其れは後の祭りと人は言う  



私のクラスには、見た目はクールで運動神経の良い男子生徒が居る。彼は伊月俊と言い、我らが誠凛高校のバスケ部員で、女の子に人気のあるそんな人である。

お頭の出来も中々で、一昔前の運動部イコールお馬鹿さんと言う構図など蹴散らす様に伊月君は中々頭の良い人だ。

見た目、頭脳、スポーツと…少女マンガに出て来そうなイケメン君な伊月君は、普通にモテル分類に該当する。

漫画や小説だけの話しと思っていたラブレターや校舎裏の告白をされる人間。

(本当に居るんだねぇ〜)

などと心底感心した程、彼は中々のモテル人だった。

しかしながら、神様はやはり完璧な人は作らないらしい。

まぁ完璧だったら、CGとか二次元に求めれば良いわけだし…人間味があって実にいいと思うのだが、彼の不足と言うかマイナスポイントは…ダジャレを言う事である。

一言にダジャレと言っても色々だと思うけど、伊月君のダジャレの分類としては残念ながら親父ギャグに近い。お笑い芸人を目指している訳では無いのだから、其処に拘る必要はないのだけど、彼のダジャレは何と言うのか場を凍らせる事が多々ある。

クール系イケメンの寒いダジャレは何と言うか色々な意味で破壊力がある。

それだけならまだ良いのだが、彼はそのダジャレをネタ帳に書きためているらしい。常にメモ帳に、思いついたダジャレを記入する姿は、かなりシュールな雰囲気を醸し出す。

そんな伊月君と私は1年間同じクラスで今年もまた同じクラスだったりする。ともあれ私は、寒いダジャレを聞き続け且、何となく残念なイケメンである伊月君を観察していたのである。

正直この時の私は、面白い物を見る傍観者で…同じステージに上がる心算もさらさら無く、心の中で同じクラスの彼をツッコミつつ平穏無事な高校生ライフを楽しんでゆくつもりだった。否、現在進行形で、その気持ちは大きくて、そうでありたいと切に思う。

思うのだが…現実はそう上手くいかない。

何故なら、私は自身の好奇心の所為で傍観者からステージ上に気がつけば上がる事余儀なくされたのである。

もしも、時間を戻せるのであれば絶対にこの運命を変えてやると心底思う。

彼の人伊月君とは、割と良く話すクラスメートと言う存在で、クラスでの他愛の無い話に勉強を尋ねる事があるぐらいの付き合いである。

常々、伊月君の何とも言えないダジャレを聞きながら(これが無ければ、伊月君は女の子を引く手数多なんだろうなぁ〜)とか思いながら平穏無事な生活を送っていた。

当たり前過ぎる日常に、私は現を抜かしていたのか…ついに何でも無い何時もの日常を自ら潰す事となった。

何時も通り、普通に話していたはずで…そこで、何時も疑問に思っていた言葉をついつい聞いたのが日常が非日常にしてしまった要因だったのかもしれない。

そうあの日のやりとりが…。



回想---

「前々から思ってたけど、伊月君ってさ」

「ん?なに

「んー別に伊月君を馬鹿にしている訳じゃない事だけ先に頭に入れといてね」

「頭も良いし、運動できるし、顔立ちも良ければ、性格も良い奴だけど」

「そうでも無いと思うけど」

「何て言うか…残念な美形だよね」

「あのね。伊月君。君は自分と無関係と思っているかもしれないけど、世間一般的に君の顔立ちは整っているのに分類されるし、バスケットでレギュラーやっている時点で世の運動音痴からすると運動が出来るに該当するんだよ。ちなみに頭についても、学年100位以内に入っていれば出来る人の分類に見事ノミネートする。最後に性格についても、その謙遜する所とか…普通に女の子に対してさりげなく優しい所だって、ザックリ性格の良い人に該当しているわけだよ」

「んーそうなのかな?」

「そうなの。それで違うって言うなら、世の中の男を殆ど敵に回す事になること間違いないよ」

「第一、伊月君の周りに特殊な人が多い…何だっけモデルの黄瀬何たら君とか、規格外の火神君とか色々だけど、私にしてみれば伊月君も十分凄い人の分類だよ」

「凄い人って大袈裟だよさん」

「いいや。凄い人だね」

「何処が?」

「正直運動が苦手な私にしてみたら、何でそんなに動けるのか理解苦しむし、漫画や小説だけの話しと思っていたラブレターや校舎裏の告白をされる人間がモテナイと思っていたら、本当に何?って感じに思うもの。色んな意味で凄い人なんだよ伊月君」

「凄くは無いけど…そこそこかな」

「まぁ…いいよ。そこそこで」

「で…何が俺、残念なのかな?」

「そのネタ帳…と言いますかね…伊月のギャグが残念な感じだと思って」

「ギャグが残念?」

「うん。残念」

「何で?結構渾身の作品が多数で、どの辺りが残念か分からないんだけど」

「んとね。特にコレは酷いかな『パンダのエサはパンだ』界王様じゃないんだから、これは頂けないよ。後、『猫が寝込んだ』とか」

「ふーん。それじゃの面白いダジャレ言ってみろよ」

「え?そうきたの?」

「ああ。そうきたさ、そんなに言うならはさぞ面白いギャグが言えるんだろう?」

「ギャグね…(と言うよりダジャレでしょうに…何故?私がこんな目に…)。そうだなぁ。下手に『蟻が十でありがとう』とか?って笑えないか。『配送ですか?はい、そうです』なーんてね。いやーごめんよ、伊月、ギャグは難しい…」

