花の色は
−戻る事の叶わぬ時という宿命−







昔同期の日本人がやっていた百人一首というモノの一句にも、時間の無情をさを歌った句が有るように…時間はやっぱり等しく流れるのだと…最近やけに思うようになった。


時間は誰にでも等しく流れる。
同じ様な日でも、必ずしも同じ日は訪れることは無い。
それはモノで有ったり、者や物にも言える事。
不変など無く、常に変り行く。


それは俺の身近に存在する、ガンマ団にも言える事だ。
マジックの兄貴からシンタローへ。
新体制へと受け継がれていく。変革と共に…。



それにシンタローの率いる新体制のガンマ団には…昔のただ壊すことだけを考えていた体制とは大きく異なって居た。


サービスや高松も、第一線から退き…ジャンも交えて、好きな研究とか…まぁ色々と青春を楽しむつーのかね、そんな感じで半隠居状態。

兄貴で…前総帥である、マジック兄貴も気侭な隠居暮らしをしながら、息子…(まぁ〜本当の息子では無いが…兄貴が息子だと思っているのだから息子で良いんだろうが)達のサポートに周り外堀を固めた。


そんな周りの慌ただしさを見て、俺は全てが急速に変わってゆく感じがした。
何というか…変わらないのは自分だけと言った感じだった。


それに伴い、居心地の良かった場所も少しばかり居心地が悪くなるのに気が付いた。
だから俺は、ガンマ団を去ることに決めた。
現総帥であるシンタローには、告げず…兄貴で有るマジックだけには臭わすように伝えてあった。


返事はとくに無かったが、俺の気質をしっている兄貴は何も言わずに頷いた所をみると、承諾したのだろうと俺は勝手に解釈し、去る準備に費やした。


水面下で、着々と去る準備をする俺に…一つだけ気がかりが有る。
らしくもないが、友人でも有り…同期でも有るその人物の事。
別に恋人という間柄では、無いが…何となく其奴… には、此処を去る事は伝えなくてはならない…そんな気がした。




ほぼ準備も終わり、後は去るだけとなった頃俺は燻っていた思いを解消するために の居る研究室に足を向けた。
そして…ノックもせずに、研究室のドアを開ける。
軋む音を辺りに響かせながら、ゆっくりとドアは開かれ…目当ての人物のシルエットが目に入る。


(声をかけよう…)


頭ではそう思っているのに、何故か俺が紡いだ言葉は にかける声では無く…。
最近思うようになった…あの一句だった。


「 花の色は うつりにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに」


俺の紡ぐ一句の音に気が付いたのか、デスクに向かって仕事をしていた は驚いた様に顔を上げて、戸口に立つ俺の姿を確認して言葉を発した。


「ハーレム…」


「よう!」


気が付いて俺に声をかける に俺は、軽く手を挙げて返事を返す。
そんな俺の様子に、 は眉を少し寄せて訝しそうに言葉を吐いた。


「ハーレムが小野小町の句何て…悪いモノでも食べたの?」


真顔で呟かれる言葉は、そんなご挨拶な言葉。まったくもって可愛くない言葉で俺に尋ねる に、俺はニヤリと笑って言葉を返してやる。


「お前の心情を詠んでやったんだぜ。昔の若さが懐かしい ちゃんの為にな」


俺の言葉に、 は少し眉を寄せながら…呆れた口調で言葉を紡ぐ。


「それを言うならお互い様でしょ。同い年なんだから」


言ってから溜息なんか吐きながら、 は俺にツッコミを入れてくる。
まぁ の言葉自体が間違いでは無いから、俺も取りあえず曖昧に笑いながら少しだけ話題を変える様に言葉を紡いだ。


