何気ない日常 |
<前編> |
何を基準に…人は幸せだというのだろうか?
地位や名誉?
誇り?
それとも当たり前の日常?
基準がさっぱり分からない。
「幸せって何かな?」
でも私には、それが本当に幸せかどうかななって分からない。
時が経つにつれて、変わってしまった私。
無表情で冷酷で…。
感情を捨てきって、任務をこなす。
忍者としては必要なモノ…。
暗部に居れば尚のこと、そんなことは普通のコト。
だから別に気にしてはいなかったけれど…。
もしかしたら、幸せには代償があって…。
その代償を払ったのかもしれないのかな〜?何て思う。
感情や表情という代償を
人並みの幸せ
地位や名誉
揺ぎ無い自信…と誇り
当たり前の事
「幸せって何だろう?」
たった1つの疑問が…私の中の何かを変える。
小さな疑問が…燻りだしただけなのに…。
私の中で何かが変化しはじめた。
その時から…。
築きあげたものが…急に音を立てて崩れた…
まるでバビロンの塔が雷で崩れたように…
それは、驚く程の衝撃だった
初めて感じる不思議な感覚。
そんな出来事だったよに私は思う。
出来事は…ひょんなことから始まった…。
私コト… がたまたま仕事というか任務もなくぼんやりと、木の葉の里を散歩していた時だったと思う。
ふいに通ったアカデミー前で、私は賑やかな声を聞いた。
「ねーねイルカ先生〜ってばよ。聞いてんの?本当にイルカ先生のお蔭だってばよ」
日本語の文法なんて、無視と言った形で金髪の少年が、鼻に傷のある先生らしい人物に嬉しそうに話かけているのが、私の目に移った。
大方その鼻の上に傷がある方が“イルカ”と呼ばれた先生なのだとぼんやりと私は思った。
(先生と生徒ってところかしら。それにしても、若い先生。て…私も外からみたら、若い上忍なんだろうけどね)
私は心の中で、そう思った。
そう…ただそんな風に、客観的に思っただけだった。
そんな風に思ってる内にも、どうも二人の会話は進んでいるようだった。
「自分の力だろ、ナルト。お前が一生懸命に修行したからだろ?」
イルカ先生という人が、優しい笑みを浮かべてそんな事をナルトという少年に言った。
(今にしては珍しい先生…。自分の事をひけらかしたりしてなくて…生徒自信の力だなんて言うなんて)
私は何故だか、この二人から目が離せなくなっていた。
(何でこんなにも、気になるのだろうか?興味?を持ったとでも言うの?)
今の自分に迷いなんて、無く。
自分の仕事を淡々とこなしてきた。
任務には、情や情けなどは命取りだから。
でも最近私は、そうやって淡々と任務をこなすことへの疑問…自分自身への迷いが私の中で起こり始めている。
『イマワタシハ、シアワセナノカナ?』
2人の表情や空気を感じて私の中で、そんな疑問が胸の中を占め始めた。
あの日から、私は事あるごとにアカデミーへ足を向けていた。
イルカ先生とあのナルトと呼ばれた少年を見に。
何時も接触している訳では無かったけれど、大体は一緒に居るところを見かけたりする。
その度に、私の中では…アノ疑問と…何ともいえない暖かな気持ちが溢れてきた。
見ているだけで、和むというのだろうか…。
普段持ち得ない感覚が私の中に溢れてくる。
でもその感覚が嫌では無い…とても不思議な気分だった。
(今日も見ることが出来るかしら…)
私はぼんやりとアカデミィーを遠巻きに見つめながら、そう思う。
ボーっとしている為か、私の注意力がどうも散漫になっていたのか…後ろに来た気配に気がつかなかった私。
「おや ちゃんじゃない〜か。奇遇だね〜」
間延びした声で、考え事中の私に銀髪の男が声をかけてきた。
それによってやっと、私は周りへの注意が散漫だった事に気がついた。
(気がつかない何て…。しかもよりにもよって…こんな時に…カカシ先輩に見られるとは)
私は声の主事…先輩上忍…はたけカカシ先輩を見て、顔を顰める。
「朝っぱらから、不景気そうな顔して〜どうしたの ちゃん」
何を考えているのか、ぱっとみて良く分からないポーカーフェイスを浮かべるカカシ先輩。
(先輩の方が朝にそうぐわないような、眠そうな顔してるくせに…)
心の中で、毒づきつつ私は無視を決めこんだ。
どうもこの先輩は、人をおちょくるのが好きなのか…何なのか分からないが…。
取り合えず私にとって、このカカシ先輩は苦手な先輩なのである。
まぁ〜強さとかは、尊敬に値するのだけど。
(今日は特に会いたくなかったのだけど…まったく神様と言うのは意地悪っていうのわ本当なんだ)
人知れず溜息を零したくなる私。
そんな私を見て、相変わらずカカシ先輩は飄々とした表情のままで私を見る。
