色々な意味のデビュー戦 K氏の蛇足
黒子っちが嬉しそうに先輩と呼ぶ人は、バスケ部の先輩じゃなく委員会の先輩だと聞いたのは、黒子っちが練習試合に来た時だった。
その人はと言う二年生で黒子っちからは失礼の無いように念入りに注意を受けた。
それ自体も黒子っちにしてみれば珍しい事だったと、今思えばそう思う。
その先輩というか、さんは見た感じ普通の人だった。顔立ちに雰囲気、派手という訳でもなく良い意味で平凡な感じがした。
まぁ、普段モデルとか…スタイルの良い桃っちとか見ていた所為もあるかもしれないけど。
兎も角、俺はたいしたイメージもその人に持たなかった。ただ、何でそんな人が黒子っちが大事に思っているのかが心底不思議という気持ちが強かった。
チラリと聞いていたバスケ部じゃないと言う割には、誠凛の女監督の隣に座っているとか、色々ツッコミ所が満載って感じス。
(敵陣に独りっーのが可哀想だとか思ったんスかね?)
とかサラッと思うぐらいで、俺は黒子っちて火神っちの試合の方に気持ちがいっていた。
まぁ森山先輩とは違うって所ス。
そんな訳で、俺としては通行人Aさんぐらいの認識だったさんを色々な意味で意識せざる得ない状況が訪れてた。
試合中で黒子っちとの接触による黒子っちの負傷だ。
共に試合をしていた帝校中の時は敵になるなんて思っなかったから、黒子っちに思いっきり接触するとは思わなかった。しかも額から血を出させるなんて、俺の中ではどうしていいかわからない程頭が真っ白になった。
スポーツをするいじょう怪我とは隣り合わせだと言う事も従順承知してはいたが、この出来事は想定外過ぎて頭が本当に追いつかなかった。
短い時間だったはずなのに、俺の中では凄く長くて、黒子っちの先輩達が黒子っちの手当てをしている時も俺はどうする事も出来ずに茫然とした。
笠松センパイは…。
「不本意だがコレで終わりだな」
とそんな事を口にしてたけど、俺は益々どうして良いのか分からなくなっていた。
(黒子っちが居ないなら、俺が居なくたって余裕で勝てるスよね…いや…そんな事より黒子っちス)
笠松センパイ同様、この先の展開を一瞬頭を過ったが俺はやっぱり黒子っちに申し訳ない気持ちでいっぱいだった。自己嫌悪に陥る俺に不意に背中に微妙な痛みを感じ思わず声を上げた。
「え?」
一瞬笠松センパイの仕業かと思ったけど、そうでは無く…俺の中では通行人Aで黒子っちにとっては大事な先輩のさんが、この場に似つかわしく無い大きなハリセンを持って俺を見据えていた。
(はぁ?この場面で何すか?)
正直突然の出来事に、相手が女の人と言うのを忘れて言い返そうとしたが、先制攻撃はさんの方が早かった。
「気の抜けた顔しおってからに。そうそうスポーツで人は死なないし…黒子君はそんなに弱い子じゃ無いわ。ワザと黒子君を狙って攻撃したんじゃ無いんだから、んな顔してんじゃ無い。不愉快だわ」
辛辣…その一言につきる声音と口調でさんは俺にそう言ってきた。
「突然何スか、アンタ…」
勿論俺は、「アンタに何が分かるんだ!」って言い返そうと口にした筈なのに…二の句も告げぬままさんにたたみかけられていた。
「突然も糞も無いわ。散々好き勝手、誠凛に言いたい放題言ってたくせに…黒子君の接触でベンチに下がったぐらいでその態度って何なの?スポーツやってんだから、こういう怪我はつきものでしょうに…悲劇の主人公気取ってんのかお前」
優しい声音など無い、不良とだってやり合えそうな雰囲気を醸し出しながら…平凡そうな女の子とは思えないものを纏ったその人はズケズケと俺にそう言ってきた。
当たり前だけどそんな彼女に、周りは凍る。俺だって当事者じゃ無ければ、サッサとこの場を去りたい所なんスけど…どう見積もってもさんから逃げきれる気がしないんス。
それに、腹が立つけど言われている事はかなり正論で正直言い返せないって言うのが本音スわ。
