とあるフェアーで
マジバでバイトをした当初、初めてのバイトという事もあり色々戸惑った事もあった。
労働をしてお金を得る事って大変なんだとしみじみ思ったりした。
スマイルをすればひきつり、ピーク時の混雑はまるで戦場だったり、色々。
でも数ヶ月も経てば慣れないけれど慣れてくる。
レジ打ちに、マシンのセッティング、接客などなど。
そして、馴染みの常連客の事も自然と覚えてゆく。
ホットコーヒーにミルク2つのお客さんに、ハンバーガーはピクルス抜きだったり、ジュースには氷を入れないとか…。
百人いれば百通りという感じに、実に様々である。
そういうお客様と接する内に、印象に凄く残るお客様が登場する。
別にクレーマと言う訳でもなく、通常の常連客と変わらないけど少し特種なお客様。
その中でも群を抜いて目をひくお客様が居る。
容姿端麗で高い身長に、少し神経質そうな雰囲気を持っている、インテリ系のイケメン。
まぁ格好いい以外何処に突っ込みの要素があるのか、恐らく普通に思えばその通りなんだけど、どっこい問屋が卸さない。
今でなら、残念なイケメンの一言で片付くのだが、その時は余裕も無く戸惑うばかりだった。高校に入り、バイトしたてホヤホヤの新人店員には正直余裕など持ち合わせるわけもないのだけど。
そんなイケメンなインテリ君、更に驚くことに彼は中学生だった。
パッと見、自分と同じ高校生だと思い込んでいたけれど…制服がバスケの有名な中学校の指定のものであったから、間違いなくその彼は中学生だった。
その辺りは別に気にするべき点では無い。
気にするべき点は、何時も来店する時に彼一人が何かおかしいのである。
ある日は、大きなウサギのぬいぐるみを小脇に抱えて来店。
違う日は、木彫りの熊を持っている事もあるし、トーテムポールを持っている事もあった。
(中学生特有の罰ゲーム?寧ろイジメ?)
そう思うほど、その子の様子は異質としか言いようがなかった。
(そう言えば…何か朝の情報番組の占いコーナーのラッキーアイテムが鬼畜って噂が…でもまさか…まさかよね〜)
不意によぎる、とある占いの影。
「ねぇ。あの中学生のイケメンの持ってるの、おは朝のラッキーアイテムだよ」
「え?トーテムポールが?」
「そうそう。妹が大爆笑してたし…鬼畜ならキーアイテムだって有名だよ」
「へ〜じゃぁ罰ゲームか何かなんだね」
などと、その子を見ながら話したりもしていた。
そんな折りに、誰得なのか不明な【おは朝フェアー】なる企画が開催される事になった。
単純に朝の情報番組の一占いコーナーであるのだが…そんなに企画になるような内容には思えず、当時の私は首を捻るばかりだった。
(毎日の占いなのに何を企画するんだろ?正直末端なアルバイト店員には理解できないし、指示された事をやるだけだけどね)
などと思いながら、仕事をしていた。まさか…あの残念なイケメン君と、この事で関わるとは思ってもみなかったのである。
フェアー初日。
たまたま学校が休みの為、朝一のシフトに入っていた。
(アイドルグループとのコラボじゃないから、あまりおは朝フェアーのお客さん少ないだろうなぁ。あまり広告もしてないし)
そんな風に思いながら、何時も通りにカウンターに立つ私。
一緒に働くメンバーも店長も深く気にしてなかったと思う。
しかし、予想は簡単にくつがいされる…。
おは朝フェアーのセットが飛ぶように売れる。
地味にセット商品の割には安さだとかお得な感じが皆無に等しいセットメニュー。寧ろ、オマケが付くので割高さ加減が半端じゃ無い、強気な値段設定にも関わらず、売れること売れること。
(絶対Lセット買った方が得だと思うのに…そんなに熱狂的なおは朝ファン?それともオークション出品目当てかな?)
心の中でそう思いながら、私はカウンターの仲間とアイコンタクトをとりながら、そう感じずにはいられなかった。
事実、小声で…。
「おは朝セットばかり出てるよね」
「うん。何か不思議な程ね。他の店舗もそうなのかな?」
「どうだろう。私はおは朝見て無いから分からないけど、何か凄いよね」
「「甘く見てたわ」」
と言う会話をした。
それ位おは朝のセットは入れ食いの釣り堀の如く、売れていった。
セットに何が付いているのか?
