イラツク原因(3)   

「お茶?」

翼はを訝しそうに、見返す。
は、翼の表情を見て“はっ”とした表情になっる。

「あっ…別に、日本茶じゃなくて…紅茶とかもありますから、安心して下さい」

そして、呟いた言葉はそんな間の抜けた言葉を口走った。

「いや…そうじゃなくて」

翼が、に対して言葉の意味合いを訂正しようと口を開くが…彼女の“のほほん”とした笑顔に言葉を止めた。

「で、椎名先輩は何を、飲まれます?」

コーヒの豆やら、紅茶の缶等を翼の前に掲げて尋ねる

「じゃ…紅茶」

「はい、かしこまりました」

喫茶店の店員のように、ペコリとお辞儀する

が、翼の為に紅茶をいれている。
翼は、ぼんやりとの様子を見つめている。

「な-、お前って変わってるて、言われるでしょ?」

ふいに翼が口を開いて、そんな事を言った。

「そうですか?う〜ん、でも椎名先輩が言うんですから、きっとそうなんですね」

は紅茶を淹れる手を休めることなく、返事を返す。

「お前さ〜、“何でそんな事、言うの?”とか思わない訳?」

益々呆れて、翼が呟く。

「ああ成る程。でも、事実ぽい気もするんで…別に良いかなと」

はあっけらかんと答えた。
その言葉に、翼が目を丸くする。
クスクス。
思わず翼は笑いが出る。

「面白いなお前」

優し気に笑う翼を、は嬉しそうに見る。

「はい、どうぞ」

は、翼のカップに紅茶を注ぎ手渡す。

「ああ、サンキュー

翼が紅茶を貰いながら、の名を初めて呼んだ。

「…?」

(今…名前…呼ばれた気が…)

は、思わず凝視してしまう。

、何?何か僕の顔に付いてる?それとも、見惚れた?」

意地悪そうに翼が笑う。
これぞ正に、翼がに気を許した瞬間であっただろう。
パチクリ。
目をしばたきながら、は翼を見た。
翼は、楽しそうにその様子を見る。

(やっぱ面白奴)

次に、貰った紅茶に口を付けた。
コック。

「…旨い」

ボソりと、翼は呟く。

「美味しいですか?良かった」

その様子を、はホッとしたように微笑む。
しばらくして、は翼に話を始める。

「この温室で、椎名先輩とお茶を飲んでいるなんて…何だか、不思議です」

しみじみと、は語る。

「何?僕が温室でとお茶を飲んでいるが変だって言いたいわけ?」

聞き捨てならないと、翼はすぐに答える。

「いいえそうでは、無く。椎名先輩は、有名な人ですし…それに、温室なんて興味ないでしょ?」

慌てて、補足を付け加える。

「確かに…温室には興味は…無いけど」

む〜。
翼は頬を少し膨らませて、ふてくされたように呟く。

「だから、何だかココでお茶を一緒に飲んでいるのが…不思議だな〜って…あっ気にしないで下さいね」

答えながら、は翼に曖昧に微笑む。
翼は、の答えを聞いて何となく納得する。

「でも、此の温室で人を招いてお茶を飲むのって何だか、和みますね〜」

柔らかく笑うに、翼は癒される思いだった。

「やっぱり、緑が人を和ませるんでしょうか?」

植物達を愛おしそうに、は見つめ翼に尋ねる。

「さ〜ね」

翼は、曖昧に答える。

「でも、ココの植物はなかなか好きだけどね」

照れくさそうに、素っ気なく答える翼。

「有り難う御座います…そう言って貰えると、この子達を育てている甲斐がありますよ」

嬉しそうに、は微笑む。

「そう言えば…他の部員はどうしたんだ?全然来る気配無いけど」

兼ねてから疑問だった事を、翼はに尋ねた。

「園芸部は、私1人でやってるんです」

困ったように、は答えた。
変な心配を、翼にかけたくないかららだ。

「嘘…1人でこれだけの数を、手入れしてるわけ?」

案の定、翼は心配とも呆れともつかない口調でそう言った。

「はい。あっ、でも黒川君や井上先輩もたまーに手伝ってくれますよ」

慌てて、はそう言う。

「そのお礼が、クッキーて訳ね」

翼が、独り言のように呟く。

「クッキーがどうかしました?」

は不思議そうに、尋ねた。

「いや…この前柾輝から貰ったクッキーが、が作ったヤツなのを思い出しただけ」

ボソっと答える翼。

「あああ、そう言えば黒川君に頼まれてハーブ入りクッキーを作ったような…それって、椎名先輩が食べていたんですね〜」

しみじみとは頷いた。

「旨かった…また…作ってくんない?」

そんなに翼が、照れ臭そうにそう言った。

「ええ構いませんよ」

ニッコリとは承諾した。

それから、翼とは今の現状に至る。



((回想終了))