「俺の愛しの ちゃんに、忘れられては困ると思ってきたんだぜ。過去のモノにされては困るからよ」


「良く言うわね…そんな科白。縛られるの嫌いな癖に」


肩を竦めて は俺にすぐにそう返した。
浮かぶ表情は苦笑と呆れの表情を混じっている。


「何だよ、折角格好良く決めたってのに」


一蹴され、俺は少しいじけ気味に言葉を吐けば… の目がフッと細められる。
そして「バカね」と小さく言葉漏らし、ゆっくりと言葉を紡ぎ出す。


「結局ココから離れる人間が言う科白じゃ無いと思うけど」


「…」


思わず の言葉に黙る俺に、 は小さく溜息を吐いてから言葉を返した。


「図星?」


クスクスと可笑しそうに は笑いながら俺を見てそう短く言った。
その の問いかけに何となく俺は、黙ってしまった。


「カマかけた…だけ…なんだけどな…」


ヤレヤレと肩を竦めて は言う。
その口調が少し寂し気に感じたのは俺の気のせいだろうか…。


「まぁ…シンタロー君の体制になれば…ハーレム絡みで色々面倒事が生まれるから…もしかしたらって…思っていたけれど。やっぱりなのね」


ジーッと俺を真っ直ぐ見つめながら、 は俺を探るように見てそう言葉を零す。
俺はその瞳を見る事が出来ず、思わず瞳を反らしてしまった。
それはきっと、 の言葉の後ろにある真意に少しだけ気が付いてしまったからかもしれないが…俺はどうしても の瞳を直視することは出来ずに居た。


そんなばつ悪そうな俺に、 はちょっとだけ笑みを零して…俺から視線を外し「まぁ…内容何て結局は関係無いけどね」と小さく呟く。
のさり気ない気遣いに、俺は何とも言えない気分になり…少しだけ、不甲斐ない自分に嫌気がさした。


そんな時だった…。
不意に、俺が此処にやって来た時に読んだ小野小町の一句を が口にした。
勿論俺は呆然として、それを見るが… はのんびりとした口調で言葉を紡ぎ出したのだった。


「日本人じゃないハーレムに分からないかもしれないけれど。その句はね…確かに過去を懐かしむ句で有るけれど…時間は戻ることがないから美しいと言う風にも取れると私は思っているわ」


…」


思わず何を言うか何て考える前に俺は思わず の名前を呼んでいた。
だけど、 は気にせずに言葉を続けた。


「それに、他人によって自分の心を曲げるような友人は私にはいないもの」


不敵に笑って は俺にそう言い切った。
そんな に俺が声をかけようと口を動かそうとするが、 はそれ以上は話す気が無いのか、クルリと回転椅子を回し俺に背を向けた。
不意にとった の行動に唖然とする俺に、お構いなしに は、再び口を開いた。


「一生の別れじゃ無いだし…別れの言葉何て言ってやらないからね」


俺に背を向けたまま、は手をヒラヒラさせながらそう言った。
俺はそんな らしい仕草に小さく笑みを零しながら、彼女に習うようにしばしの別れの言葉を口にした。


「ああ。じゃーちょっくら出かけてくるわ」


と…。



の元から帰った足で、俺は部下達の待つ飛行艇に向かった。
部下達は慌ただしく動く様子も見せずに、何時も通りマイペースな動きで各々方の荷物を積み込んでいるようだった。
まぁ〜そんなに、荷物が有るわけでも無いからかもしれないが。


俺もそれに習うように、ゆっくりとした足取りで少ない荷物を



何時に無く表情の読みにくい、部下…マーカーが相変わらずのポーカーフェイスのままで俺の目の前に佇んでいた。
それに俺は、不覚にも気が付くとが出来なく…ぼんやりとした表情でマーカーを眺めた。


(やだね〜…集中力散漫かよ)


心の中で毒づきながら、俺はなるべく表情を出さない様にマーカーを見返す。
そんな俺の心境を知ってか…知らずか…。
マーカーは、短く間を置いてから言葉を紡いできた。


「隊長…良かったんですか?」


珍しくマーカーが俺に尋ねてきた。俺が先まで の所に行っていたのに気が付いたのかご丁寧に、“何が”と言う事は言わずに…。
そんな目敏い部下に俺は少し、何とも言えない気分に陥るが…平然とした表情でマーカーを見る。


(まったく…抜け目のない野郎だな…本当に…)


そんな事をこっそり思う。
だが…俺はその問いに口の端を少し上げただけで、答える事はしなかった。
それを見たマーカーは俺がその問いに答える気が無い事に、気が付いたのか…他のメンツの方に静かに向かった。



マーカーのさり気ない心配りに、俺はガラにもなくホッとした。

(抜け目が無いが…深いところまで追求しない所が…彼奴の良いところだよな…。本当に良い部下に恵まれたモンだ)

ポケットに入れていた煙草の箱から一本抜き取り、自然の動きの様に煙草を吹かす。
肺に入る紫煙の煙を感じながら、俺は心底そう思う。



一息つくと、俺は の言う通りガンマ団を後にした。








本当は俺自身が…以上にあの頃に戻りたかったのかもしれない




戻ることの叶わない…あの日の自分に












おわし


2004.6.28. From:Koumi Sunohara


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