マジバの通常セットメニューに、よくあるキッズセットのオマケの様なものが付くのである。
しかしコレがまたミソで、オマケか分からないように黒い袋に入っている運試しの要素が強いのだ。
全て集めるには、そうとうな強運を持っているか、友人知人を巻き込むか…割高覚悟でオークションで不足分を補うという方法である。
「ねぇ」
「ん?」
「正直、オールコンプリートセット何て誰が買う?って思っていたけど…初日で無くなりそうな勢い…世の中って不思議に満ち溢れてるよね」
「うんそうね」
「おは朝と言えば、あの少年も来るんじゃない?」
「まさか…」
私はそう口にすると、タイムリーにあの残念なインテリイケメン君が現れた。
「噂をすればだよ」
小声でそう口にした同僚は、そそくさと厨房へ入って行った。
噂の少年にはツレが居た。
中学生にしては小さめな身長の女の子で、パッと見妹かと思う程の身長差。
仲良さそうなのか微妙だが会話をしながら店舗に入り、何の因果か私の接客するレジに並ぶ二人。
(予想でいくと…おは朝セットだけど)
内心ドキドキしながら言葉を待つ私。
「ほら緑間君。早く頼まないと、お店の人困っちゃうよ」
インテリ眼鏡君こと、緑間君と言うらしい…に一緒に来た子は急かす様にそう告げる。
「そうは言っても、悩むものは仕方が無いのだよ」
眉間に盛大に皺を寄せた緑間君はそう返す。
「そう言ったって、セットのおまけは見えないんだから結局運頼みなんだから頼んじゃえばいいんだよ」
「お客様」
「「ん?」」
「コンプリートセットと言いまして、値段は高いですがシークレット以外揃ったものを販売してますが…」
中学生相手にこの言葉を言いたくはなかったけれど、あんまりにも悩む緑間君とそれにつき合わされているその女の子を見て、私は思わずそう口にしていた。
「買うのだよ」
「へ?緑間君。買うって…高いって言ってるでしょ」
「結局、全て集めるのだから好都合なのだよ」
止める彼女の制止を振り切り、緑間君はそう口にした。
(インテリだと思ったけど…案外、普通?普通な…普通じゃないけど)
「では、コンプリートセットお一つですね」
「ああ頼むのだよ」
「ノーマルタイプは全てコンプリートされてますが、シークレットは申し訳ありませんがセットに入っておりませんがご了承いただけますか?」
そう私が口にすると、緑間君はコクリと頷いた。
隣に居た少女は唖然とした表情をしていたが、すぐに立ち直った。
「ねぇねぇ…店員さん」
「はい。なんでしょう?」
「ちなみにシークレットは何個あるの?」
「確か3個ですね」
そう答えると彼女は、少し考えるしぐさをした後言葉を紡いだ。
「よし。分かった、おは朝セット持ち帰りで3個下さい。飲みのもは紙パック系のやつでお願いしますお姉さん」
指を3本立て、その子は注文をした。
緑間君とやらは、驚いたように硬直している。
「かしこまりましたおは朝セット3個テイクアウトですね」
彼女の要望どおり持ち帰りのセットの準備をしながら、私はおまけの入った箱を取り出す。
通常であれば、アトランダムに私が手にしたものをセットとしてつけるが、何となくこの二人のやりとりに絆されたのか、彼らに選んで貰おうと思ったのだ。
「折角ですから、選んでくださいお客様」
私がそう言うと、注文した女の子は目をパチパチと瞬かせた後ふわりと笑う。
「有難うございます。ほら、緑間君もお礼を言って」
「感謝するのだよ」
そう返す二人に私はズイと箱を差し出し選ばせる。
恭しく、コンプリートセットと、おは朝セットを受け取った彼らは禁煙席へと消えていった。
その後…遠くで、緑間君の断末魔が聞こえた気がした…が…休日のマジバは忙しい。
あの二人が気になりながらも私は、次々来るお客をさばいた。
(そういえば…店長からおは朝セットのおまけ、1個貰ったんだった)
不意に思い出した私は、仕事仲間に一言断りを入れて店長から貰ったまだ開封していない、おは朝セットのおまけを手に、断末魔の先へ足を向けた。
(まだ居ると良いんだけど)
思いつつ、足を向けると…打ちひしがれた緑間君とそれを宥める女の子が居た。
その状態だけ見るとかなりシュールな状況である。
「あれ?先の店員さん」
「揃わなかった感じですか?」
「うん。後一個だったんだけどね…見たとおりだよ」
乾いた笑みを浮かべながら言葉を紡ぐ。
「よければ、コレ」
「え?良いんですか」
「これで揃うかどうか分かりませんが、と言いますか貰い物で悪いんですけど良ければ」
「でも…」
「欲しい人の元にいくほうが有意義でしょ」
緑間君を見ながらそう言うと、彼女も少し困った顔をしながらもオズオズと受け取った。
そして、未だ動かない緑間君の変わりに封を開けた。
「み…緑間君。そ…揃ったよ」
そう彼女が言った瞬間、ゾンビみたいだった緑間君が見る見る元気になった。
「これでオールコンプリートなのだよ」
「良かったね」
「よ…よろこんでくれて何よりだよ」
嬉しそうな二人に私は、少し動揺しながらそう返した。
その後、戻った私はきっちり残りのバイトに精を出した。
この件が切欠で、おは朝大好き緑間君と関わって行くことになるとは思ってもいなかったし、伊月君関連でも関わることになるなってこの時は思いもしなかったのである。
おわし
2014.1.19. From:Koumi Sunohara