「おーい。伊月君。私が悪かったから…戻っておいで」

「え?何事?」

「凄いな、。短時間で2個も考える何て本当に凄いな」

「はぁ?」

「俺のネタ帳評価するだけの事あるって本当に」

「いやあのね…そこなのかな、評価するのって(そもそも、私伊月君が残念な美形だねって話だったんじゃ?大藪つついたかなコレは…)」

「俺は何時も冷静だよ

「いや冷静じゃないしね。今現在」

「伊月が思ってるほど私ダジャレ好きな訳じゃないし…このままだと、伊月ファンに刺されるかもだし…こういうシチュエーションは彼女さんとやりなさいよ」

「ん?彼女はいないから誤解されないし大丈夫だ。そもそもが指摘したように俺のダジャレ見て去っていくような子達はファンじゃ無いからファンも居ない」

「おいおい。伊月君ますます残念な発言しないでおくれよ」

「残念なイケメンと思うと言う事は、少なからずの中では俺の顔はそんなに悪いと思っていないと言う事だよな。ダジャレを語り合う同志としてこれからヨロシクって思ってたけど…。やっぱり変えよう」

「何をさ(凄い嫌な予感が…)」

「交際に発展すること混みでダジャレを語り合う同志としてこれからヨロシク。いや

「なぁ〜なんですと〜!!!!」

「そうそう。俺、鷲の目持ちだからの事逃さないから覚悟してね」


回想終了---


伊月君との問題のやり取りを思い出し、私は思いっきり溜息を吐いた。
最後の伊月君の捨て台詞など、無駄に色気を出した揚句名前呼びに正直何故に其処に力を入れるのだと、突っ込んでやりたいし、伊月君好きの女子生徒に言ってあげれば狂喜乱舞に違いない。違いないが…私は別にファンでは無い。

好感を持てるけど恋愛対象かと言われると、微妙である。
それは伊月君も同じ筈なのだけど…先の科白通りなのか…何なのか、宣言通り伊月君との接触が増えたのは事実である。

世の女の子の妄想と夢の様な甘いものでは無く…何だろう?作家と担当とかお笑い芸人とマネージャーみたいな関係だろうか?

伊月君のネタ帳の添削と彼のダジャレの突っ込みとダメだしをここ毎日行っている。


今日も今日とて、伊月君とお昼ごはんを食べ、彼のネタ帳の添削をしていた。
私は添削、伊月は雑誌を目を通す。

時折忘れた頃に、ポツポツと会話がある程度。

(何だ?この熟年夫婦の様な変な雰囲気は?)

冗談でそんな事を浮かべながら、ネタ帳を添削する私の姿は実にシュールな図なのかもしれない。

(そもそも、別に友人でも良いのに何を考えてるのかね?)

チラリと伊月を見やれば、伊月は涼しげな顔をして雑誌を読んでいる。
その姿は、文句をつけどころの無い静かな爽やかイケメンで…ダジャレ好きとはだれも思うまい。

(何だろうね…あの一件は伊月君が魔がさしたのかも?)

何て都合のよいこと考えた私は、前回の教訓も忘れ安易に疑問を口にしてしまった。

「あのさ、伊月君」

「ん?何?」

「交際込にする必要あるのかな?」

バスケットの雑誌を読んでいる伊月君に私は、彼のネタ帳を添削しながら、巻き込まれた日から思っていた事を口にした。

現状として今のこの状態は巻き込まれ前よりは仲は良いけれど、別に交際の必要性は正直皆無だと思うからだ。

そんな私の思いを気にした様子も無く、伊月君はバスケット雑誌から目線をこちらに向けた。

「まぁ無いかもね」

「だったらさぁ」

彼の言葉に私は空かさず次の言葉を繋ごうとしたが。彼の方が一枚上手だった。

「でも、俺は気にってるよ。変にギクシャクしたりしないし、こういう風に恋人とゆっくりと平和な日常を過ごすとか、そういう方が理想だと俺は思うからね。俺的にはこういう交際が理想だから交際込で良いと思ってるよ。それともは好きな人とか居る?だったらちょっと考えるけど」

私にとって少し気恥ずかしい言葉をサラリと紡ぐ伊月に、私はタジタジになりながら言葉を返した。

「いや…特に居りませんが…」

「なら、取りあえず良いじゃない?」

「そうかな?」

「そうだね。と言うか、は難しく考えすぎだね。交際込って言ったって、友人に毛が生えたと思えばいい。まぁ…が希望するならもう少し恋人らしいことも増やそうか?」

「いやいや。このままで、現状維持でお願いします」

手をブンブンと目のまで振りながら、そう私が紡げば伊月は少し柔らかく微笑みながら「じゃ、現状維持だね」と一言返すとまた、雑誌に目をむけなおした。

(よく分からまいけど…まぁひとまず現状維持で良い事にしておこうかな?)

何となく、腑に落ちないながらも私はそう納得することにした。
そもそも、自分が巻き起こした好奇心の産物なのだから…。

私と伊月君の不思議な関係はまだまだ始まったばかりである。



おわし



2012.9.4.(WEB拍手掲載2012.8.14.) From:koumi Sunohara

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