始めの一歩
生きていれば、良い事も悪い事も大体同じぐらいあるのだと、スピリチュアル系の人が言っていた。
正負の法則だと。
まぁ…あまりそう言う事は気にしない質では無いのだけど、最近の私は割りとラッキーだと思う。
ラッキー過ぎて若干怖い感じもする。
創立二年目のバスケットボール部にキセキの世代と同等の新入生が入った事や都市伝説みたいに言われていた、キセキの世代幻の六人目が入部してきた。別にスカウトとか無しでである。
後他の一年生の人数は少ないけれど、どの子も皆良い子ばかりだと思う。身内の贔屓目だとしても。
噂の六人目の黒子君は少し異質で、ステータスを見る限りでは並み以下の数値で、運動能力並びにスタミナも最弱と言っても差し障り無い子だけど、影の薄さや観察力をベースに行うパス回しは、魔法の様に素晴らしい。
そんな黒子君が居るおかげか、海常高校との練習試合が出来る事になった。
今まで、何度かお願いしにいっても駄目だったのにOKが出ると言う事は、何かしらの影響はあると私は踏んでいる。
創立二年目色々な意味で出だし好調、学業の方もさして問題も無い。
強いて難点を上げるとしたら、女友達が少ないという点。
別に女友達が居ない訳じゃない。
けれど、勝ち気な性格と色々やらかすバスケ部と四六時中居ると交友関係が減るのである。
まぁ…仕方がない事だけど、少しだけ寂しく思う。
そんな時に伊月君に彼女が出来たという噂を聞いた。
見た目イケメン、口を開けば残念系であるが性格はすごく良い伊月君が選んだ彼女に私は凄く興味を持った。
バスケ馬鹿で駄洒落が病的に好きな伊月君が選んだ相手なら、きっと私とも友人関係になってくれるかもしれないと思った。
だから先ず伊月君に直接聞かずに、軽く彼らの情報を集める事にした。
集まった情報は実に意外で、伊月君と相手の女子生徒のさんは別に恋人関係までには発展していない事が判った。
けれども、周りから見てもほぼ大半の人からすると恋人にしか見えないとの事、本人達曰く周囲には友人以上恋人未満と言っているらしい。
まったく、ハッキリさせれば良いのにと情報を知った時に私は思った。けれど、傍観者がどうこう言える立場では無いし、伊月君達が良いなら仕方がない。
(ますますお近づきになりたわさん)
彼女の情報を集めれば集めるほど、その気持ちは膨らむ。
バスケ部=変わっているとか、アウトローとか思われがちなのに、その点をあまり気にしないというさんに私はますます興味を覚える。
そうこうしている内に伊月君とさんの話題がチラホラ上がる。
特に黒子君と火神君は特にさんに懐いている。黒子君の場合は委員会が一緒らしく、その関係で仲が良いらしい…ああ降旗君もね。火神君に居たっては…さんのバイト先の常連らしい。1年生がそんな感じでさんと仲が良い為、残りの1年生も必然的にさんと良好な関係を築いているようだった。
(短期間で後輩達に慕われているなんて…良い人材よね…ウチに欲しいぐらいだわ)
中々の逸材に私は悩ましい思いで一杯だ。
(いっそうのこと、伊月君がしっかりとさんを落としてくれればバスケ部に引きずりこめるけど…微妙だわ)
頭の中で算盤をはじきながら私思う。
しかし、現実はそう上手くいかない…バスケ馬鹿で駄洒落魔の伊月君は案の定さんとは恋人未満の間柄。
(伊月君を頼らず自分でどうにかした方が建設的かしらね?)
