蛇に会う
ある日、森の中熊さんに出会った…。
そんな歌がある。
森だから、そりゃ…熊にも会うだろう…虫にも野鳥にも…もしかしたら…。
「蛇に遭遇したのだよ」
そう…蛇にも会う事もあるだろう。
青い顔をした緑間が朝一番で、そんな言葉を口にした瞬間は上記の事を思った。
だから、結構素っ気ない言葉が返した。
「へー。蛇ね」
「真面目に聞くのだよ。俺は蛇に遭遇したと言ったはずなのだよ」
「聞いてるよ。蛇でしょ。干支にもなってる、ニョロニョロしてシャーって感じで。でも蛇って縁起物だよ。しかも、襲ってこなかったんでしょ?」
元気な様子の緑間に、は無事だと判断してそう言葉を紡げば緑間は心外だと言葉を荒げる。
「襲ってはこなかったが…何というか。俺の方を見て頭を上げて口を開いてきたのだよ。あれは完全に敵意ありとしか考えられないのだよ」
その状況を思い出したのか、腕に鳥肌が立ったのか…腕をさすりながら、緑間は訴える。
「そう?案外“私は悪いモノではありませんよ。縁起物の蛇でございます”とか“敵意無いので、踏まないように是非とも注意をしてほしい”とか言ってたんじゃ無いの?」
対照的にあっけらかんとん、はそう言葉を紡ぐ。
「何をそんな夢見る夢子さんのような事を。敵意があったにきまっているのだよ」
毛を逆立てた猫よろしく緑間は抗議をするが、は何時もの調子で言葉を返す。
「いやいや。だって、その蛇蜷局を巻いてなかったんだしょ。だったら威嚇してないって」
「首をもたげて口を開いている時点で怖いに決まってるだろ。俺は普通の神経を持っているのだよ。強靭な精神を持っていると一緒にされるとは心外なのだよ」
の反応が可笑しいと言いたげに緑間がそう口にするが、は首をかしげるばかり。
「ええ?そう?」
「動物園の爬虫類館に平気で入れると俺の神経はまったく異なるのだよ」
「爬虫類も結構可愛いのいると思うけど。鰐って結構可愛い顔してるし…ヤモリは家の守り神だって古来から言われてるだよ。そうそう、蛇だって…神の化身だったり、蛇神様だっているぐらい結構神聖なものなんだけど」
「神聖だろうが苦手なものは苦手なのだよ」
言い切る緑間に、は諭すように言葉を紡ぐ。
「苦手は仕方がないけどねぇ…もともと、蛇の縄張りに緑間君が行っただけなんだよ。言うなれば、他校生が勝手に入ってくるようなもんだよ」
良い事を言ったと言いたげにはそう言うと、緑間は盛大に顔をしかめた。
「他校生と蛇では脅威が違うのだよ」
「脅威って言ってものさ…んー感覚の違いだけど。山だしね」
「そう言い切れるの神経の太さがどうかしてるのだよ」
「ん。でもさ、兎も角ね、緑間君は無事だったんだし…ひとまず良かったじゃない」
ポンと手を一つ打って、そう締めくくるに緑間は納得がいかない表情を浮かべる。
「まぁ…きっと其の内良い事あるからさ…蛇の怖かった事はサーッと水に流してしまおうよ緑間君」
納得いかない緑間にはそう言って肩をポンポン叩いた。
「適当に言っているだろ?」
「適当っていうか…そもそも生で蛇に遭遇する確率の方が少ないんだよ…レアでしょ」
「レアって嫌なレアなのだよ」
顔をしかめる緑間。
「それに、よく新聞の折り込み広告でも載ってるでしょ。蛇柄の財布を持つと宝くじに当たるとか…金運アップするとか…運気が上がるとか。んで、蛇の抜け殻をわざわざ財布に入れる人だっているぐらい昔から蛇は縁起物なんだよ。襲われないで遭遇してるんだから、きっと良い事あるって思った方が前向きだと私は思うけどね」
「カルト染みたことを言われても困るのだよ」
「それ言う?だって私占星術部だよ。そしてオカルト大好き人間にそれを言っては駄目でしょ」
「うむ。だがしかし…」
言い淀む緑間にはさらに言葉を続ける。
「そもそも、緑間君が言ちゃう?おは朝に従ってるんだから…その内“ラッキーアイテムは蛇の抜け殻”とか“爬虫類と写真を撮ると運気があがるかも”とか言われるかも知れないんだよ」
そう口にしたに緑間はピタリと動きを止めた。
緑間が信心深く好むおは朝はかなり無理難題を突き付ける時があるので、それに思い当ったようである。
「だから、今からそんなんだったら先が思いやられるでしょ。まぁ、今回は無事だったし…良い事あると良いなぁと思っておけば良いじゃない。ね。」
にそう言い切られた緑間はしぶしぶ頷いたのである。
後日、割と高確率で良い事が起きた緑間は、ちょっとだけ蛇への苦手意識を緩和させたのは言うまでも無い。
おわし
2015.8.4.(web拍手掲載:2014.6.22.)From:Koumi Sunohara