【Jack-in-the-box】





最近少し寒いなぁ〜とぼんやりと思った俺は、不意に部屋の窓を見た。
窓には部屋の暖かさと外の寒さによって出来た結露が寒さを物語っているようで…見ているだけでも寒くなった。
そのギャップによって、今は冬だと改めて実感し…あらためて俺は電子カレンダーに目を向ける。
電子カレンダーは12月を示していた。


(もう12月か…)


しみじみカレンダーを見ながら俺はそう
仕事柄…まぁ〜研究所に籠もり仕事をする俺は…あまり外に出ないのでクリスマスの有る12月の実感がイマイチ湧いてこない。
忙しなく過ぎゆく時間に少しだけ、溜息が零れた。
少し哀愁を感じつつも仕事をしなくては何事もやってはイケナイので俺は仕事を再び再開させた。
仕事は年末の為に普段より多いように感じる。
だが毎度の事なので、半ば俺は諦めたように仕事をこなす。


(ここ数年、クリスマス何てまともに祝ってないなぁ〜)


軽快にキーボードを叩きながら、ぼんやりと思う。


(クリスマスを祝ったのは…グンマやシンタローにロボット工学を教えていた時期ぐらいだったろうか?)


少し霞みかかった記憶の糸を手繰る俺。


(あの頃は、プレゼントに悩んだり…どういった趣向で祝おうか?などと悩んだなぁ〜)


過去を振り返りながら、俺は仕事をこなして行く。
その時だった…。
ピーンポーン。
不意に鳴ったチャイムの音に、俺は思考を現実に戻す。
そして…。


「ハイ、ハイ今出ますよ」


ついつい…そんな言葉を呟きながら俺は呼び鈴に呼ばれるように玄関に出向いた。
中央の部屋とは違い玄関は冷え切り、少し手が悴む。
小包を持って配達員さんの吐く息も白い。

あんまりにも寒いので…印鑑を手早く押して、俺は荷物を受け取るとさっさと中に舞い戻る。
理由は寒い風が体に浸みるから…。
我ながら爺臭い理由だと思いながらも、若くない体には結構冬の寒さは堪える訳で…そう思っても仕方がないと思う。

そう言うわけで…暖房が程良く効いた部屋で俺は早速包みに手をかけた。
ペリペリと割と小さめな段ボールに封をされてる太いセロハンテープを外しながら、俺は差出人の名に目をやった。

差し出し人の名は、旧友の高松の溺愛する…俺の元教え子のグンマの名が書かれていた。
一体何だろう?と思いながら俺は包みをゆったりと開ける。

そして…出てきたのは手作りのアドベントカレンダーだった。
紛れもなくソレは…昔俺が、グンマやシンタローに作ってやった物と酷似して…酷く懐かしい。
それを手に取り、懐かし思いがいっぱいでいっぱいになりながら(作ったっけな…クリスマスって何かを教えるのにってさ…。もうあれから数年経ったんだよな…それにしても高松辺りが、グンマに入れ知恵でもしたかな…それにしても何でまた今頃何だろう?)そんな事を思いながら、久しぶりに拝むことになったアドベントカレンダーと俺はクリスマスまでの24日間…所謂『待降節』を過ごすことになった。




懐かしい気持ちで毎日俺はアドベントカレンダーの小窓を開いていった。
小窓を開ければ、チョコレートやガムなどのお菓子やクリスマス関連の小物が出てくるので…俺は一種のゲーム感覚でアドベントカレンダーを楽しんだ。

それにカレンダーから出てきた甘いお菓子は、研究の煮詰まった脳には大変有り難いモノだったし…クリスマスにちなんだ小物は、時間の感覚のマヒした俺に正しい時間を教えてくれているようだった。
そしてアドベントカレンダーと向き合ってから思うことが有る。


(日捲りもこの調子だったら、365日楽しかったりしてな…日常では無いからこそ楽しいんだろうな…)


何ぞとしみじみ思いながら、俺は改めてカレンダーを見る。
気が付けば窓は残り数個減ってゆく…その御陰で一日一日着実に待降節過ぎて行くのを俺は感じとることが出来た。


(早いものだな〜もう小窓も一桁台を切ってしまったんだな〜)


俺は電子カレンダーでは無く、グンマの手作りカレンダーを見て心底そう思った。


(さて、今日の小窓を開けますかね)


