譲れない想い


中忍試験で大怪我を負って、入院した僕ことロック リー。
何日も意識が戻らなくて、医者はかなり心配したらしい。

まぁ裏蓮華を使ったのだから、仕方が無いと言えばそれまでだろうが。
自由に動けた体は、今や僕の意思を効かない。
(動け…動け)

意思を強く思って体に命じるが、体は僅かに動いただけ。
意識が戻りたてだった頃に比べれば、体は動くのだけど…やっぱり今までのような自由に体が動かない。
それが歯がゆくて、苦しくて…心が押しつぶされそうになった。

後悔はしないと、思ったけれど…。
やっぱり僕は弱いから、
気がつけば、マイナスで後ろ向きで…どうにもならない感情の海に僕は沈みかけた。



「悲観的な人は嫌いよ」


心の闇に落ちそうになった僕の脳裏に、ふいに聞こえてきた声。
懐かしくて、印象深い言葉…。


僕を一気に心の闇から引き釣り上げた。


誰が言った言葉だったのかも、僕には直ぐに分かった。
アカデミーで一緒だった、女の子 の口癖。

僕とは正反対の優等生で、いち早く中忍になった女の子。
才能…に溢れた有能な
アカデミーで出会った彼女 は、何時も凛としていた。
誰よりも輝いていた。

どんな困難でも、メゲルことなく乗り越えてきていた。
才能に驕らないで、努力を惜しまない。

天才と呼ばれる人間にしては、珍しい存在だと思う。
その は…“悲観的”な感情を見せたことは…というか…僕は見たことは無かった。
僕の憧れだった。
満足に話なんかしたこと無いけど、彼女の… のその口癖は…僕に影響を与えた。

「出来ないからって、ウジウジするのなら…努力したら?何もしないで諦めてるなんて馬鹿げてる」

そうとも彼女は言っていた。
彼女もまた努力の人だったから。
信じられると心から思った。

僕はそれから、我武者羅になって努力するようになった。

(どんな時も…諦めない強さ…僕は…その事を忘れていたんですね…)

心の中でそう思った。



何故今更、その言葉が頭に思ったのだろう。

僕はぼうーっとする頭で、そう思う。




「君はもう…もとのように、体が動かないんだよ…ロック リー君」
 
医者が意識が戻った僕に開口一番に言いた一言だった。
大きなハンマーで、頭を打たれた気分だった。

(もう…元のようにウゴケナイ?)
 
最悪の言葉だけが、僕の頭の中で反復される。
まるで何かの呪文のように。
ショックで眩暈がしそうになる。
気がついてはいた事だが…医者本人から言われるのは、やはり僕にとって辛いものだった。

「1%の可能性も無いのでしょうか…」

震える声で僕は医者にそう尋ねた。
答えを聞くのも本当は怖いけど…。
 
「それは…無いとは言い切れないが…最高でも普通の生活に戻れれば良い方だ」


目の前が真っ暗になった

何を言われたのだろう?


耳を塞ぎたくて仕方が無かった。
でも僕を現実に留めさせるかのように、声がかかる。

「リー…先生の言う事なんて気にしてわ駄目よ」

付き添っていてくれたテンテンが、僕にそう言ってきた。

「有難うテンテン…僕のことより、ネジの方に行って良いよ。あっちの方が大変なんだから」

でも僕は何も考えることなんて出来なくて…突き放すような言葉をしか出てこなかった。

「でもリー…」

言いたそうなテンテンの言葉を遮るようにして、僕は冷たい言葉を言ってしまう。

「良いから。怪我ばっかりは、テンテンが居ても仕方が無いだろ」

「確かにそうだけど」

困ったようなテンテンの顔。

「だったら、ネジの修行に行ってやってください」

「リーがそう言うんなら」

(御免ね)

その顔を見て、僕は心の中でテンテンに謝ることしか出来なかった。
  



(そうか…僕は…自分のエゴの為に…テンテンや色々な人を傷つけたんですね)

つい最近の出来事が、僕の中でフラシュバックした。
それと同時に何故僕が、 の事を思い出したのか…何となく分かった。

(…もしも…がココに居たのなら…きっと…僕を怒るでしょうね…悲観的になってって…人にあたって…)

本当にどうしようもない気持ちになって、ぼんやりと外を眺める。

(こんな…風に他人にあたるなんて、最悪ですよね…)

自嘲気味にに笑って、僕はベットに体を委ねて軽く目をつぶる。
サワサワ。
風が木々を揺らし音がなる。
そして急に音が消える。
それと同時に、先まで僕が思っていた の声が耳に入ったような錯覚に陥った。 

「大分調子は良さそうねリー」

…?)