伊月君とさんの話と、その周辺の情報を踏まえて私はそう感じる。
そんな時に転機が訪れる。
伊月君と1年生Sがなにやらさんと楽しい事をするらしいという情報が私の耳に入った。
律儀な性格なのか、私にその許可を取りに来た。
あまり気にせずに、軽く許可を与えた私はハタと気が付いた。
(何自分でさんと仲良くなるチャンスを潰してんのよ)
冷静になって考えれば、何の事はなく…1年生と伊月君の集まりに参加してしまえば良かった事に気が付く。
(今更…入れて何て…)
大義名分が見つからずに悶々としてい私に、救いの神は凄く身近な所に居た。
「ねぇねぇカントク〜。何か伊月とさ…1年Sが何か凄く楽しそうにしてんだけど…何か知ってる?」
ミスター器用貧乏小金井君がそんな事を不意に私に聞いてきた。その後ろには、なんだかそわそわした水戸部君を連れて…。
「何ソレ、詳しく教えてちょうだい小金井君、水戸部君」
小金井君の言葉に私はそうすぐに口にした。
小金井君は少し、ビクっと体を強張らせながらも言葉を紡ぎ始めた。
「俺も詳しくは知らないんだけど…ツッチーと1年生がそんな感じの事を話してたんだ」
「土田君?」
「まぁ…ツッチーも1年生が楽しそうだったから、どうしたんだ?みたいな感じで聞いたかもだけどさ」
そう口にする小金井君に私は、少し考える。
(そういえば…試食会がどうとか…言っていたアレがソレな訳かしら?)
「何々、寧ろカントクの方が詳しいんじゃない?何やるの?」
好奇心旺盛の眼差しで小金井君がそう口にする。
「試食会がどうとか言っていたけど」
小金井君に言われた私は、律儀に許可を取りに来たさんを思い出してそう口にした。
「私欲会?へー…何かすんげー楽しそうだね水戸部」
私の言葉にそう小金井君は口にすると、水戸部君に同意を求めた。
相変わらず口を開かない水戸部君だけど、幾分楽しそうに見えるのは気のせいでは無いのだろう。
(私もこんな風にさんと仲良くなれたらいいのになぁ…)
相変わらず仲の良い、小金井君と水戸部君に私は心底そう思う。
ぼんやりと二人を眺めている私に、小金井君が再び声をかけてきた。
「ねぇねぇ…カントク」
「ん?何」
「折角だし…参加しちゃおうぜ!」
「はぁ?何言ってるの小金井君」
「だってさ…1年Sとの交流もそうだし…伊月の彼女とも仲良くなれるチャンスじゃん。皆でワイワイした方が絶対楽しいし…良いって」
「あのね小金井君」
「もう。らしくないよカントク」
嗜めようとした私の言葉に、小金井君は少し真面目な顔をしてそう口にした。
「何に対して気にしてるの?何時ものカントクなら、楽しい事には何があっても参加してたじゃん。伊月の彼女ちゃんに猫被ったって、その内ボロでるんだし、何時も通りでいいじゃん」
「小金井君…」
「ん?」
「三倍逝っとく?」
「三倍はちょいと…三倍していいのは赤い彗星ぐらいだから」
意味不明な事を言いながら、慌てる小金井君。
「今回は大目に見るわよ。良いこと言ってくれたから」
(そうよね…仲良くなるなら…ありのままの私で気に入ってもらえなきゃ意味が無いもの…うん。らしくなかったわ)
心の中ではそう思いながら、ニッと笑って私はそう返す。
「って事は?」
「2年生全員で乱入するわよ。そして、さんと親交を深めるわよ!」
「うんうん。それでこそ、カントクだよ。よし、俺と水戸部はツッチーにその旨連絡してくるよ」
満足そうに言った、小金井君は水戸部君と共にあっという間に私の前から立ち去った。
(早…)
「んーさて、日向君…何ていうかしらね…まぁ…結局日向君も、同じ穴の狢かな」
主将の顔を思い出して、私は独り言のようにそう口にする。
私らしく…そう思った私は、さんが微妙な顔をするのもお構いなしに、試食会に乱入し、海常との練習試合の同行まで漕ぎ着けた。
まぁ…そんなに嫌われていないとは思うし、交流は出来ていると思いたい。
(ん〜何か上手く行き過ぎている気がするのよね…さんともお近づきになれたけど…後から…倍返しで不幸が襲ってくるなんて事ないでしょうね…)
若干の不安を抱えながら、私はさんとの親交への足がかりを踏み始めたのである。
(ひとまず…伊月君とさっさと纏まってくれれば良いんだけどね)
微妙だけど、何となくそれがしっくりくる二人を眺めて私は心の中でこっそりそう思うのだ。
おわし
2013.11.18. From:Koumi Sunohara