仕事前の一仕事とばかりに、俺は習慣となったアドベントカレンダーに手を伸ばす。
少なくなった窓に何やら哀愁を感じるが…開けるのも又楽しみなのだ…窓も今日を入れれば残り3個クリスマスまで大手と言った所。

本日の開けるべき22日の小窓をゆっくりと開ける。
すると…四つ折りにされた白い紙がハラリと落ちた。


「ん?今日は紙だけしか出てこないのか?」


四つ折りの紙を拾い上げながら、俺はアドベントカレンダーの小窓を凝視する。
凝視したところで、現状は変わる筈もなく…22日の窓はポッカリと穴が空いていた。
別にお菓子や小物が欲しかった訳では無いが、少しばかり紙だけの出現に拍子抜けしてしまう俺。


(まぁ〜良いけどね。クリスマスにちなんだ話でも入ってるのかね)


本来のアドベントカレンダーでも多く見られるその様な類の物が書かれてるのかと思い、少しワクワクしながら紙を開いた。
しかし、開いて見ても白い紙。
文章の欠片も見あたらない。

訝しく思いながら、紙を隅々まで確かめる。
が…やっぱり何も変哲もなかった。


(はずれ…はずれなのか?それとも…入れ忘れ…もしくは…入れ間違いだろうか?)


ふと…そんな事が頭に過ぎりつつも、教え子グンマのの背後に居る旧友高松が頭に浮かぶ。


(入れ忘れって事はあり得ないよな。何せ背後には高松が居るんだし…。さて、コレにはどんな仕掛けが有るのだろう…)


俺は紙に仕掛けられたものを探そうと紙に再び目を向けようと
フワッ。
紙が暖房の空気を循環させている扇風機(※余談であるが正規のモノは高いので、夏場使っていた扇風機を利用している…同じ効果が有るから)の風が紙を攫っていった。


「あっ…」


手を伸ばすが、一足遅く紙は部屋を暖めている要的存在の暖房の上にヒラリと着地してしまっていた。


「あちゃ〜…暖房の上に乗っちまったか…」


俺は頭をポリポリ掻きながら、溜息混じりにそう言うと…暖房の上に上がってしまった無地の紙に手を伸ばす。
すると紙は暖房の熱で、ちょっぴり色が変色しかけていた。


「色変わっちまったか…ん?」


言いながら俺は、紙に起こっている異変に気が付く。
変色と共に、何やら薄いが文字と言えそうなものが微かに浮かんでいるように見える。

俺は、紙が変色するのを構うことなく暖房の熱で少し温めて見ることにした。
そうするとどうだろうか…先程まで何も書かれていなかった白い紙に魔法が懸ったように文字が浮かび上がってきた。


「あぶり出しかよ…」


俺は思わず溜息混じりにボソリと音にして出していた。
そして…こんな手の込んだ事を指示したであろう、友人に心底呆れながら。
早速内容を読むべく、紙に目を向けた。

あぶり出しで出てきた言葉は、薄く実に読みづらかったが…読めないほどでは無いので、俺は腰を落ち着けてじっくり読むことにした。


「普通に書いてくれよ…」


読み終わった俺は、思わずそう口にした。
これだけ手間をかけさせて、秘密文章の内容は実にシンプルなものだったのだ…。
その内容というのが、クリスマスイブ…言うなれば24日のクリスマス会のお誘い…招待状で…グンマが20歳になった年でお酒も飲めるようになったから…どうせなら一緒に飲まないか?という誘い状である。


(それにしたって、急な招待だよな…)


俺は解読した招待状を見てそうつくづく思った。
でも何の因果なのか丁度24日の予定は無い。


(断る理由も無いしな…行くしかねぇ〜よなぁ〜…教え子からの誘いだし)


飾り気のない割に手の込んだ招待状をとカレンダーを見比べながら…教え子と旧友の粋な計らいに俺は嬉しくも少しばかり頭を悩ませそうだ…。
何せクリスマスまでに、日数が3日をきってしまっているのだから。


「さて、クリスマスには何を持って行こうか…」


友人と教え子へのプレゼントを探す為に、雪が舞い踊る外へと足を踏み出した。



おわし


2003.12.7. From:Koumi Sunohara  A PALE MOON <3rd anniversary plan>




★後書寧ろ言訳★
3周年企画でクリスマス関連で書いた…ミドルズシリーズでクリスマスのお話です。
名前が出ていなので、夢というのか謎…楽しんで頂けたかは心配です。
独白状態ですし…。

それでは、ここまで読んで下さり有り難う御座いました。




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