苦手を克服する方法(5)
長い静寂に感じるが、実際は数秒間の事である。
このブレイクタイムに真っ先に飛び込んだ男が居た。
そう藤代誠二その人である。
一旦仕切り直しの様に、静まった空気を一番に喜んだのは藤代だったのかもしれない。
「〜やっぱりは俺の救いの主だメシアだ」
助かると思ったのだろう、藤代は自身も何を言ってるのか分からない様子で、そんな言葉を口にした。
藤代の言葉に、戸惑いを隠せない三上と笠井。
(( だぁ?))
「ああ、えっと、 さんスマナイ」
別に動じていない、渋沢が に詫びをいれる。
「わかって、くだされば良いんです」
は、自分の後に隠れている藤代を渋沢の前に出した。
「…」
“不安いっぱいです”というような目で、 を見上げる藤代。
(ヤレヤレ…)
溜息を、ついて は、渋沢と藤代を交互に見た。
(飼い犬を、もった気持ちだな…)
一拍おいて言葉を紡ぐ。
「よろしければ、追いかけている理由を、教えてもらえませんか?」
「大したことは、無いんだよ」
キャプテンスマイルを、 に向ける。
「そのわりに、怯えている気がするのですが…」
の後ろに隠れている、藤代を見なが言う。
「確かに…」
苦笑を浮かべる、渋沢。
「単刀直入に言うと…」
「言うと?」
「藤代が、何処で昼をとっていたのか?と言う疑問と、君との関係についてを聞いていたんだ」
言いにくそうに、渋沢は言う。
「?私と、藤代君との関係ですか?」
分かりかねると、言うように聞き返す 。
「そう」
は、少し考えてから、口を開いた。
「苦手克服の同志と、言ったところですかね」
サラリと、答える 。
目を見開く、渋沢と笠井。
((同志!?)
「彼女て、わけじゃね〜のかよ?」
デビルスマイルを浮かべて、三上が尋ねる。
「違うと、思います」
「はぁ?自分のことことだろうが!」
呆れたように、三上が言う。
「自分でも、良く分からないからです」
ハッキリと、言い切る 。
「私は、“人間らしい感情を”藤代君は、“人参を”克服している最中なので、分からないのです」
凛とした口調。
「と言うことは… さんは、誠二に習っているってこと?」
笠井は、「信じられない」とそう言った。
「ええ、そうです」
「“コンピュータガール”が、藤代に教えてもらってるなんてな〜」
明らかに、からかいを含む三上の言葉。
「三上先輩いい加減してください!! に失礼ですよ〜!!」
三上の言葉に、たまらず藤代が口を挟む。
でも、 は気にも留めていないように答える。
「何か、問題でも?」
氷のように冷たい瞳で、三上を見据える。
「用が済んだんだったら、お引き取り願いますか?先輩」
感情の一片も、含まぬ口調で は言った。
そのやりとりを見ていた、渋沢が口を開く。
「成る程… さんは、藤代と切磋琢磨しているわなんだな」
「そうなりますね」
渋沢は、真顔で に尋ねた。
「しかし、藤代に人参を食べさせるのは、至難の技じゃないのか?」
「気長に、やってますから」
酷く優しい目を、藤代に向ける 。
(こんな、表情もできたんだな〜…藤代効果か…)
しみじみと、思う渋沢。
「気長といっても、具体的にどうしてるんだ?俺も、頑張っているのだが…ちっとも食べなくてな〜」
“どうしたものか?”という顔の渋沢。
「1日ちょっとずつ、与えてるんですよ」
クスクス。
楽しそうに、笑う。
「無理せず、少しづつがポイントですね」
“コンピュータガール”の意外な、表情に渋沢もつられて微笑む。
(ココまで、藤代効果で、変わるものなんだな〜)
「君に、藤代は良い効果を与えてるようだね…」
「ええ、楽しいですから」
「それが、分かれば良いんだ…邪魔をしたなさん、藤代」
渋沢は、そう言うと三上と笠井を連れて出ていった。
3人が、居なくなった後。
「ゴメンね …迷惑かけちゃて」
「何故?別に、迷惑ではないけど」
本当に、スマナそうに謝る藤代。
は、藤代に笑顔を向けた。
コレも、藤代と話すようになってからのことで…。
「私的には、視線の謎が解けてスッキリしてるから」
「でも、それって俺の原因だし…」
「誠二君の御陰で、色々興味深い体験が出来て、私は嬉いんだ」
晴れやかに、 は答えた。
「!?今、名前で呼んでくれた?」
「ああ」
「取り合えず、私は1つクリアーしたな」
「誠二君も、頑張ってもらわねば」
三上のデビルスマイルぽく、 は笑った。
「うっ…」
「今日の分の、人参頑張って食べて、くれたまえ誠二君」
「が…頑張ります」
人参を“じーっ”と睨めっこする藤代。
本日の課題を、“もぎゅもぎゅ”食べながら藤代は、 に話しかけた。
「今度はさ〜、君無し」
その言葉に、少し目を丸くする 。
「そうだな」
(レベルUPか、悪くないな…)と思う 。
藤代は、ニカと笑う。
「それに、好きな子には気つかってほしくないから」
恥ずかし気もなく、言い切る藤代。
「で、返事は?」
少し、考える 。
そして…。
「ふ〜ん。なら、誠二君が、人参を克服したらだな」
「えええええ〜っ、マジで?」
驚愕する藤代に、コクリと頷く 。
「人参を完全克服する日を、気長にまっているさ」
「う〜ん、それって難易度高くない?」
上目遣いに、 を見上げる。
は、戯けるように藤代に返す。
「おや?私への気持ちは、そなに低いのかな?」
「違うけどさ」
少し、頬を膨らます藤代。
「だから、気長と言ってるだろ?」
クスクス笑う 。
「分かった…絶対、 より早く克服してみせんだからな!!」
に、指をさして宣戦布告。
と藤代は、顔を見合わせてた。
「「じゃ、競争だな」」
先の長い戦いは、当分続く。
この2人の苦手克服は、まだまだ時間がかかりそうだ。
でも、近い将来…苦手を克服した2人が、恋人になる日も遠くないだろう。
END
2001.4.23 From:Koumi Sunohara