だから茫然とさんを見返すのがやっとって感じで…。
そんな俺にはお構いなしに、さんのマシンガントークは続く。
「まぁ言いたい事は山ほどあるけど…後にするわ」
ふーっと溜息を一つ吐いた後に、さんは言葉を続けた。
「黒子君の怪我の事もそうだけど、黒子君下さい発言に頭来てるのよ。黒子君が自分の意思で他に行きたいなら仕方が無いけどね…そうじゃないなら、誠凛の子だって事。下さい、はいそうですかって、余所にやらないし…させないしね。そもそも、相手の意思を無視するような愚者に嫁に出す気も婿に出す気も無いのよね。モデルだか何だか知らないけど…潰すぞって事よ」
凄い気迫に、情けなくも涙目になった。
そんな俺の窮地を救ったのは、PGをしていた優しそうな雰囲気の誠凛の人だった。
その人は慣れているのか、さんの気迫にも物ともせずに彼女を諫めた。
(誰だか知らないスけど…本当に感謝ス)
心の中でそう感謝した俺は、深呼吸を一つ吐いた。
(黒子っちは…誠凛の子スか…まぁ…そんな事は分かっていたんスけどね…)
さんに言われた言葉を、改めて噛み砕きながらもう一度深呼吸をする。
黒子っちも俺も、もう高校生だって事は分かってるし…高校が違う事も分かってる。でも、現実と気持ちが追いつかないのも事実。
俺がどうこう騒いでも、この現実は変わらない事実でリアルでバーチャルじゃ無い。
(でも…足掻くのは人の性じゃ無いスカ)
チラリと視線を誠凛のベンチに向ければ、黒子っちを心配する誠凛のメンバーと言いたい放題のさん。
(あああ…其処は俺の居場所だったんスけどね…)
そう思う反面と、黒子っちが大事にされている事にホッとする自分が居る。
(変な感じスわマジで)
黒子っちに怪我をさせてしまった事に対してそうとう凹んでいる俺の心には、先程遠慮なく紡がれたさんの言葉が刺さったまんまだった。
(「突然も糞も無いわ。散々好き勝手、誠凛に言いたい放題言ってたくせに…黒子君の接触でベンチに下がったぐらいでその態度って何なの?スポーツやってんだから、こういう怪我はつきものでしょうに…悲劇の主人公気取ってんのかお前」か…確かに悲劇の主人公かって話スよね)
そうしみじみ思い、そして自分に置き換えて考えてみる。
もしも…自分が怪我をしたりミスをして腫れものに触る様な態度を取られたらどうだろう?
(そんなの…ムカつくに決まってる)
想像何てしなくても、答えは分かり切っている。
それじゃ…俺が黒子っちだったら?
あり得ないけど、そう考えてみると答えは凄く簡単だった。
(やっぱりムカつくに決まってるじゃないスか…)
そう感じると胸の引っかかりはスッととれた。それが良かったのか悪かったのか、今となっては良く分からないけれど黒子っちが居ても居なくても、俺は全力で誠凛と向き合った。
結果は…僅差で敗北。
帝光時代で他校との対戦で負けた事の無かった俺にしてみれば、かなり衝撃的な敗北だった。
泣くつもりも無かったけど、自然に流れる涙は…素直じゃ無い俺の変わりに出たのかもしれない。
笠松センパイにシバカレ…リベンジって単語を頭に叩き込んで…何とか終礼をし、俺は逃げるように…頭を冷やす様に誠凛の見送りをせずに水飲み場で頭を冷やしに行った。
そこで、懐かしのキセキの緑間っちに出会い、相変わらずの態度と小言を貰って…俺は、先輩達の所へ戻った。
戻った俺に、笠松センパイは一瞥くれただけで、他の先輩は気遣いなのか俺に声をかけようとしなかった。
(有難いけど…確かにあんまり良い気分はしないスね…)
誠凛の凄まじい信頼関係をまざまざと見せつけられた後に、この雰囲気は…自分が例え色々な意味で撒いてしまった種だとしても気分はあまり良くなかった。まぁ我儘なのは十分分かってるんスけどね…。
そんな風に微妙な空気の中で、笠松センパイだけはあまり変わらなかった。
