それは卓上の挑戦状
何時も通りの学校で、普通に授業を受けて過ごし次の授業の準備をしていた時、不意にクラスメートで割りとよく話すが俺に声をかけてきた。
「前々から思ってたけど、伊月君ってさ」
「ん?なに」
言いかけたの言葉を俺は促した。
それに対しては少し難しい顔をしつつ言葉を紡ぎ出した。
「んー別に伊月君を馬鹿にしている訳じゃない事だけ先に頭に入れといてね」
そう前置きしてが言葉を続けた。
「頭も良いし、運動できるし、顔立ちも良ければ、性格も良い奴だけど」
「そうでも無いと思うけど」
(んーは何を言いたいのだろう?)
の言葉に返事を返しつつ、彼女の言葉を待つ。
「何て言うか…残念な美形だよね」
本人を目の前にしてハッキリ言うに、俺はある意味清々しさを覚えた。
(第一俺別に美形でもなければ、そんなに運動と勉強ずば抜けてできてる訳じゃないしな)
の言葉を聞きながら、正直俺は他人事の様に考えていた。
美形と言うのはモデルをやっているキセキの世代の黄瀬の様な事を言うし、運動についてもキセキの世代のようなずば抜けた連中を指す。勉強については、偏差値の高い学校に通っているような天才達の事だと思う訳で、の言うチート能力者に美形補正をかけたような奴では俺は無い訳でイマイチ俺としてはピンとこないでいた。
俺の様子には小さくため息を吐いて、言葉を紡ぐ。
「あのね。伊月君。君は自分と無関係と思っているかもしれないけど、世間一般的に君の顔立ちは整っているのに分類されるし、バスケットでレギュラーやっている時点で世の運動音痴からすると運動が出来るに該当するんだよ。ちなみに頭についても、学年100位以内に入っていれば出来る人の分類に見事ノミネートする。最後に性格についても、その謙遜する所とか…普通に女の子に対してさりげなく優しい所だって、ザックリ性格の良い人に該当しているわけだよ」
「んーそうなのかな?」
「そうなの。それで違うって言うなら、世の中の男を殆ど敵に回す事になること間違いないよ」
相変わらずハッキリ言うさんの言葉に、若干自分がそのさんの言う様な人間か否か納得できず、俺は難しい顔になる。
そんな俺にさんは、継ぎ足す様に言葉を続ける。
「第一、伊月君の周りに特殊な人が多い…何だっけモデルの黄瀬何たら君とか、規格外の火神君とか色々だけど、私にしてみれば伊月君も十分凄い人の分類だよ」
「凄い人って大袈裟だよさん」
「いいや。凄い人だね」
「何処が?」
「正直運動が苦手な私にしてみたら、何でそんなに動けるのか理解苦しむし、漫画や小説だけの話しと思っていたラブレターや校舎裏の告白をされる人間がモテナイと思っていたら、本当に何?って感じに思うもの。色んな意味で凄い人なんだよ伊月君」
彼女の上げる言葉に、俺は今度こそ何と返して良いか分からなくなる。
(世間一般的に言うとまぁ確かにモテナイとは言えないし…運動は出来るけど…チートじゃないんだけどなぁ)
心の中でこっそり思いながら、一先ずさんに言葉を返す事にする。
「凄くは無いけど…そこそこかな」
「まぁ…いいよ。そこそこで」
「で…何が俺、残念なのかな?」
とりあえず納得してもらった所で、俺はさんが先言っていた『残念』発言に疑問を投げかけた。
そうすると彼女は、俺の何時も持っているネタ帳を指さした。
「そのネタ帳…と言いますかね…伊月のギャグが残念な感じだと思って」
「ギャグが残念?」
「うん。残念」
の間髪入れずに返された言葉に俺は、言葉を噛みしめて居た。頷かれた言葉の意味が俺の中で理解出来ずにグルグルすること数秒間。
(ギャグが残念…ギャグが残念…ギャグが残念…ん?ギャグが残念!!!え?どの辺が?)