「それより、本当にどうしたんですか?…今日練習の日ですよね」

は翼に悪いと思いつつ、そう尋ねる。
もしも、答えたくなければ…きっと答えないと思ったから尋ねたのだろう。
しばらくの沈黙の後のこと…。

「急にに会いたくなった」

普段の翼から考えられないぐらいの、小さな声だった。
そんな小さな声にも、は聞こえていたのか、真っ直ぐ翼を見つめる。
翼は、言葉を紡ぎ出す。

「飛葉の練習の時や3日間の合宿、サッカー漬けの毎日…僕にとって、好きな事への近道で好きな事なのに…。何故か苛々が増してきた」

翼は、一度言葉を切る。

「何でか、考えて…考えて理由を考えていたら…の顔が浮かんできた」

 頬をポリポリと2〜3度掻き、照れくさそうに翼はを見た。

「え?私ですか?…何かしましたっけ?」

困惑気味に翼を見る。

(私…椎名先輩に何か、したんだろうか?焦って来るような…失態を何時しただろうか?)と心のなかで思いながら。
翼は、の心中を察したのか…言葉を付け加えた。

「別にが何かしたからじゃ無くってさ〜。何て言えば、に分かるかな〜」

少 し悩みながら、翼はを見る。
って結構…天然で、鈍い所があるからな〜)と翼は思う。

「うーん、ようするにに会えなくて、苛ついていたって訳…分かった?」
溜め息まじりに、翼がそう言う。

「ああ、成程〜…って、私何時椎名先輩の…役に立ちましたっけ?」

納得しかけて、は首を傾げた。
そんな普段と変わらない反応に、翼はすっかり何時もの冷静さをとりもどしていた。

(やっぱり、って凄いんだな〜)

翼はしみじみと思う。
翼を、ここまで振り回す人間なんて数えるほどしかないからだ。
翼は満足したところで、自分の見解をのべる。

「本当のところ…僕にもはっきりとしてないけどさ。一つだけ言えるのは、が僕を何時もどうりに戻してくれるってこと」

「嘘…椎名先輩は、おせいじが上手いんですから」

は、そう答えるけれど…翼の目は酷く真剣だったから。
は、納得するしかなかった。

「嘘じゃない。は、何時もどんな時も心を落ち着かせてくれる。は、何時だって僕の中に居る…その意味分かる?」

酷く優しい声音で翼は、そう告げる。
少し考え込む
そこに翼のトドメの一言。

「好きって意味…分かるよね」

は、驚きのあまり言葉にならず口をパクパクさせた。
その様子に翼は苦笑を少し浮かべた。

「僕が…の事が好きっなのって…そんなに驚く事?」
 
翼の問いに、は焦ったようにすぐに答えを返す。

「何というか…滅相もないと言うか…私が椎名先輩に…告白されるなんて…思ってもなかったから…」
 
口ごもりながらも、はそう言った。
はぁ〜っ。
 
呆れにも似た溜息を翼は吐く。

「あのね〜、僕が冗談でこういうこと言うと思う?」

ブンブン。
思いっ切り首を横に振る。
翼が冗談でこう言うことを、、言わないのを知ってるからだ。

「なら…僕のことどう思う?」

畳みかけるように、に尋ねた。
は、困ったように眉を寄せた。

「今…すぐですか?」

そう翼に言うものの、翼は沈黙したまま。

(今すぐ…ってことなんですね)
 
半ば諦めたように、翼を見ると翼がふいに口を開いた。

「だって、簡単なことでしょ。YESかNOの2つに1つ。それ以外に曖昧な答えは、僕にしたら全部NOなんだからさ」
 
はっきりと宣告された言葉に、は頭をフル回転させていた。
一生懸命に考える

そして…

「NOなって…言えるはず無いじゃないですか…。私は…あの日から…先輩に惹かれていたんですから…」
 
小さな声で、口ごもりながらは俯きながら言う。
翼は満足そうにを見た。

「じゃ〜答えは決まってるね」

を促す翼。

「先輩…椎名先輩が好きです…」

「上出来。だから、良い子だから…今度からちゃんと俺のこと下の名前で呼んでよね」
 
翼は、に嬉しそうにそう言った。
反対には困ったような、顔で翼を見た。

「でも…急には」

「へ〜、の僕の事好きは…その程度なんだ」
 
わざと悲しそうに、呟く翼。

「…翼さん…」

 
名前で呼ぶのを苦手なが、一生懸命に翼の名を呼んだ。

「“さん”…は余計なんだけど…まっ、今は許してあげるよ…。…その内ちゃんと、呼んでよね」
 
恥ずかしそうに、俯くと嬉しそうに勝ち誇った翼がそこにいた。



((おまけ))

「翼さん…もしかして、サボリましたね?」

「良いじゃん別に」

「今から行きましょうね…サボリはいけませんから」

「マジ?」

「ええ」

 こうして、に連れられて翼は練習場に戻ったのである。 

 END

2001.08.30  改定2009.06.2. From:koumi sunohara
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