おは朝が繋ぐもの
今日は帝光中の入学式。
何時もの通りの朝の準備に、毎日欠かさず見るおは朝の占いの確認にも余念は無い。かに座の占いの内容を聞き、自分の本日のラッキーアイテムを用意する。
『かに座の貴方。今日の出会いは貴方にとって良い出会いになりそう。その出会いの人とは良好な長い付き合いになりそうなので、ぜひ仲良くしてね。ラッキーアイテムはゴスロリを着たテディーベアー』
耳に残るおは朝担当のナレーションを聞きながら、俺は思案する。
(今日は入学式…新たな出会いもあるというものなだよ)
おは朝の占いは信じてはいるが…おは朝の占いの内容に対して、そう思いつつ俺は、良好な人付き合いが出来るのか正直不安を感じていた。
兎も角、俺はラッキーアイテムのゴスロリを着たテディーベアーを用意し両親んと共に帝光中の入学式に向かったのである。
広大な校舎、マンモス校と呼ばれているだけの事がある生徒の数。新入生だけでも相当の人数に、少しだけ俺は人に酔いそうになる。そんな俺の様子に、両親は心配そうに此方をみやったが…保護者とは別行動になる為、心配されつつも俺はここで両親と別れた。
膨大な人数が集まる場所を避けながら、俺は前もって受け取っていたクラスの書かれたプリントを手に自身のクラスへ足早に向かった。
クラスに向かう際にも、何となく好奇な視線が俺に向けられる。大よそ、この手に持っているラッキーアイテムのゴスロリを着たテディーベアーが気になるのだろうが、おは朝を見ていれば分かることをわざわざ気にする者達の気が知れない。
だが、小学校の時もそうであったが、大半の人間は俺を不可思議な者を見る目を向けてくる。
(まったくもって心外以外のなにものでもないのだよ…)
わずらわしい視線を感じながら、俺は指定された席につき…視線を遮る様に目を瞑る。
暫らくそう過ごしていたが、相変わらずの視線に俺は煩わしさを感じていた。
(流石に居心地が悪いというものなのだよ)
ゲンナリとした気分の俺は気分を変えるべく、席を立ち教室を出ることにした。
俺の開けたドアの向こうに、鉢合わせた女子生徒は不意の事に驚いたのかピタリと動きを止めていた。俺からすると凄く、小柄というか小さな女子生徒だった。
女子生徒は金縛りにあったかのように動かなかったが、ゴスロリを来たテディーベアーに釘付けだった。
(やけにラッキーアイテムを凝視しているが…別段嫌な視線ではない)
そんな風に考えていると、その女子生徒は、俺に道を開けるべく、少し横にずれた。
彼女の気遣いに、俺は「すまない…」と短く返し彼女の作ってくれたスペースに移動した。
「いえいえ。お互い様だよ」
そう言いながらも彼女の目線は相変わらずラッキーアイテムを見ていた。
(女性や子供は可愛い物が好きだというし…その類か…はたまた熊好きか…それともおは朝?)
彼女の視線の意味を推測しつつ、最後の可能性に俺は心の中で首を振る。
(まさか…)
しかしながら、あまりにも彼女が熱心にラッキーアイテムを見るものだから俺は思わず尋ねていた。
「何か気になることでも?」
「ん…ああ。ゴメン。不躾に見ちゃって」
「別にかまわないのだよ」
「(なのだよ?)違ってたらゴメンね。その君の持っている熊なんだけど…もしかして、おは朝のラッキーアイテムだったりしちゃったり…ああ…やっぱり何でもない」
彼女の問いかけに、俺は少し嬉しくなり彼女の言葉を遮るように言葉を紡いだ。
「ああそうなのだよ。よく分かったな」
「ん。なに座のアイテムかはわからないけど…なんか言っていた気がしたんだよね」
「おは朝を知っているとはなかなか目のつけどころが良いのだよ」
「はぁどうも」
俺の言葉に、その女子生徒は少し気の抜けた返事を返してきた。
(おは朝を知るものの割には反応が薄いのだよ…ん?そういえば初対面…知りもしない人間を不振に思うのは道理というものなのだよ)
俺はふと、そう思い立ち彼女に対して自己紹介をする事にした。
「そういえば自己紹介をしていなかったな。俺は緑間真太郎、おそらくお前のクラスメイトになるのだよ」
手を差し出しそう挨拶の言葉を告げると、彼女も手を握り返し返答を返してくれた。
「ごていねにどうも。です。こちらこそ」
「ああ。とは長くいい関係がつくれそうな予感がするのだよ」
「そう?」
「今日のおは朝で“今日の出会いは貴方にとって良い出会いになりそう。その出会いの人とは良好な長い付き合いになりそうなので、ぜひ仲良くしてね。ラッキーアイテムはゴスロリを着たテディーベアー”と言っていたのだよ。おは朝に理解のあるの事を指しているにちがいないのだよ」
そうに告げると、は軽く目を瞬きし、少し考えるポーズの後徐に言葉をつむぎ出した。
「そうなると良いよね。(ん〜あんまりそうならない方が平穏無事なような気が…)でも、凄いねおは朝のラッキーアイテムって結構探すの難しいのによく見つけてこれたね(あの鬼畜なアイテムをよく見つけてくるな〜…もしや熱狂的なおは朝信者か?)」
「確かに難しいが。毎日のおは朝のアイテムは外せない。も見ているならアイテムを持つことをお勧めするのだよ」
の言葉に俺はそう説明すると、は少し困ったような表情を浮かべた。
「ラッキーカラーの物は持ってるからダイジョウブダヨ」
何故かカタコトでそう紡ぐに、俺はおは朝ラッキーアイテムの重要性をさらに説いた。
「それは人事を尽くしているとはいえないな。おは朝を見ている者として見過ごせない」
「いや…あの緑間君」
「よし明日から、のラッキーアイテムも用意するのだよ」
「いや…緑間君。緑間君のアイテムだけでも大変なんだからダイジョウブダヨ」
「何を言う。共におは朝をかたり合う者同士気にする必要は無い」
「ひとまず気持ちだけ受け取っておくよ。自分の物は自分でね」
「ふむ。まぁ…。困ったら言うのだよ」
「うん。困ったらね」
そう返してくるに俺は、つい口元が緩んだ。
(こんなにマトモニおは朝を語れる人間は今までに居なかったのだよ)
自分ほど真剣なおは朝に拘る程では無いが、打てば響くように返す反応とあまり好奇な目でラッキーアイテムを見ないに俺は好感を覚えた。
(貴重な存在であることには間違いないな…なるほど、今日の出会いは貴方にとって良い出会いになりそう。その出会いの人とは良好な長い付き合いになりそとはの事に違いない)
との会話と、今朝のおは朝の内容を思い出しながらそう感じずにはいられない。
その後も、俺は時間を許す限りとの会話を楽しんだ。
(本当にまったくもってよく当たる占いなのだよ)
俺は心底そう感じずには居られなかった。こうして、と俺とのおは朝が紡ぐ関係が始まったのである。
おわし
2013.6.10. From:Koumi Sunohara