不意にズイっと、タッパを差し出す。
「えっ…と…何スカ?」
「あん?レモンの蜂蜜漬けだ見たまんまだろが」
「はぁ…有難うございます」
取りあえずお礼を良い、俺はタッパに手を伸ばしながら、ハタと気付く。コレはいったい誰が用意したのか?不意に浮かぶそんな思いに気付いたのか、笠松センパイは補足をするように口を開いた。
「お前をシバイタ誠凛のから貰った」
「へ?…な…何敵さんからレモンの蜂蜜漬け貰ってるんスか?」
レモンを口に運ぼうとしていた俺は思わずそう声を荒げた。笠松センパイは面倒くさそうに眉を寄せた。
「あ?何だ黄瀬いらねぇなら食うな」
「食べないとは言ってないス…けど、普通食べます?」
「まぁ…普通は食わないんじゃないか?くれたもその件について渋っていたし」
「なら…」
そう言い募る俺に、笠松センパイは言葉を被せてきた。
「けどな…。一服盛るような奴なら、ハリセンでのツッコミなんてしやしねぇよ。短い時間だけど、何と無くの人となりはを見たうえで俺は問題無いと判断したし、渋るからコレを欲しいと言ったのは俺だしな」
「え?女の子苦手な笠松センパイが?」
「テメー…其処関係ねぇだろうが。つったく…森山といい黄瀬といい」
「あ…スイマセン」
「まぁ…いい。それは兎も角、元々コレはお前の差し入れらしいしな」
「はぁ?」
「言っておくがファンじゃねぇみたいだぞ。何だけ…あの透明少年の為みたいだな…お前と透明少年の関係なんか微妙だろ?で…は透明少年とお前との友達関係修復って言うのか?何だ…話のタネにって事で用意してたらしい」
そう言った後、笠松センパイは「実物見たら渡す気失せたんだろうな」なんて失礼な事を言ってくる。こう見えても人気モデルなんスけどね…皆扱い酷い気がするス。
「先輩てやつは、頑張る後輩の為に手を貸してやりたくなるもんだ。も例にも漏れずって事だろうな」
「そースカね?」
「そうじゃなきゃ、モデルのお前にハリセンで一撃なんざ加えないんじゃないのか?」
「ん~」
笠松センパイの言葉に俺はそんな返事を返した。
(まぁ…普通は女の子の報復とか考えたらしないスけどね…それにしても笠松センパイやけにさんの肩持つスよね…もしかして恋?)
気の無い返事を返しながらそんな事を考えている俺に、笠松センパイは訝しいそうにこちらを見てきた。
「黄瀬…お前ろくな事考えてないだろ?」
「え…いやスね…笠松センパイに春が来たなんて思ってねぇスてば…ってヤベ」
手をヒラヒラさせて紡いでいる内に俺は、思わず本音がポロリと零れた。
「だから~違うって言ってんだろが。には悪いが、の性格がその辺の男どもより男前で何と無く親近感が沸くせいか平気なだけだ」
「そっ…スカ…。まぁ…確かに、森山先輩より男前な性格なのは確かスよね…そこは同意するス」
「まったくだ。爪の垢煎じて飲ませたらマシになるかもな…。で…それより、食うのか?食わねぇのか?」
「食べるスよ…。あれ?レモンの蜂蜜漬けって切れてるものなんスね」
レモンの蜂蜜漬けを食べた俺の感想がソレだった事に、笠松センパイは不思議そうな顔をした。
「はぁ?普通は切れてるだろ」
「そ…そうスよね。はははは、俺色々有り過ぎて頭混乱中スわ(言えない…桃っちの作るレモンの蜂蜜漬けは丸々1っ個だなんて…女の子の夢を壊す言葉を笠松センパイには言えないス…マジで…)」
心の声をそっと押し込めて俺は、疲れの所為にしてそう終わらせた。
「ふーん。まぁ何より、このタッパの今後の行く末は黄瀬に任せる」
笠松センパイはもう一切れレモンを口に入れると、グッとタッパを俺にしやって来た。思わず俺は押し切られる形でそれを受け取った。
(任せるって言ったって…そもそも、俺あの人の連絡先も…あの人自体知らないんスけどね…)
タッパを思わず受け取っちまった俺は、小さくため息を吐いてそう思わずにはいられなかった。唯一の救いは、思いのほかレモンの蜂蜜漬けが旨かった事だろうか…。
