理想は現実から遠し  


と大坪泰介…彼らの関係を一言で言い表す言葉を探すのは実に難しい。

クラスメートであり…友人であり…互いを認め合う存在。上げていけばきりが無い。

同姓であればつける言葉は、親友に戦友…そんな言葉が良く似合うが…如何せん、と大坪はお互いに性別が同じでは無い…男と女なのである。別に男尊女卑をとか…平等云々抜きにしたならば…同じように戦友であったり親友でいいのかもしれないが、古来より男女間の友情の成立の有無について議論されるほど難しい問題が国境を守る壁のように立ちふさがる。

そもそも、と大坪はさほど長い付き合いでもなければ、共に戦っている訳でも無いことも…二人の関係を説明しずらさに拍車をかける。

では、恋人というのはどうだろう?

誰しもそう思うだろうが、これもまた何か違う。
互いに、好きか嫌いかの二択ならば迷わずに好きと言えるだろうが、友愛だったり親愛だったり…様々な好意の一つなのだ。彼氏彼女の好きかと聞かれると首を傾げるぐらいの関係。

友人以上の恋人未満とも少し違う不思議な関係。

強いて例えを上げるとしたら、カクレクマノミとイソギンチャクの様な共存共栄の関係に近いのかもしれない。

しかしながら、本人達はその不思議な関係が心地よく思っている。当人同士が納得しているのならば、それで良いと思うのだが…案外そう上手くは世の中は出来ていない。

周囲の目という存在が、煩わしいものであったりするのである。

例に漏れずに、と大坪の関係を周りは勝手に恋人同士だと思い込む率が非常に高い。そうでは無い場合は、この不思議な関係に首を盛大に傾げるのである。

その顕著な例は、宮地である。

パッと見た容姿はイケメンで髪は金髪…冷たい印象と若干の軽薄な雰囲気を感じるが、その絶妙さが相まって何気にモテル人物である。残念な点は、言動がかなり物騒で…所謂一つのしゃべらなければ良い男という感じである。

そんな宮地は意外なことに、頭も良ければ運動神経も良い。まぁ…今はそこでは無く、そんな宮地は意外な事にドルオタだったりする…その為か、やけに女の子に対しての謎の理想というかが非常に高い。

察しの良い片はお気づきだろう…。

ドルオタな彼は…結構ロマンチストだったりする訳で、今は希少価値が高いであろう乙女達よりも恋人の関係に色々な夢というか妄想を持ち合わせているのである。

そんな彼からしてみれば、どうみても友人というよりは彼彼女な恋人同士にしか見えない、大坪との存在は非常に不思議な物と言うか…煮え切らない物に見えて仕方が無いのである。

(そんなに気が合うならつき合えば良いじゃねぇか。お互いに恋人居ないんだしよ)

大坪とを見るたびに宮地は思わずにはいられない。

「木村」

「ん?何だ宮地」

「大坪とって本当につき合ってないのか?」

「つき合ってないって本人達はいってるけどな。俺は知らないぞ」

宮地の言葉に木村はあっさりそう言った。

「なぁ…そんなに気が合うならつき合えば良いじゃねぇかって俺は思うんだけどさ」

「おいおい、宮地。お互いあっての事だろ、大坪もも…このままで良いと思ってるから、こうなんじゃないのか?」

木村が至極まともな意見を口にするが宮地は、納得出来ない表情だった。

「そんなに気になるんだったら、本人に直接聞けば良いんじゃないのか?」

木村が呆れてそう口にしたら、宮地はあっさりと頷き、大坪とを捕まえるべく動き出した。

(そんなに気になるもんかねぇ)

木村は宮地の様子に、心の中でそんな事を思いながら後ろからついていったのである。


宮地は大またで、ドコドカ足音を立てながら大坪との居る場所へ向かった。宮地の目には、相変わらず微笑ましそうな仲睦まじい大坪との姿を見る。

(どう考えたって、恋人同士にしか見えねぇって)

二人の姿を見た宮地はそう思わずには居られない。

しっかりと二人の様子を目に焼き付けた宮地は、ガサ入れさながらの警察官よろしく、と大坪に詰め寄った。

「あれ?宮地君どうしたの?」

宮地を目に留めたは不思議そうにそう宮地に声をかける。大坪もそんなの言葉に気づき、宮地に目を向ける。

「どうした凄い形相だぞ宮地」

「どうもこうもねぇ」

「「ん?」」

出会ってそうそう、不機嫌そうな宮地に大坪とはお互い首をかしげる。

(息ぴったりじゃねぇかよ…何なんだよこいつ等)

