白い日のお返し事情
欧米ではバレンタインは存在するが、3月14日のホワイトデーは存在しない。
日本発祥のバレンタインのお返しの日ホワイトデー。
昔はお返しは3倍返しと言われる有る意味、男性側からは理不尽極まり無いイベントである。
例えば安い義理チョコを貰い、それと同等のお返しをしたら…かなりの確率で批判の対象となる。
同等なのだから別に良いのでは無いのか?男女平等は何処へ行った?何て世の男性諸君は想うだろうが、悲しきかな男性もまた見栄で出来ている生き物の為、義理チョコでも良いからバレンタインが欲しいと想うからこそ、不平等条約さながらなホワイトデーの倍返しに対応する。
この繰り返しが有る意味デフレスパイラル並みの負の連鎖を引き起こすのである。
しかしながら、この倍返しに対応しない人間も居る。
女性陣の憧れの君である。
望まなくても、好意を抱く人数が多いのならば…受け取って貰えるだけで幸せ…あわよくば…何かお返しが有れば良いと言うぐらいの…まるで、当たらない宝くじを買う様に憧れの君にバレンタインチョコを渡すのだ。故に、倍返しじゃなく…棒付きキャンディー一つでも返してもらえれば儲けものという感じである。
それに該当する男が此処にも居る。帝光中バスケ部に所属する、緑間真太郎である。
彼は上記に上げた様な、モテル男の一例に該当する。本人の好き嫌い関係なく、緑間はモテル。
ただ、彼は少し特殊でおは朝の敬虔な信者であり、常にその朝の占いのラッキーアイテムを持ち歩くという少々残念な美形なのである。
けれども、そんな特殊な要素を持っていたとしても彼は女子生徒からの人気は多い。某アイドルタレントまでとはいかないが、放っておけば大きな紙袋2個はくだらない量になる…ある意味男の敵ともいえるぐらいの収穫量となる。
残念ながら、好意も行き過ぎれば流石に少々困った事となる。
失せ物系の食べ物であればそれは…賞味期限というタイムリミットも生じてくるし、人によっては手作りが駄目なタイプも居る訳で、大量にあれば大量にあるだけ処理に困ることも勿論ある。
緑間についても例外なく起きる筈ではあったが、今回は意外と問題が無かった。
それは、彼の友人であるクラスメートのに関係する。
は、大量のチョコレートに困る緑間にある助言をした…彼女曰く『脱チョコ宣言』をすることだった。詳しい内容は割愛させていただくが、その宣言が功をそうし、今年のバレンタインはチョコでは無く、おは朝アイテムになりそうな品々を緑間は手に入れた。渡したい女子と、受け取る側の緑間の利害が一致した形である。
その際に、サクラとしてのお気に入りのマスコットであるカエルが尊い犠牲(余談であるが緑間の次日のラッキーアイテムであった)となりの元から去ったという経緯もあったりする。
しかし、恋をするお嬢さん方にはや緑間の現状や経緯など知る由も無い。そうなると、にだけお返しがある場合、の立場が非常に不味いことになる。
恋愛感情がまったくない、友人という間柄であると緑間にしてみると迷惑以外の何もでも無い。無いのだが、先ほども言ったように恋する乙女にはそんな事情は関係無いのである。
だからといって、緑間が貰ったすべての女子生徒にそれそうなりのお返しをするとなるとかなりの出費である。変わり者でキセキの世代などと呼ばれてはいるが中学生である緑間にとってこの出費は大変痛手である。
そうだからと言って、への礼を欠く程などいう考えも緑間には無い。
もしも、緑間が料理上手の今流行の料理男子ならば、手作りクッキーを大量生産して配るという方法がとれたのだが、生憎緑間にはそんなスキルは持ち合わせて居ない。頭が良くバスケが出来る…ピアノも弾けるが普通に生活する技術はイマイチなのである。
そんな訳で緑間は悩む。
(ホワイトデーなど考えたことなどなかったのだよ)