ドーンと言う効果音が付きそうな程のショックが俺の中で駆け巡る。
「何で?結構渾身の作品が多数で、どの辺りが残念か分からないんだけど」
ハッとして俺はに思いっきり、言い募る。
言い募られたはというと表情に(そう言う所が残念だ)という感情を浮かべていた。
(だからどの辺り何だ。分からない)
打ちひしがれる俺に、は徐に俺のネタ帳を手に取りパラパラとページを捲る。
ピタリと止まったページを開いたは、徐に一文を指さして静かに告げた。
「んとね。特にコレは酷いかな『パンダのエサはパンだ』界王様じゃないんだから、これは頂けないよ。後、『猫が寝込んだ』とか」
辛口の批評に、俺は思わず低い声音で大人げない事を紡いでいた。
「ふーん。それじゃの面白いダジャレ言ってみろよ」
「え?そうきたの?」
「ああ。そうきたさ、そんなに言うならはさぞ面白いギャグが言えるんだろう?」
かなり無茶と分かる無茶ぶりを俺は何故だかにしていた。
俺だって、中々浮かばないのに…正直可哀想かな?と思ったけど辛口の仕返しに思わずそんな事を口にしていた。
は少し瞬きをしつつ、難しい顔をしながら言葉を紡ぐ。
(え?もう出来たのか?)
「ギャグね…(と言うよりダジャレでしょうに…何故?私がこんな目に…)。そうだなぁ。下手に『蟻が十でありがとう』とか?って笑えないか。『配送ですか?はい、そうです』なーんてね。いやーごめんよ、伊月、ギャグは難しい…」
二つほどがダジャレを言った所で、俺は打ちのめされた気分だった。
(短時間でこの仕上がり…言うだけの事がある。しかも面白い)
グッと拳を握り打ちひしがれる俺。
俺の様子にが心配になったのか、覗き込んできた。
「おーい。伊月君。私が悪かったから…戻っておいで」
手をヒラヒラ俺の目の前でさせたがそう言った。
(戻ってるし。それにしても、凄いな〜。ん?冷静になって気付いたけど、とならダジャレについてディープに語り合えるじゃないのか?)
ハッと重要な事実に気がついた、俺は手をヒラヒラしている、の手をガシッと掴んだもとい、両手で握った。
「え?何事?」
突然の出来事に理解できないを気にせず俺は、思った事を口にした。
「凄いな、。短時間で2個も考える何て本当に凄いな」
「はぁ?」
「俺のネタ帳評価するだけの事あるって本当に」
「いやあのね…そこなのかな、評価するのって(そもそも、私伊月君が残念な美形だねって話だったんじゃ?大藪つついたかなコレは…)」
「ああ。が言っていた残念なイケメンな。がそう思うなら、その通りでいいよ」
「い…伊月どうしちゃったのさ…何か色々御免って感じだけど。取りあえず落ち着こうか…まず手を離すと所から始めようか」
やんわりと言うの言葉に応じずに俺は、寧ろその手を強く握った。
「俺は何時も冷静だよ」
「いや冷静じゃないしね。今現在」
の突っ込みを完全にスルーしている俺に、は懲りずに言葉を紡ぐ。
「伊月が思ってるほど私ダジャレ好きな訳じゃないし…このままだと、伊月ファンに刺されるかもだし…こういうシチュエーションは彼女さんとやりなさいよ」
「ん?彼女はいないから誤解されないし大丈夫だ。そもそもが指摘したように俺のダジャレ見て去っていくような子達はファンじゃ無いからファンも居ない」
そう言葉を紡ぎながら、俺は、はて?と思う。
(こんなに気負う事無く、ダジャレを語り合える女の子にこれから巡り合うだろうか?いや無い…それには嫌いじゃ無いし寧ろ好きかも)
少し冷静になって考えてみたら、は俺の理想にぴたりとはまる。
(うん。優良物件は逃がす手は無いね)
勝手に自己完結している俺に、さんは相変わらずの突っ込みを入れる。
「おいおい。伊月君ますます残念な発言しないでおくれよ」
俺の行く末を心配だと言いたげな彼女に、俺は「残念で良いんだ」とボソリと呟いてから、本能のままに言葉を紡ぐ。
「残念なイケメンと思うと言う事は、少なからずの中では俺の顔はそんなに悪いと思っていないと言う事だよな。ダジャレを語り合う同志としてこれからヨロシクって思ってたけど…。やっぱり変えよう」
「何をさ(凄い嫌な予感が…)」
「交際に発展すること混みでダジャレを語り合う同志としてこれからヨロシク。いや」
の手を握ったまま、自分的に精一杯甘い表情を浮かべながらもといにそう告げた。
「なぁ〜なんですと〜!!!!」
驚くの絶叫が、教室中に響いたのはご愛嬌って事で…。
「そうそう。俺、鷲の目持ちだからの事逃さないから覚悟してね」
まだ、立ち直らない彼女に俺は耳元でそっと囁いた。
ひょんな事から、こうして俺との攻防戦は始まりを告げたのである。
おわし
2012.8.14(WEB拍手掲載2012.7.20.) From:Koumi Sunohara