おは朝信者との邂逅
は帝光中学に入学した新入生の女子生徒である。
身の丈は平均より低いぐらいの女子で前から数えた方が早いぐらいの身長であった。
学力はけして低くは無く中の上ないし中間である。容姿も悪くも良くもなく、愛嬌はある、何処にでも一人や二人居る女子中学生である。
そんな彼女は、男女ともにそこそこ仲が良かったりする。広く浅く、あたり障りの無い感じといえばそれまでだが。
そういう気質のの中学生活は緩やかに平穏無事に過ぎる事が約束されたようなものだった。そう…あの出会いが無ければ…。
こんな言い方だとサスペンスかはたまた…ホラーな内容か?と思うかもしれないが、別にそういった類いのものでは無い。そして甘酸っぱい恋の予感でも無い。
何と表現するのが一番良いのかはよくわからかいが、一先ず平穏無事な学園生活と縁遠くなったという事が有り難くないが約束されたのである。
それは一体何なのか、そんな大層なものなのか、そう捕らえるのは人それぞれだ。平凡じゃなくなる平穏じゃなくなる未来は、現在では無く遠くない未来の話なのだから。
さて、何処にでもいそうなの話に戻そう。
先にも申したように、はパッと見た感じモブというのが一番しっくりくる女子生徒である。何処にでもいる子が、普通に中学に入学する。これは、ごく当たり前の事で、なんら不思議は無い。
自身もそう思っているようで、桜が咲き誇るそんな日に入学できる事を単純に喜んでいた。
小学校とは違う環境、部活に勉強…今後起こるであろう楽しい一時。そんな事を夢見ながら、校門をくぐり足取り軽やかに入学式に向かう。
あたりを見渡せば、と同じように緊張と好奇心を含んだ目をした生徒がチラホラ見える。
(大きいし綺麗な校舎だなぁ〜。生徒数もいっぱいだし…うん、何か新しい事が起きそうな予感がする)
そんな風には胸躍らせて居た。
(入学する前から分かっていたけど、マンモス校だねこりゃ)
前もってプリントされている自身のクラスの書いた用紙を片手に、人の多さにはそうしみじみ思う。
(こんだけ多いと、変わった人やら…凄い人とか一人や二人いそう)
キョロキョロと辺りを見渡しながら、自分のクラスを目指す。
「おはよう。」
「ああ…おはよう」
「よう、相変わらずだな」
「おはよう…。相変わらずって何さ?」
クラスを目指すに、同小の顔なじみが声をかけ、それには軽口を叩きながら返してゆく。
「そのまんまだけどな。そういえば、はもう見たか…巨神兵みたいにデッカイ奴いたぜ」
「巨神兵って言いすぎだし…ふーんそんな大きい人いるんだ。ズルイねモゲテシマエバイイノニ」
同小男子の言葉には、前半関心し…後半カタコトで物騒な事を口にした。はわりと小柄で、身長がコンプレックスだったりするのである。
「モゲって…そういう所が相変わらずだって。まぁ…紫の頭だしさ、目立つからその内遭遇するぜ」
「ふーん」
その後軽く会話をして、と同小の男子は会話を終えて別れた。
(巨神兵みたいにデッカイ紫頭か…中学は小学校と違って刺激的な要素満載の予感がする)
そんな事を考えながら歩いていると、他の女子生徒がザワザワと興奮気味に会話が耳に入る。
「ねぇねぇ…さっき凄いイケメン見ちゃった」
「あああ分かる。金髪でピアスの」
「そうそう、レベル高いよね」
「確か、モデルの黄瀬君だよ。この学校に居たんだね」
「嘘…モデル…イケメンな訳だよね」
「他にもオットアイで、クールそうなイケメンに…凄いスタイルの良い女の子もいたわ」
「流石って感じよね」
井戸端会議よろしく、早速手に入れた情報を口にする女子生徒を軽く視界に納める。
(凄い人のオンパレードか…まぁ…一般人の私には無縁な話だよね)
耳に入れた情報をそう判断したは、自分の教室の戸に手をかけた。
ガラリ…そう音を立てて開く筈の戸がが開けるよりも先に、音を立てて開いた。
(おっと…一瞬自動ドアになったかとビビッタけど…先に入っていた人が開けたんだ)
少し驚きながらも、は先に戸を開けた人間の出方を待った。
すると…。
女子も羨む睫毛バサバサに色白、少々神経質そうな雰囲気を醸しながらもやけにソレが似合うスラリとした長身の男子生徒がの目の前に居た。そこだけなら、問題は無いのだが…その生徒が持っていたものが重要だった。
(な…なんで、熊のぬいぐるみを持ってるの…このインテリ系イケメン)
ファンシーな熊のぬいぐるみを手に、インテリ系イケメンはの目の前に居たのである。
(そういえば今日のおは朝の何座だったかのラッキーアイテムだったような気が…でも…まさかね)
