結局彼の手の上です
私の幼馴染みは、我が道を行く人である。無理難題を解決したり、ごり押しでもやりとげる程のパワーゲームに燃える人である。
MなのかSなのか?と言われると間違い無くSと言える我が幼馴染み殿は、何故だか信者が多い。
眉目麗しいと言うより、女性的な顔だちなのだが、彼…有定修也は通常の学生では考えられない、姫と言う擬似的アイドルの様な事をやってのけていた。女装した姿がこれまた、並のお嬢さん方を束にしても敵わない美少女ぶりで、毒舌であっても信者が多い。
そう言った環境が拍車をかけたのか、当たり前の様に、誕生日やクリスマス…イベントは欠かせないと思いこむのは如何なものだろう?
バレンタインが近づく、ある休みの冬の事。
何故か、相変わらず我が家にやって来てのんびりしている幼馴染み殿が、何となしに私に声をかけてきた。
「ねー」
「ん?」
「今年のバレンタインはどんな感じのチョコくれる?俺としては、ケーキ系が良いんだけど」
夕飯のおかずのリクエストさながらに、修也の貰うありきの言葉に私は、目をしばたかせた。
「沢山貰うから、要らないでしょ?」
「ん?、何言ってるんだい。俺は姫だから、あげる側でね。寧ろバレンタインは関係無んだよね」
サラリと言う修也に私は、ため息を吐きながら言葉を紡いだ。
「でもホワイトデーには貰えるんでしょ。つーか、普段も大量に貢ぎ物貰えるから、今更私から要らないじゃない」
「そんな事無けど。でも、毎年くれてるんだから、くれるでしょ」
「まぁ、あげるのは吝かでは無けどね。何気にリクエストしてない?」
「どうせなら、食べたいものを食べたいのが人の欲だからね。だって欲しく無ものより欲しいものでしょ」
「まぁ…そりゃーそうだけど」
(ん?何か話すり替わって無?)
そんな事を思いながら、私は俺様気質満載の幼馴染み殿を見遣る。
「どうせ、が抵抗しても、結果は何時も変わらないんだから、素直になればもう少し楽になるよ」
サラリととんでもなく、物騒な物言いに私の頬は引き攣った。
(それなら、少し遠慮してくれても良いじゃない)
どうせ叶わない願いを心の中でひとりごち。
「まぁ…まぁいいよ。分かった。で、修也は何処のチョコ屋のケーキが食べたくなったの?」
諦めの境地で私が、そう尋ねると修也は瞳を何回かしばたかせた。
「ん?チョコ屋?特に無よ。強いて言うなら、ブランドのチョコ系のケーキかな。ああ、に判りやすく言うと、の手作りが食べたいって事だよ」
ニッコリと綺麗に微笑みながら、修也はそう言い切る。彼の信者がこの姿を見た
なら、悶絶する事間違い無。
しかしなから、私はこの微笑みやら、黒い笑みを長年見続けているわけで、正直これに騙されるつもりは無。
その事は、修也本人も重々承知のはずなのだが、彼の癖なのかよくそう言う表情をする。
(そんなに手作り食べたいなら、修也の周りに頼めば一発なのに…何でまた私なのだろう。別段、料理が得意でもお菓子作りが趣味じゃないのに)
しみじみ思いながら、当人をながめれば何処で手に入れたのか分からない、バレンタイン向け手作り特集の雑誌を眺めている。
(やっぱり…本気なのね)
思わず出そうになるため息を押し込めて、私は雑誌を見る修也に声をかける。
「あのさ…何で、今年はケーキ系なの?正直、自信無んだけど」
「ん?別に失敗しても気にしなくていいよ。どんな風になってもの作った奴は食べるから安心して作っていいよ」
「いや…なるべく善処するけど。何というかわざわざ、リスクを背負う様な事してるのか意味不明なんだって事なんだけど」
「でも、お陰で料理やお菓子上達したでしょ。俺のへの愛がよくわかるだろ」
(愛は兎も角…何かにつけて手作りを作らされていたのは…そういう事だったのね)
過去の出来事が修也の言葉で一気に思い出された。
言った本人は、楽しそうに私が作るであろうチョコレート菓子の候補に付箋何かを付けていた。
(何とか食べれる物にしないと後が怖い…)
楽しそうな修也を尻目に私の気分は下降していった。
必死にチョコ系のケーキの練習にあけくれる事になるのは、近い未来の話である。正直、しばらくチョコは見たくないと私は痛烈にそう思ったのであった。
おわし
2010.3.4.(web拍手掲載2010.1.31.〜) From:Koumi Sunohara