割と自由気ままな俺が何と無く逆らえない、笠松センパイのそのお願いに俺は着替えながらどうしたものかと考える。
(一番確実なのは黒子っちスけど…どの面下げて誠凛に会いに行けば良いんスかね…)
今日の試合の負けを思うと、少しだけ気が重くなる。
今までなら、相手の都合とかあまり考えずにメールだったり色々できたけど…今日の試合で痛感した。黒子っちは誠凛の子で俺は海常の黄瀬だと…そして、もう中学生では無いのだと…そう痛感した。
難しい事は相変わらず苦手だけど、所謂…袂を分かつって事何だと思い知らされた。近くてでも遠い。
(ん~女の子にもフラれたことないんスけどね…本当に黒子っちは色んな意味で俺を振り回す存在ス)
溜息を吐きつつ、見に着いた習慣通りジャージから制服に着替え、先輩方や顧問に適当に挨拶をし俺は学校を出た。
(一番良いのは…偶然黒子っちに会えれば色んな意味で万事解決なんスけどね…)
鞄に入っているさんのタッパを想いながら俺は、家路の為にフラフラと通学路を歩く。
(まぁ…そーんな少女漫画も驚きな展開が有るわけ…)
自分の都合のよい事を考えながら歩いている自分に、ツッコミを入れようとした時…偶然は起きた。
(はははは…何この展開?)
そんな事を思いながらも、俺はステーキハウスボンバーからフラフラで出てきた黒子っちを見て目を見開いた。
(よく分からないスけど…この展開に感謝スね…)
俺は少女漫画顔負けのこの偶然に感謝しつつ、驚いた表情を浮かべ俺に挨拶する黒子っちを近くの公園に連れ出す事に成功した。
本当はさんのタッパの件を話そうと思っていたのに、実際は黒子っちが何故、俺達から離れて行ったのかを尋ねていた。正直、あの人のタッパより重要だったので仕方が無い事だと思うっス。
俺の問いかけに、黒子っちは良く分からないと口にしながら…それでもハッキリと言葉を紡いだ。
「あの頃のバスケは嫌いでした」
そう辛そうな表情でそう口にした。
自分の教育係をしてくれていた…帝光中バスケ部の理念百戦百勝そして、勝つために自分が何をすべきかを教えてくれた張本人が…その言葉を紡いだ事に俺は意味が分からない気持ちでいっぱいだった。
そして、それなのに関わらず…自分達から離れた筈が…自分達と同等になりえる新たな光である火神と言う存在が居る矛盾に俺は益々黒子っちの気持ちが分からなかった。
だから思わず…。
「何時か…火神も俺らと同じになるスよ」
そう口にしていた。
今思えばソレは、自分達を否定して…似たような存在と仲良くしている黒子っちへの子供じみた嫉妬なのかもしれない。
まぁ俺の言葉の返事の前に、火神が来て有耶無耶になったんスけど。
黒子っちを探しに来た火神と…何故かストリートバスケのコートで喧嘩を売りに行った黒子っちと共闘する事になった。
(うん。中々…カオスな状況ス)
一瞬そんな事を思ったけど、黒子っち達とのバスケは思いのほか楽しかった。今まで通りの黒子っちのパス…青峰っちまでとはいかないけど、共にプレーするには面白い火神。
キセキの皆が完全に覚醒する前の…そんな和気藹々とした空気に似ている状況は楽しくて…少し切なくなった。
(あああ…この感じか…まぁ…皆でするバスケは…面白いかもしれないスね)
この状況に、少しだけ黒子っちが俺に何を伝えたいのか分かった気がする。
まぁ楽しい時間はあっと言う間に過ぎる。
黒子っちが売った喧嘩も無事に圧勝で終わり、それに伴い黒子っちを誠凛に返す時間がやってくる。そもそも、俺が勝手に連れだしたんスけど。
(ちょっぴり寂しいスね)
そう感じつつも、俺は前ほど黒子っちを渇望する事が無い事実に驚く。
(嫌われていないって分かったとか…場所が変わればこうやってまたバスケが出来るって分かったから…って事スかね?)