「怒った?いや〜悪い悪い。どうも俺の悪い癖ミタイダネ」
“はははは”と笑いながら、悪びれる様子もなくカカシ先輩は私にそう言ってくる。
「別に、気にしてません」
私は短く先輩に返す。
「おんや、相変わらずツレナイね ちゃん」
“お腹でも減った?人間食べる事は重要何んだから食事抜いちゃ〜駄目だよ〜”と付け足して私を可笑しそうに見た。
「先輩に、ツレテも仕方がないでしょ」
溜息混じりに私は、カカシ先輩にそう言った。
「手厳しいね ちゃん」
苦笑を浮かべて、別に堪える様子もなくカカシ先輩はそう答える。
「先輩程じゃないですよ」
「ん〜っ、まぁそうだろうね」
笑いを堪えながら、カカシ先輩は独り言の様に呟く。
愛読書『イチャパラ』を先輩が手持ち草に弄りながら…。
「で… ちゃんは何してるわけ?ここアカデミーでしょ」
「散歩ですよ」
私は短く先輩に答える。
「散歩ね〜ふーん」
含み笑いを噛み殺して、カカシ先輩は意味深にそう言った。
(何か…嫌な笑い方…)
私はカカシ先輩の様子に少し嫌な気分になった。
そんな事等、先輩はお構いなしに口を開く。
「で…何か面白いものでも、有った? ちゃん」
飄々とした口調の中で、視線だけは何かを捕らえていると言わんばかりの視線でカカシ先輩は私の言葉を待った。
「別に」
とてつもなく短い言葉で切り返す私に、カカシ先輩は気にした様子は無かった。
どちらかというと…益々確信を深めたという雰囲気を持っている。
(一体この妙な自信はどこから出てくるのだろう?伊達に私より長く生きているからこそなのだろうか?)
何て私が心の中で思っていると、カカシ先輩はぼんやりと言葉を吐き出した。
「そうかな〜」
「そうです」
短く言葉を切ってしまう私。
これ以上は墓穴が掘りそうだから…サッサと終わらせようと思った所為も有るのだけど…。
それなのに…(溜息)。
「ふーん。まぁ ちゃんがそう言うならそう言うことにしておきましょうか」
「そう言う事で良いです」
私は溜息混じりに、そうカカシ先生に答えを返した。
(まったく…何を考えているのやら…私には皆目検討がつかない…だから暗部が務まっていたのね…)
「それより、 ちゃんイルカ先生とナルトに興味持ったの?」
「…」
カカシ先輩の言葉に私は思わず言葉が出てこなくて、黙り込んでしまった。
(そう言うことにしておくって言ったクセに…結局、話を蒸し返す上に…何で分かるのよ)心の中で人知れず毒づく私。
「何で分かったの?って感じでしょ?」
実に楽しげにカカシ先輩は笑う。
「覗き見ですか?」
ヤレヤレ。
私は憮然としたした態度で、カカシ先輩に答える。
(覗きじゃなくても、勘が鋭いから…気がついたのかもだけどさ)
何てまたまたひとりごち。
「たまたまね♪」
ニヤリと意味深な笑みを浮かべて、カカシ先輩は楽しげにそう言った。
私はこれ以上、はぐらかしても…おそらくどんな手段をとってでも吐かせる気が目に見えたので…仕方が無く口を開くことにした。
「正直言って…興味は持ちましたよ。でも…」
「でも…?」
「正直私自身も…良く分からないんです…ただ興味を感じただけ」
私は思った通りの言葉をそのまま口にした。
これ以上はぐらかしてもかえって、カカシ先輩の知的探求心に火を付けるだけだと…何となく感じたから。
それに…自分で考えるより…、一癖も二癖もあるこの先輩上忍に尋ねた方が何か分かるかもしれないと…直感的に感じたから。
そして私は、重い口を開いた。
「先輩、1つ聞いて良いでしょうか?」
私の問いにカカシ先輩は楽しげな目で私を見た。
「何?俺で分かる事なら、教えてあげるよん♪」
カカシ先輩の承諾の言葉を聞いた私は、心の中の疑問の一つを口にすることが出来た。
「今…幸せですか?…いえ…何を基準に幸せなのですか?」
「んー難しい質問だね〜」
普段の飄々とした表情とは裏腹に、至極真面目な表情をしてそう口にしたカカシ先輩。
しばらく何とも言い難い、静かな沈黙が私とカカシ先輩の間に流れた。
不思議とその時間は長いと感じず…寧ろ…ゆったりとした時間が流れていたような気がする。
普段飄々としている先輩上忍が、私の質問に真剣に考えてくれている所為なのかもしれない。
どれくらい沈黙が続いただろうか…。
短い時間には違いないけれど…、何だか長く感じてしまう。
でも時計の針はちっとも進んでいない。
カチカチ。
時計の針が時間を打つ音だけが聞こえる。
そんな感じに、私とカカシ先輩の間に流れた沈黙を破ったのは…やっぱり沈黙を始めたカカシ先輩だった。
「俺は今、満足してるよ…でもそれは、何故かというのは説明できないな〜」
何処を見ているですか?