前の年はお返しというものを意識したことが無かっただから当然であろう。
(またに相談するしかないのか?にもやるのにか?それは微妙なのだよ)
困ったときの頼りが不意に頭を掠めるが、緑間は軽く首を横に振り頭からその考えを追い出す。
(いや…もう少し自分で考えるべきだ…人事を尽くすのだから)
そう思いながらも、緑間は一生懸命にどうすれば良いのか頭を巡らせたのである。
中々良い案も浮かばないまま、無常にも時間は過ぎてゆく。
(まったくどうしたら良いのか分からないのだよ…)
自分一人で考えたが中々良い案が浮かばない緑間は完全に途方にくれていた。昔風の漫画ならば、背中に渦のようなドンよりした背景が浮かぶような雰囲気で緑間は居た。
思わず溜息を吐こうとした時に、が何時もの調子で緑間に声をかけてきた。
「おや?緑間君。今日はおは朝の順位は3位と悪くない筈だけど、何か陰気な雰囲気でどうしたんだい?」
「ん?別に陰気な空気などだしてなど無いのだよ」
「そぉ?気のせいなら別に良いんだけどさ」
首をかしげながらはそう緑間に返した。
そうして何時もの通り、無理やり話を続けるでも無いに緑間は心の中で不意に思う。
(相変わらずなのだよ…困っているように見えるのならもう少し突っ込んでくれれば俺も話すのだよ…まったく…気の利かない奴なのだよ)
若干理不尽と言うか、ツンデレ気質満載な己の思いに残念ながら緑間は気が付かない。
眉間に皺を寄せて難しい顔をする緑間をチラリと見た、はこっそりと溜息を吐く。
(まったく…何で、素直に言えないのかな?まぁ言えたら緑間君じゃないよね…流石ツンデレラ)
頬をポリポリと数回掻いたは、ツンデレ少年緑間に声をかけた。
「困ってる事あるんじゃ無いの?」
「ふん」
「素直に言う方が実りあると思うけどね」
「がどうしても聞きたいなら答えない事は無いのだよ」
「(本当にツンデレラだよ緑間君って)そうだね、是非聞きたいね」
は心の声を押し込めて、緑間の今もっとも欲しい言葉を口にする。
緑間ものその言葉に、尊大に頷きながら悩みの内容を口にした。
全て話し終えた緑間は、本人は気が付いていないかもしれないが期待の眼差しをに向けた。
(そんなに期待の目を向けられても困るんだけど…つーか…結局バレンタインの続きをどうにかせねばならない訳なのね)
は緑間の話の内容を考えながら今度こそ大きな溜息を一つ吐いた。
「んっと…ようは、ホワイトデーの対策を考えろって事で良いのかな?」
そうが口にすれば緑間は、コクリと頷く。
(何でこういう時ばかり素直なのかな…この人は…デレなのかこれがデレなのか?)
緑間のデレる態度には、さてどうしたものかと思案する。
(緑間君への貢物が黄瀬君クラスじゃないのが唯一の救いなのかな?それにしても量は多いか…)
バレンタインで緑間に贈られた品をざっと思い出しながらは思う。
「で…緑間君はどういったご希望なんだい?」
「どういったとは何だ?」
の問いに緑間は疑問符で返す。
「あれだよ…アレ。要するに…他のキセキの子みたいにお返しをしない路線でいきたいのか、其れとも飴玉一つでもお返しをするのか…緑間君はどちらをお望みなんだい?」
「どうと言われても」
「去年までは返してなかったでしょ」
「まぁ…それはそうなのだが…」
「返さない場合は…全員に返さない事をお勧めするよ。勿論、私にもね」
「だが…それでは、は損するのだよ」
そういい募る緑間には、笑って返す。
「ん?緑間君は頭がいい割にはこういう面では駄目だね」
そう一旦言葉を区切ってから、は続きをつむぎだす。
「ホワイトデーに借りを返そうとするから大変なんだよ。もしも、緑間君が私に誠意を見せるきがあるなら…イベントだとか無関係で借りを返せば問題無いんだよ。拘る必要は何処にも無い。だから、そんなに悩むなら返さないっていうのがベターだよ」