心の中でそんな事を思いながら、宮地はグッと堪えて二人を見やる。そして一呼吸した後に言葉をつむいだ。

「単刀直入に聞くぞ」

緊張を孕んだ口調で宮地はそう口にしてから、言葉を続けた。

「大坪とは恋人同士だよな」

疑問系ではなく、断定した口調で宮地がそう告げた。

その言葉に大坪とは、ポカーンとした表情を一瞬浮かべたが、すぐに首を横に振る。

「何言ってるんだ宮地、違うぞ」

「そうだよ宮地君、何処でそんなガセネタ掴まされたの?恋人じゃないよ」

「はぁ?」

「そんな顔したって宮地君。第一、大坪君は私の編み物のお師匠さんで、クラスメートで友達だって知ってるじゃないのさ」

不服そうな宮地には冷静にそう告げる。

の言う通りだぞ。それにしても宮地どうしたんだ?変だぞ」

大坪はの言葉を肯定しながら、宮地にそう尋ねる。

「変じゃねぇ…変なのはお前らの関係だろうが!!!!」

大坪の言葉にそう切り返す宮地に、と大坪は困惑気味に忘れられていそうな木村を見た。
木村は、そんな二人にゆるく首をふり肩をすくめて見せた。

「ねぇ大坪君」

「ん?」

「宮地君って結構夢見がちな人なのかな?」

小声で宮地に聞こえないようように、大坪とはそう会話をしていた。

「夢見がちか…どうだろうか…は何故そう思うんだ?」

「んっとね…こないだの鶴の恩返しやらごん狐やらでもそう感じたんだけど…ドルオタで…結構女の子に甘い夢を抱いていそうな言動が端はしにあったから何となくかな」

大坪の問いにはそう答える。

「そう言われればそうかもしれないな」

の言葉に大坪は何となく納得する。

そんな二人の様子は、乙女フィルターを持つ宮地には仲睦まじげ見える事は二人は想定していなかった。

「そういう所が仲睦まじいんだろうが!!!恋人じゃなければ何なんだよ、親子か?親子か何かなのか?」

「「赤の他人だが(けど)」」

宮地の言葉にと大坪はシレッと答える。
木村は何とも言えない表情で、微妙なトライアングルを見つめる。

(何で、宮地があんなに大坪達の関係気にするのかが俺には分からん)

正直一人怒っているようにしか見えない宮地に、木村は心底そう思う。

「だぁぁ…お前ら何なんだよ」

「「人だ(けど)」」

「そーじゃねぇ」

「宮地君、怒りすぎると血管切れるよ」

相変わらず怒りぱなしの宮地にはそう嗜める。

…それ絶対逆効果だと俺思うわ)

嗜めるに木村はこっそり胸の内でそう感じる。

「そうだぞ、宮地。一先ず落ち着け」

に同調するように大坪もそういう、木村はこの二人の似た対応に眩暈を起きそうになる。

(よりにもよって大坪まで…何でこの二人変な所似てるんだ…俺宮地が少し不憫に感じできた)

木村は相変わらず心の中で、二人にツッコミをいれつつ、宮地に同情するのであった。

「息ぴったりなくせして、付き合ってないとか変だろう」

「そうかな?」

「ああ。変だ!」

言い切る宮地には困った顔をして、大坪を見る。大坪も困惑気味に肩を竦める。

「だぁ〜から、そういう所が付き合ってるっぽいだろうが!」

アイコンタクトをする大坪とを見て、宮地が言う。

は、自分が思っていたことがほぼ正解である事に気が付いた。

(やっぱり宮地君女の子に甘い夢を抱いてるんだねぇ…)

心の中でそんな事を思いつつ、は心を鬼にしてある言葉をつむぐ事を決意する。

「宮地君。あんまり女の子に夢を抱きすぎるとポッキリ心折れるよ。よく言うじゃない…“事実は小説よりも奇なり”てね。恋愛小説やドラマや漫画じゃあるまいし…そう簡単に恋人になんて発展しないもんだよ」

キッパリと言いきるに宮地は石像のように固まった。そんなショックな宮地に木村は声をかける。

「宮地、の言う通りだぞ。それに、怒るだけ無駄だ。と大坪は無自覚だぞ」

「無自覚ってな…んなわけあるか」

「いや。実際居るだろ。割と乙女チックな理想を持つ宮地に悪いけど…これが現実だぞ。保護者と庇護者の関係に近い友人関係で今後恋愛に発展したら良いな〜というのがと大坪だ」

木村が正論を口にすると、宮地が憮然としながらも口を閉じた。

とりあえず木村との言葉に、納得しきれないままではあるが宮地は引き下がることにしたのである。と大坪だけがおかしいと思いながら。

宮地のドルオタ具合がこれを機に更に悪化したのは…彼らの所為かもしれない。


おわし


2013.5.7.From:Koumi Sunohara