そんな事を聞きたくなるような、遠くを当てもなく眺める感じに見つめながら…カカシ先輩はボンヤリと口にした。
「何つ〜の…その答えばっかは、自分以外は出せないってね」
“永遠のテーマって奴じゃない?考えたって出るもんじゃ無いじゃーないものって奴なんだよ〜 ちゃん”と珍しく困った表情で笑いながらカカシ先輩はそう言った。
私はその言葉を心の中で噛みしめながら、心底思った。
(やっぱり難しいですね)と。
その私の心理が読めたのか、カカシ先輩はまた言葉を紡いだ。
「今 ちゃんが、興味を持ってる…その人なら何か教えてくれるんじゃない?」
「聞ける訳無いじゃないですか」
ふいに言われた言葉に、溜息混じりに私は短く言葉を返す。
「そうかな?きっと教えてくれると思うけどな〜。イルカ先生人が良いし…邪険にはされないと思うけどね俺」
カカシ先輩の言葉に私は少し眉間の皺が寄るのが分かった。
「どうして、カカシ先輩は難しい要求ばかりするんです?」
「滅多に感情なって出さない、 ちゃんがお悩なんて面白そうじゃ無い」
本当に面白いと思ってやっているのか…何か別の意図が有るか分からない表情でカカシ先輩は言う。
「先輩…」
私はジロリとカカシ先輩を睨んで、低い声で先輩に抗議をすべく口を開こうとしたら先輩の言葉に遮られてしまった。
「今のは冗談半分だよ。それにね、同じような水の人間では分からないものが…違う水の人間が分かったりするもんよ」
「確かに…それは…そうですけど…」
歯切れ悪そうに私が言うと、カカシ先輩は言葉を続けた。
「俺とね ちゃんは似た人種に分類するでしょ。自分を隠しているところとか」
「カカシ先輩みたいに、人外魔境じゃないですよ私」
何となく言われっぱなしで、癪だったので私は悪態をついてみた。
「酷いな〜。人外魔境っていうのは…大蛇丸みたいな奴のことを言うのに〜。俺は立派な人間よ人間」
“人間”と言う部分を強調して、カカシ先輩はヘラリと笑ってそう返してきた。
「先輩に悪態ついても、結局流されるんですね」
肩を竦めて、私がそんな事を言うとカカシ先輩は「年の功ってやつだから、気にしてたら身が持たないでしょ」と一言であしらわれた。
カラカラと笑ってカカシ先輩は、ふいに真面目な顔を作り…先の話に戻した。
「まぁ〜聞く聞かないは… ちゃん次第だね。じゃ〜 ちゃんの力は…、何の為に使うの?」
「何のため?」
言われた言葉の意味に理解が苦しくて、私は小首を傾げる。
「そうだよ。力を使うのには何らかの理由があるでしょ」
「理由?」
「例えば、大事な人を守ったり…自分の身を守ったり…はたまた依頼人だったり…自分の夢の為だったり」
「カカシ先輩は…。カカシ先輩の理由は何なんですか?」
「俺は…昔の後悔を…繰り返さない為に、精一杯使うというか…使っているつもりだよ。それに、 ちゃんは、まだ若いんだからさ…。焦らないで、回り道して…ゆっくり見つければ良いじゃないの」
“俺から言えるのは、そんなモンだね。頑張れよ若者よ”と付け足して、カカシ先輩は去っていった。
「先輩だって…十分若いのに」
私は風の様に去っていった先輩の居なくなった後に、独り言のように呟いた。
(聞ける訳が無いのに…先輩は何を考えているのだろう)
カカシ先輩の居なくなったその場所で、私はぼんやりとそう思った。
話したことも無い…全然私と縁の無い…イルカ先生。
(初対面の人間に聞けるはずなんて無いのに…不躾に“幸せ”について聞くなんて…へんな宗教勧誘だと思うのが良いオチじゃないですか)
思わず溜息が毀れる。
まったくもって、良い案が浮かんでくる気配がない私は少しだけ途方に暮れたくなった。
「はぁ〜っ」
(こんなに私って弱気だっただろうか?)
らしくなく感傷的で悲観的な自分に、自問自答してみたり。
その時点で十分、何時もと異なる自分に…苦笑が浮かぶ。
(ヤレヤレ…どうしたものかしら?)
私は知らず知らずの内に、ぼんやりと当てもなく歩き出していた。
Next→後編
2004.1.28 Frmo:koumi sunohara
★中書き★ 前編イルカ先生は出ていませんが、イルカ先生ドリームです。 それにしてもNARUTOは久しぶりです。 2003.3.10に一時的UPしていて、クッキー対応にする時に、続きが書けそうに無くて…一時的外していた作品です。 何とか続きが書ける見通しが付いたので…再UPに踏み切りました。 微妙に、直しとか入れて…リミックス版です。 後編は近日UPの予定ですので、おつき合い頂ければ幸いです。 |
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