「だが…しかし」
の提案に緑間は相変わらず難しい顔をして唸る。
(そんなに悩むものかしらね?黄瀬君ならサインとか握手で終わらせてお返しはしないだろうし…青峰君は論外だけど…貰うだけ貰って返さない男子も多いのに緑間君は律儀というか…不器用というか…ツンデレラだけど)
唸る緑間にはそんなことを思いながら、助け舟を出すことにした。
「だったら…湯島天神の鉛筆を渡すってのでどう?」
「鉛筆?何故なのだよ?」
「何でって、そりゃー緑間君と言えば、人事を尽くして天命を待つ…を口癖だしね。緑間君も持っていたでしょたしかさ」
そうが言うと緑間は顔をしかめつつ頷いた。
「緑間君に好意を持っている子なら有効でしょ。その人に関わるものなら、鉛筆一本でも喜ぶ筈だよ…恋は盲目だからね」
ニッと笑ってはそう言い切る。
「まぁ気が引けるなら、それに飴の一つとか金平糖を小さな袋に入れて付けるっていうのも手だと思うよ」
補足でそう続ける。
「なる程それで良ければどうにかなるのだよ」
「お役に立て何よりだよ(それに緑間君特性コロコロ鉛筆にはご利益があるって噂だしね)」
がそう返しながら、心の声をひっそりと隠す。
「そんな訳だから、私もソレで良いし…万事解決だね緑間君」
話しは終わりだと言いたげには柏手一つ打ちそう話を終わらせる。
が…。緑間は未だに微妙な表情でを見た。
「何?、解決したのにまだ難しい顔をして」
「に関しては別途お礼をさせてもらうのだよ」
「いいや。良いよ…(余計面倒な事になりそうだし…)」
心の声を隠しながらはやんわりと断りの言葉をつむぐが、緑間は頑なに拒否をする。
「ん〜じゃ…テスト前の対策で良いよ」
は何気なくそう口にした。成績優秀な緑間の臨時家庭教師はにしてみれば、美味しい報酬だといえるのだ。ただ、勉強に関してスパルタであると言う事に目を瞑ればという点を除けばだが…。
(学校の教師陣より分かりやすいんだから、本当に凄すぎる人材なんだけどね…)
ホワイトデー如きで悩む緑間にはそう思う。
「礼にならないと思うのだよ」
「へ?何で?緑間君の臨時家庭教師は凄く私にしてみるとメリット大きいんだけど」
緑間の言葉には目を丸くしてそう言えば、緑間はゆるく首を横に振る。
「がどう思うかは分かりかねるが…に対しての謝礼が俺自滞っているのだよ」
「滞ってるかな?」
「ああ、特におは朝関連でだ」
緑間に言われて、はんーっと思考を巡らせる。
「別に凄いものあげた覚えは無いけど…その件に関しては学祭の占星術部の臨時部員の件で片がつていると思うけど」
「が忘れすぎているのだよ」
「そう?」
「まったく、は自分からした善意は気に留めない奴なのだよ」
「ん〜恩着せがましいよりは良いんじゃない?」
「そうだが…損な奴だということなのだよ。俺はの将来が心配で堪らないのだよ」
大きな溜息を吐きながらそう口にする緑間には、不思議そうに首をかしげた。
(まったく…大げさだよね…。まぁ確かに…人に借りを作るのは好きじゃないけどね…緑間君が思っているほど善人でも無いけどさ…)
そう心底思っているにしてみれば、緑間の方がよっぽど生き難いのでは無いかと思っている。まったく、似たもの同士である。
「ん〜そんなに気にするなら、今度緑間君の十八番の…弾道ミサイルみたいな3Pを私の望む本数全打命中させるとかどう?」
「弾道ミサイルでは無く、3Pシュートなのだよ」
「え?似たようなものでしょ」
「違うのだよ」
「3Pライン超えてハーフラインでシュート決めてる時点で、普通じゃないんだから…必殺技ちっくだし…弾道ミサイル型3Pシュートで良いじゃない」
「そんなネーミング願い下げに決まっているのだよ」
「そう?強そうなのに」
が残念そうに口にすれば、緑間は米神を押さえた。