熊のぬいぐるみを持つ男子生徒を見たは、不意にとあるテレビ番組の占いの事を思い出したが、すぐに頭の隅に追いやると男子生徒に道を開けるべく、少し横にずれた。
「すまない…」
短い言葉を紡ぎながら、男子生徒はの空けたスペースに移動した。
「いえいえ。お互い様だよ」
紡がれた言葉にもそう返すが、視線はやはり男子生徒の持つ熊のぬいぐるみについ目がいってしまう。
の視線に気づいたのか男子生徒は訝しげにを見て言葉を紡いだ。
「何か気になることでも?」
「ん…ああ。ゴメン。不躾に見ちゃって」
「別にかまわないのだよ」
「(なのだよ?)違ってたらゴメンね。その君の持っている熊なんだけど…もしかして、おは朝のラッキーアイテムだったりしちゃったり…ああ…やっぱり何でもない」
最初は尋ねようとしただが、話の最中に思い直しやっぱりやめようと口にしようとしたが、疑問の対象の一言に遮られた。
「ああそうなのだよ。よく分かったな」
「ん。なに座のアイテムかはわからないけど…なんか言っていた気がしたんだよね」
「おは朝を知っているとはなかなか目のつけどころが良いのだよ」
厳しめの表情をフッと緩めてインテリ系イケメンはそう口にした。
「はぁどうも」
はイマイチ何処が目のつけ所が良いのか分かりかねたが、曖昧に返答を返した。
気のないの返答にたいして気にした様子のない、その相手はふと何か思い出したように口を開いた。
「そういえば自己紹介をしていなかったな。俺は緑間真太郎、おそらくお前のクラスメイトになるのだよ」
指にテーピングされた手を差し出しながらにそう紹介した、インテリ系イケメン改め緑間真太郎。は差し出された手を握り返しながら自身も自己紹介をした。
「ごていねにどうも。です。こちらこそ」
「ああ。とは長くいい関係がつくれそうな予感がするのだよ」
「そう?」
「今日のおは朝で“今日の出会いは貴方にとって良い出会いになりそう。その出会いの人とは良好な長い付き合いになりそうなので、ぜひ仲良くしてね。ラッキーアイテムはゴスロリを着たテディーベアー”と言っていたのだよ。おは朝に理解のあるの事を指しているにちがいないのだよ」
実に饒舌に緑間はそう言い切った。
(ああ…だからファンシーな熊…ゴスロリテディーベアーだったんだ…そもそも、私別におは朝に重きを置いていないのだけど…多分言っても緑間君は聞いてくれないだろうな…)
そんな事を思う。
「そうなると良いよね。(ん〜あんまりそうならない方が平穏無事なような気が…)でも、凄いねおは朝のラッキーアイテムって結構探すの難しいのによく見つけてこれたね(あの鬼畜なアイテムをよく見つけてくるな〜…もしや熱狂的なおは朝信者か?)」
「確かに難しいが。毎日のおは朝のアイテムは外せない。も見ているならアイテムを持つことをお勧めするのだよ」
真剣な表情でそう紡ぐ緑間には戦慄した…。
(毎日だった?あの明らかに無理なおは朝アイテムを毎日だと?ヤバイ…かなり重度のおは朝信者だった…話かけたの不味かったかな…そもそも熊持っていた時点で危険ランプ点灯してたのに…なんてこったい)
心の中ではそんな事を思いワタワタしながらは短く返した。
「ラッキーカラーの物は持ってるからダイジョウブダヨ」
軽く片言になりながら、何とかそれで話を終わらせようと思ったが…。
「それは人事を尽くしているとはいえないな。おは朝を見ている者として見過ごせない」
「いや…あの緑間君」
「よし明日から、のラッキーアイテムも用意するのだよ」
「いや…緑間君。緑間君のアイテムだけでも大変なんだからダイジョウブダヨ」
「何を言う。共におは朝をかたり合う者同士気にする必要は無い」
「ひとまず気持ちだけ受け取っておくよ。自分の物は自分でね」
「ふむ。まぁ…。困ったら言うのだよ」
「うん。困ったらね」
は取りあえずそう口にして場を切り抜けた。
その後、クラスに入ったはこれで一旦緑間から離れることが出来ると思ったが、何故か廊下に出ようとしていた緑間も共に入ってき…教師が教室に入ってくるまで延々とおは朝の重要性をに語っていたという。
そんな両者を遠巻きにみていたクラスメートは、完全にと緑間は凄く仲の良い友人だと認識していたのである。の同中の人間は、なんとなく今後大変になるであろうに心の中で合掌しつつ、自分がその立場じゃない事に安堵した。
これが、黙っていればクールな秀才イケメンの緑間真太郎との出会いである。の平穏な学生ライフが遠のいたのはいうまでもない。
おわし
2013.5.21.From:Koumi Sunohara