脱チョコ宣言  


バレンタイン…欧米では恋人達が、本や花などを贈り合うが日本では女性から男性への愛の告白とチョコの日と言うイメージが殆どである。

緑間真太郎にとっても、バレンタインはチョコレートの日と言っても差支えない日であった。

チョコよりもお汁粉の方が好きな彼にとって…有難迷惑な日とも言える。

しかし、恋する乙女には緑間の声など届く訳もなく…おは朝系残念イケメンの彼には他の男子生徒が羨む量のチョコレートが渡される。

手渡しは断られるリスクが非常に高い為か、彼の机や…衛生上どうかと思うが靴箱にはバレンタインのチョコレートが文字通り溢れるのである。

根がまじめで律義な彼は、大量に投棄されたチョコレートを持ち帰るのだが正直ウンザリして居た為、思わずボソリと愚痴を零した。

「このチョコの量をどうしろと言うのだよ?」

それに反応したのは、クラスメートで女子の割に緑間と割と友好関係を築いているだった。

ゲンナリとした緑間には、ケロリと答えた。

「貰えない男子からは、フルボッコされる科白だね。まぁ…これが現実何だけどね。んー今年のチョコはどうにもならないけど、来年以降は何とかなるかもよ」

「何?どうすると言うのだよ」

「ん?題してかぐや姫大作戦だよ緑間君」

の言葉に緑間は不機嫌そうに見返した。

「聞くからに…愚策にしか聞こえない気がするが…」

「まぁまぁ…聞くだけ聞いてみてよ」

手でどうどうと制しながらはそう返す。緑間は少し憮然としながらの次の言葉を促した。

「んとね。簡単にザックリ言うと…来年以降はバレンタインはチョコレートでは無く、緑間君の必要となりそうな?おは朝”のラッキーアイテムをプレゼントして貰うんだよ。そしたら、大量におは朝アイテムがゲット出来るっていう寸法だよ」

…おは朝は…今日明日のアイテムは教えてくれるがそれ以降は教えてくれないないのだよ」

「うん。知ってるよ。だから、彼女達が独自に思い付くアイテムとなりそうな物をプレゼントして貰うって事さ。緑間君やご家族が持っていない、意外なものがアイテムになる可能性があるんだし…チョコの大量プレゼントより有意義だと私は思うんだけど。どうかな?」

「そう簡単に行くとは思えないのだよ」

眉を顰めてそう言う緑間に、は腕を組みながら困ったような表情で言葉を紡ぐ。

「人事を尽くすのが口癖の緑間君とは思えない弱気だね」

「この惨状をみたら弱気にもなるのだよ」

緑間の貢物を前に、大きな溜息を吐いた。

「モテル男は辛いね緑間君」

「こんな状況は黄瀬一人で十分なのだよ…まったく」

「まぁ黄瀬君はモデルだからね…んーやっぱり、やってみようよう緑間君」

「だが…」

「緑間君!人事を尽くすのだよ。脱チョコ宣言を高らかに宣言するのだ!」

ビシッと明後日の方向を指さしてはそう言う。

「やるだけやって…駄目なら受け入れるのが緑間君でしょ?」

「わかった。だが…どうやるというのだよ?」

渋々了承した緑間が、にそう尋ねると。

「勿論、君のファンの子に伝えるに決まってるよ。噂でも何でも良いけどさ。宣言をするのは勿論、緑間君だけどね」

「何故なのだよ」

「だって私は困らないし、緑間君のチョコ問題だし」

サラリと返す

「言うだけ言って、手助けをしょうという優しさは無いのかには…」

恨みがましそうにを見て緑間は言う。

「えっ…アイデア出している時点で優しいと思うんだけど」

不思議そうに首を傾げては言う。

その言葉に下がってもいない眼鏡のブリッチをクイッと上げる緑間。

(助けとは言わないよね…緑間君。素直じゃないなぁ〜。これが俗にいうツンデレかな?)

