−溶けた後何が果たして残るのか?−
学内コンクールと言うものが開催されて、滅多に交流のない音楽科が少しだけ近いような気がしたある日。
同じ普通科のクラスメートである土浦が育ちの良さそうな音楽科と言い争ってるのを見かけた。
土浦と対照的なその人物は、凄く不機嫌そうな顔をしていた。
初めてその人を見た印象は、刺々しい刃物の様な人だと思った。
触る者を全て傷つける、他者を拒むそんな人と言うのが月森と言う人間に対して思った印象だった。
実際彼の家は、音楽一家で音楽エリートなのだと報道部の新聞で読んだ覚えがある。
プライドが高い人物である事は、何となくだが理解が出来た。
(他人では無く自分との戦い…だから他者を気にとめない…まるでアレだ…学校先生の子のコンプレックスみたいなものね)
と言う勝手な想像で納得した私は、単純に月森蓮と言う人物をそう締めくくった。
土浦と言うクラスメートと仲の悪い…取っつきにくい人物として。
だけど何故だか…そんなやりとりを目撃してから、私の視界によく月森と言う人物が入るようになった。
意図的に探している訳でも無いと思う。
ただ…バイオリンの音が聞こえて、それに惹かれて見やれば彼が居る。
そんな感じだ。
もしかしたら、彼の奏でる音楽に私は興味を持ったのかもしれない。
感傷的なワルツ
ツィガーヌ
ロマンス第1番
曲のタイトル何て知らないくて、それでも耳に入る音色に多少音楽心がある人間が曲のタイトルを言うものだから、少しずつ覚えていく。
後は報道部の天羽ちゃんが、聞いてもいなくても教えてくれるのもあるんだけど。
そうやって、気が付けば月森君を視界に入れる日々が続く。まるで、片思いの相手の何かを知るように。
音楽で溢れる学院内で、月森君の音だけを聞き分けれるほど、良い耳はしてないけれど。
不思議なほど分かるから本当に、不思議だ。
そんな日々が続く中、月森君の情報がどんどん増えていく。何だか…当たり前の様に。
なれ合う事が嫌いなのか、一人で居ることが多く…他のコンクール参加者の様にパフォーマンスや度胸を付けるために外で演奏をする訳でも無く室内によく籠もって音を奏でていた。
けれど周りは、その雰囲気がクールで格好良いと言う。
プライドの高そうな口調も…彼を高嶺の花にするのに十分なスパイスになるらしかった。私には理解できないけれど。
要するに月森と言う人物は、女子には好かれ…男子のやっかみを買う典型的な人物と言っても良いのだと思う。
別に私は音楽が嫌いでは無い。クラシックも聴いてる分に、不快を感じたことは無い。
やっぱり彼の音は気に入っている。
けれど、堅くて…機械的な音色に残念に感じる。
クラスメートの土浦君は、訴えかける様な情熱的な演奏をする。
哀愁を…切なさを…そんな沢山の気持ちが、曲の意味が分からなくても伝わる。ショパンの別れの曲を聴いたとき、演歌を聴いた時の哀愁を感じて好きだった。
同様に普通科の日野さんの音も…彼女の一生懸命さが音になっている。
荒削りと人は言うかもしれないけれど、そんな音だって悪くないと思える、不思議な音色を持っている。
素人のである私が言えた義理ではけして無いけれど…。
他の人達も凄い特徴的な音色を持っている。
けれど月森君にはそれがあまり感じない。
恐らく正確であろうメロディー。
楽譜に忠実な音楽。
確か志水君と言う一年生も正確な音色を生んでいた気はするけれど、それと又違う…無機質と言うか…すごくバイオリンの音だけが強い気がする。
上手くは言えないけれど、そんな風に私には感じた。
でもソレは…彼の世界では無い。
機会で作られた音楽をを聞いて感じる音の綺麗さ…それだけの様に思えてならない。
何だか寂しく思う。
そんな彼も変わろうとしているのか、他人と関わろうとしない彼に変化が見られるようになった。
土浦君の音楽を批判しながら気にしてる様子だし…日野さんの音楽を酷く気にするというか…彼女自身を含めて気にするようになった。
私が月森君に感心を持つ様な…それ以上の何かを感じた。
(もしかした…彼の音楽は変わるかもしれない)
素直じゃない月森君は、私の淡い勝手な期待を見事に裏切ってくれる人だった。
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2008.7.2.From:Koumi Sunohara
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