僕は自分を呼ぶ声の主が、 であるような錯覚になった。
(コレは夢でしょうか?)と思う反面僕の意識はハッキリとしている。
 “ ”の声音は僕の方に近づき…また声を発した。

「蓮華使ったんですってね…本当に無茶をするわねリーわ」

薄く開いたカーテンの狭間から、ココに居るはずの無い人物の影が僕に入る。

(まさか…いや…こんな所に居るはずが…)

頭では居る筈が無いと思っても、僕の目の前に居るのは紛れも無く にしか見えないくて…。
(僕の中の願望が、 の幻影を作り上げたのだろうか?)等という、ふざけた考えが頭を掠める。

ですか?本当に?」

僕は幽霊を見るような目で、 を見る。
は薄く笑って、頷いた。

「信じられないって顔するのね。リー。私がココに現れたのがそんなに以外?」

 悪戯したこのように、軽く肩を竦めて が僕にそう言った。

「いえ…確かに以外だとは思いましたけど…第一君は中忍で…今は仕事中でわ…」

驚いた僕は上手く話す事ができなくて、マゴマゴとしていうまう。
クス。
は僕のワタワタした姿を見て、目を軽く細める。

「私ね中忍辞めたの」

衝撃的な言葉。
「えっ?中忍を…何故ですか?」

僕はすぐに に聞き返す。

「さぁ〜何でかしら」

そんな僕に はただ曖昧に笑うだけだった。

「そんな…誰かに嫌がらせとか…」

僕は心配になって に慌てて尋ねる。

「私は自分で選んで辞めたのよ。後悔なんて全然無いの」

僕の言葉を遮ったように は言う。
ハッキリとした口調が、本当の事なのだと感じられる の言葉。

「選んでですか?」

「そう選んで」

「でも君は中忍でも上忍に一番近いって言われて」

信じられなくて僕はそんな事を に言う。

「ねぇー上忍になる事が幸せな事なの?貴方までそんな陳腐な事を言うの?優秀とかそんな賛辞は
所詮無意味でしょ。努力も頑張りも…全て打ち消すような言葉を…リー…貴方は言うというの?」

「スイマセン」

僕はうな垂れるようにして、 に謝るのが精一杯だった。
は溜息混じりに言葉を紡ぎだす。

「それよりも私のことよりも今はリー、貴方のことでしょ。蓮華で体がボロボロ…で貴方はどうするの?リー」

「どうって?」

射抜くような の瞳に、僕はそう答えるのに精一杯だった。

「忍者止めるの?」

そんな僕へ は疑問の言葉を明白にして、投げかけてくる。

「それは…」

僕は困ったように眉を寄せた。
医者の言葉が頭を過ぎったからだ。

(下忍でも…難しいのかもしれない…でも僕は…)

口を開かない僕に、 は軽く溜息をつきながら口を開く。

「可能性なんて、私聞いて無いのよ。ロック リーはどうしたいか聞いているの」

昔と変わらない凛とした声で、 は僕に尋ねる。

「僕は…僕は忍者です…忍者を続ける」

オズオズとだけれど、僕は心の底から思う僕の気持ちを勇気を持って口に出した。

「元のようになるには、大変でも?」

「例え何が起きようとも…僕は忍者です。それが僕の忍道です

僕にしては珍しくキッパリと言ったと思う。
その言葉を聞くと、 は柔らかい微笑みを僕に向けた。

「ならそんな顔してては、駄目じゃない?私は…」

「“私悲観的な人は嫌いよ”でしたよね

の紡ごうとした言葉を、僕は先に紡ぎ出す。

「ええご名答…そうよりー。」

「ならメゲテなんて居られませんね。僕は に嫌われたくないですから」

「大丈夫よ。リーは私が言わなくてもきっと、メゲタリしても…何度でも立ち上がる…努力と強さがあるんだもの」

まっすぐ僕を見て、呪文のように が呟く。

(何時僕を見ていたんでしょうか…)

そんな疑問が僕を掠めたけど、僕は今は考えるのを止めて…僕の決意を に言うべく口を開く僕。

「あの…悲観的な僕とはサヨナラ出来るその時に、きっと君に誇れる僕で僕が元の僕に…それ以上な僕になる…。そんな日が来たなら…言いたい事があるんです…聞いてくれますか ?」

「リー…貴方は知らないでしょうけど、私結構気が長いのよ…それに…何処に居ようとも私は貴方を見守ってたんだからね…過去も…そして今も…」

は僕に満面笑顔でそう返すと、風のように僕の前に去っていった。
肯定とも否定ともつかない、不思議な謎々のような言葉を残して。

(頑張ってみるしか無いでしょう…)