はそんな事を思いながら、頭を軽く掻く。

「助けるのはやぶさかじゃ無いんだけど…私よりも緑間君はバスケ部のチームメートに助けてもらうっていうのも一理あるんじゃ無い?」

そう口にしたの目に映ったのは、盛大に顔を顰める緑間の姿だった。

(おっと…禁句?触れちゃいけないのか?…確かに灰汁が強そうだけど…チームメートでしょうに…)

顰め面の緑間にはそう思う。

「奴らも似たり寄ったりなのだよ…」

頼んでも意味が無いと言いたげな緑間に、は肩を竦める。

(まぁ…緑間君に関わったのが運のつきだと思うほうが建設的だよね…)

小さく溜息一つ吐いては、言葉を紡ぎだす。

「えっと…まぁ…乗りかかった船だし…クラスメートのよしみで…一肌脱ごう。あっ…でも上手くいかなくても怒らないでよ緑間君」

「ふん。元より大して当てにしてなど無いのだよ」

照れ隠しなのか顔を背けてそんな言葉を口にする緑間に、はこっそりと笑った。

(うん。やっぱり緑間君はゆるぎないツンデレだ…)

「時には、どうやって実行する気なのだよ」

「そうだなぁ〜。街頭演説の如く宣言するのが一番なんだけど…あからさまだしね〜。よし」

少し考えたそぶりを見せながらはポンと手を叩く。

「緑間君。お客さんを呼ぶにはサクラが重要でしょ…私で何処まで役に立つかは分からないけど、それで行こうと思う」

「良く分からないが…に任せるのだよ」

緑間は疲れたようにそう口にしたのである。


の指示通り、緑間とは帝光校中でもっとも人が多そうな場所に移動した。

はザッと周りを見渡し、緑間のファンが数人居るのを確認すると徐に行動に移した。

「緑間君、チョコの用意が出来なかったんだけど良ければコレを貰ってくれる?」

少々棒読みなのはご愛敬で、はそう口にするとがよく鞄に付けている大きめのカエルマスコットを緑間に差し出した。

緑間は迷うことなくの差し出したカエルのマスコットを受け取って礼の言葉を口にする。

「有難くいただくのだよ。チョコを貰うより実に有意義だ。何せ、コレは明日のラッキーアイテムなのだから」

フッと微笑を浮かべてそう口にする緑間に、周りに居た緑間のファンが息をのむ音が聞こえた気がした。

「そっか喜んでもらえて良かったよ。おは朝のラッキーアイテムを集めるの大変だもんね…こういう時にいっぱいもらえたら緑間君も助かるよね」

両者微笑みながらそう話す様子に、幾人かが慌てたようにその場を去る音が二人の耳に入る。

は小声で緑間に話かける。

「何か…拍子抜けするぐらい上手くいったかもね」

「上手くいったなら、それで構わないのだよ」

「でもさ…私に死亡フラグ立ったかも…しかも…本当に私のお気いに入りのカエルのマスコットが緑間君に奉納しちゃうはめになるし…」

緑間と反して、少しゲンナリするに緑間はキッパリ言った。

「死亡フラグとやらと、のマスコットの件は問題無いのだよ」

「何処が?」

「マスコットは確かホワイトデーとやらで、新しい物を買って返すから問題無い。ましてや俺が、友人をそうそう死亡させるとでも思うか?それこそ馬鹿馬鹿しいのだよ」

「緑間君」

「ついでに、成功した暁にはの苦手な教科の家庭教師をしてやるぐらいの甲斐性はあるのだよ」

前半はにしてみれば、男前発言で後半の家庭教師発言は有る意味違う意味の死亡フラグな気しかおきない気分で一杯だった。

と緑間の三文芝居は、かなり即効性がある事がすぐに判明する事になる。

緑間のファンが突然、渡したチョコを回収しに来たかと思うと、各々方がコレと思うおは朝ラッキーアイテムになりそうな物を持ち、緑間へと奉納しに来たのである。

緑間もチョコの時とは違い、軽く礼と若干表情を緩めるオプション付きで対応した所為か、の杞憂した死亡フラグは自然と回避されたのであった。


この考案『かぐや姫大作戦』ならぬ『脱チョコ宣言』は緑間やが卒業するまでの数年、帝光中である意味有名な出来事として残ることになるとは、この時緑間もも思いもしなかったのである。そして、2月14日が帝光中生徒の間で別名『おは朝アイテム奉納日』と言われるようになったのである。


おわし


2013.4.23.(WEB拍手掲載2013.2.1.〜)From:Koumi Sunohara

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