(対人用の武器じゃ無いのだよ…そもそも、バスケは武器は使用しないのだよ)
心の中でそうツッコミを入れる緑間には、「まぁ…いいんだけどさ」と呟きながらは言葉を続ける。
「で…どうさ?」
「別に可能なのだよ。だが、何故にソレをが望むのか皆目検討がつかないのだよ」
「ん?ああ…よくさ、プロ野球選手とかが…奥さんや彼女とか…子供の誕生日にゴールをプレゼントとかあるじゃない」
「ああ」
「緑間君の場合は簡単にシュート入っちゃうからさ、難易度上げて歳の数だけ一試合で3Pをプレゼントとかなら私にはいいプレゼントになるかな?っと思って。彼氏じゃないけど…何か滅多に無い事だし、一生に一度ぐらい良いかな〜と思ってさ」
はカラカラと笑いながらそう口にして「嫌じゃなければだけどさ」と小さく付け足す。
緑間はそのの言葉に、少し思案した後に言葉をつむぐ。
「そんな事で良いのか?」
「普通だったら経験できないから、それで良いよ」
念押しするに緑間はまた押し黙る。
「いや…無理にとは言わないよ…赤司君の許可とかいるなら別に、緑間君の気が済むまでジュースを奢ってくれるとかでも良いし」
押し黙る緑間には慌ててそう口にする。
が…。
「本当には欲が無いのだよ。そんな簡単な事で良いと言うのだからな」
溜息混じりにそう口にする緑間にが今度は固まった。
(オイオイ…簡単って…まぁ私は一般人だからフリースロー入れるのも入ったらラッキーなのに、歳の数3Pシュートを決めるとか…本当にチートだわ)
「家庭教師とジュースと…歳の数だけ3P…3Pに関しては連続で入れると約束するのだよ」
「ええええ…連続って難易度上げすぎなんだけど」
「問題ない。人事を常に尽くしている俺には不可能では無いのだよ」
自信満々に言い切る緑間には(一般人には推し量れない存在だわ緑間君)と心底思った。
そして、このままではホワイトデーの話に進まないと感じたは一先ず緑間の言う内容で自分宛のお返しとお礼は手を打つことにした。その後、がこのお礼に悩まされる事になるのだが、この時はまったく気が付かなかったのである。
ともあれ、発案『緑間ご利益鉛筆+飴配布会』でホワイトデーを乗り切る事になった緑間は湯島天神鉛筆と徳用飴大袋を購入した。配布方法は前回のバレンタイン同様、が取り仕切る事となった。
氏名クラスをメッセージカードに記載している女子については、は名簿を起こし…それ以外の子については告知という方法で返却する事に相成った。尚、数に限りがある旨も合わせて伝え、貰えなくてもごめんなさいと言う先手を打つのは忘れない二人であった。
バレンタインの時もそうであるが、緑間のファンは比較的理性的である為、緑間とのお触書にそった対応に応じてくれた。皆、大事そうに湯島天神鉛筆とありふれた飴を嬉しそうに両手で受け取りながら、去っていく。
正に、あり難いお札を貰いにくる檀家さんや信者に見えてきそうである。
(緑間おは朝教の定期会合?…提案しておいて何だけど…一種の宗教に見えるんだけど…)
緑間の隣で、名簿と睨めっこをしているはこの状況に心底そう感じずには居られなかった。
(色々な意味で見てはいけない物を生み出した?もしかして、この状況大量の信者さんを製造するきっかけになってるんじゃ…)
は嬉しそうなお嬢さん達を見て、一抹の不安を覚えた。
当事者である緑間はと言うと…。
(そんなに鉛筆が嬉しいのだろうか?まったく、理解の外側なのだよ)
嬉しそうな女子生徒を見て、ますます困惑する緑間であった。
そんな訳で、こうして緑間のホワイトデーは何とか幕を下ろしたのである。
後日、律儀にへのお礼を有言実行に移し色々な事が起きる事になるのは別なお話である。
おわし
2013.61.(WEB拍手掲載2013.4.22. 〜)FROM:Koumi Sunohara