その夜僕は重い体を引きずって、病院を抜け出した。
との約束を叶える為の第1歩として。
コンコン。
軽くドアを叩く僕。
その動作だけでも、体が軋む。

(やはり…まだ…体は上手く動きませんね…寧ろ…針に刺されるような痛みがする)

遠のきかける意識の中、僕は力を振り絞りドアノブを回した。
ガチャ。
ドアが音をたてて開かれる。
そこには僕の見知った先生の姿が目に入る。

「夜分遅くにスイマセン…ガイ先生」

僕は軋む体で軽く1礼をする。

「リー…お前入院中だろ…どうしてココに」

挨拶をする僕にガイ先生は驚いた表情で僕を見た。
僕は何か言われる前に、ガイ先生に向かって口を開く。

「どうしても、先生に頼みたい事があったんです。今じゃなきゃ駄目なんです」
 
程とはいかないだろうが、僕なりに精一杯に凛とした口調でそう言った。

「分かった。取り合えず話は中で聞こうリー」

僕の言葉にガイ先生は、少し困った顔をして家の中に招き入れてくれた。
立ち話では僕の体に負担がかかってしまうと、考えてくれたのだろう。

「気遣い有難う御座います…ガイ先生」

僕はもう1度礼をして、ガイ先生の部屋に入った。
決心が鈍らない内に、僕は言葉を紡ぐ。

「ガイ先生、僕はまだ忍者になりたいです」

「リー…それは」

歯切れ悪そうに、ガイ先生は言葉をそこで切った。
先生は僕の体の事を、僕よりも知っているようだった。
どれだけ、今の状態が僕の体に負担をかけているかも…。

でも僕は先生の目を見据えてもう1度その旨を伝える。

「諦めたくないんです。僕は忍者になるとい事を」

断られると思った。
まくし立てたてるように僕は言葉を紡ぐ。

「…体術をカバーするのに他の術も…もう1度頑張ってみようと思うんです。才能なんて努力でねじ伏
せます…だから先生…僕に修行をつけてください」

「リー…しかしな、それは」

先生の声は僕を諭す様な声音。

(やっぱり…断られるんだ…)

僕は駄目もとで、もう1度口を開く。

「悲観的な考えじゃ駄目だって、言われたんです。だから僕は…頑張ってみようと思うんです…駄目ですか?」

「いや駄目じゃ無いさ。リーは俺の大事な生徒だ…トコトン付き合うよ」

「有難う御座いますガイ先生」

「これから、前以上に大変なんだぞ。覚悟は出来てるか?」

ガイ先生は確かめる様に僕を見ると、そう僕に尋ねてきた。

「はい。勿論ですガイ先生」

僕は出来る限りの大きな声でで、先生に答えた。

「さて、そうと分かれば…病院に戻らないとなリー。休息は修行の第一歩なんだからな」

ガイ先生は親指を軽く立てて、眩しい笑顔を僕に向けた。



あれから病院に戻った僕は、色々な仲間や友達…可愛い後輩達の見舞われていた。

「リーさん、無理しないで下さいね。コレお見舞いです」

1輪の花を持って、リハビリに励む僕にそう言ってくれたサクラさん。

「俺てばさ…頑張って…努力の凄さを、みせつけてくるってばよ」

何か言いたげに僕を見て、何時もの自信満々の笑顔で僕を見たナルト君。
胸の置くから、熱いものがこみ上げてくる。
それは何だかとても嬉しくて、励みになったように思う。

はあれから…来てはくれませんね)

見舞ってくれる知人達を思い返して、今の自分を引っ張り上げてくれた の事を考える。
あの1回いらい、 は僕の前に姿を見せる気配が無い。
まるで、あの時に出来事体が、僕の見た白昼夢では無いかと…不安になるほど。
音沙汰も…気配も感じる事が無かった。

(やはり白昼夢だったのかな…)

そう思い直した時だった。
スーッ。
自然に吹かれた風とはまた違う、忍術を用いて出来た風が僕の病室に入ってくる。

(風…誰が…)

僕は大分動くようになった体を窓へと、動かす。
目についたのは、1輪の華と1包みの巻物。
それらを僕は軽く手にとり中身を覗く。 

『木の葉の蓮華は2度咲く…リー。貴方の蓮華はまだ1度しか咲いてはいない 2度目の蓮華が咲き乱れるその日に…頑張ってねリー  

蓮華の花と丁寧に書かれた文字。
短い文面。
でも僕にとっては、何よりも嬉しい見舞いの言葉で。
僕はそれをそっと胸に抱き、ココに居ない を心に思い描く。
そして僕は心の中で呟いた。

(見守って下い …かならず強くなりますから…)と。


木の葉の蓮華はまだ咲き誇っていないのだから…


END
                            

2002.1.23 From:koumi sunohara

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