目まぐるしく変化する自分の感情に戸惑いながらも、俺は気持ちよく二人に別れを告げた。
「最後に黒子っちとバスケ出来て良かったス…」
そう言うって別れようとしたら、黒子っちに不意に呼び止められる。
「黄瀬君」
「何スカ?」
「先輩の蜂蜜漬けは美味しかったでしょ」
疑問形では無く、断定系で黒子っちはそう言った。
「レモンが切れてる事に感激スよ」
「まぁ…普通は切れているもんですよ。先輩の作るものに間違いが無いので…まぁその事は良いです。そもそも、女性にハリセン一撃を受けた事の無い黄瀬君には刺激が強すぎでしたでしょうし…嗚呼…あの一件で先輩の事を君が苦手に思うかもしれませんが…それで先輩に報復とかしたら僕が許しませんよ」
「何時に無く饒舌スね黒子っち」
「ええ。僕の大事な先輩です。先輩がしなければ、僕が黄瀬君に言っていたであろう事を言ってくれる…僕らの事を想ってくれる先輩ですからね」
「そんな凄い人には見えなかったスけどね」
「そうですか。まぁ別に黄瀬君に先輩の良さを知って欲しいとは思いませんから」
サラリと言われるその言葉に、何と無く俺はムッとした。
「初対面でハリセンなんてあり得ないし。笠松センパイの方が良い先輩スもん」
「まぁ笠松さんは良い先輩でしょうけど。先輩には敵いません。僕らが知ってればいいんです。だって黄瀬君、先輩の良さを知ったら、君また阿呆な事を言うでしょ」
そう呆れた目で見てくる黒子っちに俺は疑問符を浮かべる。
そんな俺に傍観者だった、火神が口を挟んできた。
「あーん。お前黒子に言っただろ。黒子っち下さいって…先輩にも言いそうだって事だ」
「ああ。無い、無いス。何か凶暴そうな女だし…あり得ないス」
「そうですか?僕の時もそうんな感じだったのに…今じゃこうです」
「何?黒子も先輩も誠凛の生徒だからな!絶対にやらねぇぞ」
「落ち着いてください火神君。先輩は言っていたじゃないですか…‟黒子君は誠凛の子”そう言う事を口にできる先輩自身も誠凛の子だと言う事です。僕らが先輩信じないでどうするんです?第一、先輩また試食会やってくれるって言ってるのに…余所に行くわけありません」
「おう…そうだな」
何気に二人だけで分かる会話をする黒子っちと火神…否火神っちに俺はポカーンとした。
(好きすぎでしょ…二人して…)
驚くほどにさんに懐く二人に俺は目を瞬かせる。
「えっと…兎に角。別に何とも思って無いスから、心配無用ス」
そう口にした俺に二人は訝しみながらも、何とか納得したようだった。
「あ…そうそう、黄瀬君」
去り際に黒子っちが俺を呼び止める。
俺は首だけ黒子っちに向ける。
「‟タッパの行く末は君に任せよう、百均だから捨ててもOK。返してくれても良い。…そうそう…今日の件にモノ申したい事があるなら何時でもどうぞ…私は逃げも隠れもしないし…喧嘩ならもれなく利子付けて買うよ。逃げも隠れもしない”だ…そうですよ」
黒子っちは恐らく先輩の真似をしながらそう口にした。
俺はその言葉にパチパチと目を瞬かせた。
(笠松センパイが大丈夫な訳スわ。スンゲー男前…)
この状況を作った女の子がにがでなセンパイを思い出しながら俺はそう思う。
「その内行きます…お手柔らかにって伝えて欲しいス」
そう俺が口にしたら、黒子っちは少し驚いた表情の後何時もの顔に戻り承諾の返事をくれた。
俺は今度こそ、二人と別れて家路に向けて歩き出した。
(案外黒子っち達の予想通りの展開になるかも知んねぇスわ)
何てそんな予感を抱きながら…。
おわし
2013.2.19.From:Koumi Sunohara