歩いたあとには

−考え方を変えれば世界はこんなにも明るかった−





記憶が戻り…パプワ島から離れた僕は…懺悔したいことだらけだった。
何も知らないでいれたぶん…罪悪感ばかりが募った。
それは、居ても良いと言ってくれた兄が行方知れずというのも大きな事でも有るし…仲良くしてくれた友達の大事なモノを壊していた事実と直面した所為も有るかもしれない。


それでも…そんな僕にでも時間は等しく流れてゆく。
だから…後悔や悩んだりしてる暇など無いんだ。
僕はお兄ちゃん達を助けに行きたいと思ってるから…。


その為にサービス叔父さんにお兄ちゃん達を助けに行くために修行をしてもらっている。
辛いと思う…苦しいし…自分の不甲斐なさが情けなくて…思うところは多々有る。
そんな折り…僕はサービス叔父さんの親友と呼ばれる一人の人に出会った。


サービス叔父さん同様。
その人は中年と呼ぶには、少し首をかしげてしまう程若く見える人だった。


その親友さんは、サービス叔父さんと一言二言しゃべると僕の方に風のように突然現れた。
そして、独り言の様に言葉をポツリポツリと紡ぎ出してきた。





「無駄な事など何も無いよ」



「何かしら役に立つ事が有るのだから…」



「はたまた…」



「教訓とも呼べるものになるかもしれないからね」







何処か悟りきった瞳で、その人は言う。


僕が眠っていた時間も。
不可抗力であれ…パプワ島を破壊してしまった時間も。
パパに閉じこめれていた時間も…。
パプワくんと過ごした一時も…。


あの人は柔らかな笑顔で先の言葉を口にした。
あの人…春日江さんと言う…大人は皆の口にしなかった…僕にとっては以外すぎるその言葉。
[全ての時間が無駄では無い]と言う…。
それは僕の周りでは聞かなかった科白で…正直僕は驚いた。


だって…。
お兄ちゃんや叔父さん達は、過去を忘れて未来をと願う。
けれど、江さんは違う。
今も…昔も…その先も…全て過ごした僕が居て…コタローだと言ってくれる。


悪い事をした事はどんな事をしても覆らない。
楽しいことも…同じ時間に戻れない。
だけど…それらを経験して、今も僕が居ると…江さんは言う。
そして良い経験になると…自分のした事に罪悪感などがあれば尚のことだと…。


「歩いた先に何かが有るんじゃ無い。

歩いた後過ごした時間…それら全てが次に進む自分の何か役立つ…。

何十年先でもさ」



僕の足下を指さして江さんはそんな言葉を口にして…一旦言葉を切る。
そして…。


「だから下ばかり向かずに、色々な思いを抱えて歩んでいって欲しいと思う。

それがどんなに辛い事であったとしても…君ならきっと出来るから。

何せ君は周りに恵まれているからね」



今度は空を指さして、迷い無く僕にそんな言葉をくれた。
そして、来たときみたいに風の様に去っていった。
気が付けば…サービス叔父さんも江さんと一緒に居なくなっていた。


珍しく休憩と呼ばれるような時間が降って湧いた僕は…物思いに耽ることにした。
江さんが去った後も僕は、江さんの言葉を頭の中で繰り返していた。
何だか江さんの言葉で僕の中で燻る後ろめたさが…少し和らいだような気がしてからだけど。


だけど…僕には江さんの言おうとしている事のなんパーセントも理解できていない。
それは、他の人に言われなくても分かってる。

けど…。

僕が歩いた後には、何が生まれるのか分からないけれど。
それでも僕にも何か残せているのなら…とても嬉しいと思う。



だけど今は…今までの自分とこれからの自分の為に少しだけ強くなりたいと思う。
大事な人達を守れるように。
何時か…歩いた後に何かを残せるように。



END


2004.8.17. From:Koumi Sunohara



★後書きと言う名の言い訳★
本当に短いです…自己最短かもしれませんが…。
兎も角コタロー君から見た江さんの印象です。
なので独白気味ですね…時間としては…コタロー君がシンタローさんを助けに行くために修行する辺りかしら。
こんな駄作ですが、楽しんで頂ければ幸いです。




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