無いか…)等と色々思いめぐらせてみるものの…ハッキリとした見解は出てこなかった。
「何か嫌な予感がするけれど、開封するしかないか」
溜息混じりに言いながら、私は手紙の裏面にひっくり返す。 しげしげと封筒を見つめると、見覚えのある印鑑が押さっていた。
『帝国陸軍省』
(陸軍?陸軍と私と何の関わりが…)
きっちり押されている印鑑と、自分の関係が今一理解に苦しいが…何はともあれ、私はこの封筒の封を切る事にした。 ぺり。 そーっと私は、封筒の糊を剥がして中身を覗く。 中には、ご丁寧に三つ折りにされた白い上質な紙が申し訳ない程度に収まっていた。 溜息を出るのを押えて、私は文面を読むべく紙を広げた。
「ええっと何々…」
文面は以下の内容であった…。
『拝啓 加山
殿 突然の手紙に驚いたと思う。だが、急を要する内容の為許して欲しい。 では、本題に入る事とする。 貴殿の兄、対降魔撃退部隊帝国華撃団…隠密部隊月組隊長加山雄一が極秘 任務の為仏蘭西に行くことが決まり、月組の人員が不足。 加山月組隊長の希望により、貴殿を帝国華撃団月組隊員に任命する。 勝手な事では有るが、国の勅命と思い、了承してもらいた。 尚、この手紙を受け取った数日後に迎えを出すので準備をしておくよう。 陸軍中将 米田 一基』 |
実に達筆な字で書かれた、文面に私は一瞬唖然となった。 が…。
「何ですと〜!!!!!」
私は叫び声と共に、グシャリと思わず手紙を握り潰した。 握りつぶした後に、一応陸軍からの手紙だったことに思い出した私は慌てて手紙を伸ばした。 すると、紙と紙が密着して気が付かなかったが紙がもう1枚存在している事に気が付いた。
(おやおや、まだ続きがあるのか?)
私は、気を取り直して紙をのぞき見た。 其処には、私がよくしる…知りすぎると言っても良い人物の筆跡で綴られていた。
『拝啓 可愛い妹
突然のことで驚いたか?だよな〜それは、驚くよな。ウンウン…。兄ちゃんの大推薦だぞ☆ 良かったな〜、家業が役に立つし〜帝都で暮らせるんだしお得だろ♪ 逃げ切れるものなら逃げるも良し。ただし、月組はそんなに甘くないから心するんだぞ。 そうそう土産だが何が良い?本場のフランスパンか?う〜んワインも捨てがたいか…。 何はともあれ…楽しみに土産を待ってろよ。
月組隊長で
の大好きな兄加山雄一より』
|
巫山戯てる…。 正直言ってその一言しか出てこなかった。 さらに米田中将の手紙なんかより(何かよりと言うのは失礼なのだが…)兄の手紙が衝撃的で、立ちすくむ羽目になった。
(どうして、私ばかりこんな目に…)
思わず恨み言ばかり浮かんでは消えた。 その手紙を貰った数日後。 私はさっさとこの招集から逃げるべく、準備をしている…そんな時。 突然現れた…帝都の使者に、半ば強引に米田支配人の元に連れて行かれたのであった。
この事で私の格言はまた新たに1つ加わる事となった…。
『人災は忘れた頃に…兄と共にやって来る』と…。
おわし
2003.4.18 From:koumi sunohara
|