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木枯らしが吹き始める今日この頃。暦は十一月。
奇しくもこの日は、有る意味特別な日であった。
さてはて何が特別な日なのかと言うと、実は十一月という月と曜日と周期が関係していたりする。
それが今日十一月の第三木曜日なのだ。
ちなみにこの日は、知る人ぞ知るボジョレー・ヌーボー解禁日。
ワイン好きの酒飲みを始め、お酒の飲める大人達は大抵浮き足立っていたりする。
まぁ別にボジョレー・ヌーボーに興味の無い人間には別に対した日では無いと言えば無いのだけど…。
この日ばかりは、嫌でもワインと言う単語を聞かざるえなかったりするのである。
それは日本特有のお国柄と言うべきか、はたまた情報の飛び交うご時世故か…どこに居てもボジョレー・ヌーボーの話が流れているのだ。
故に別に興味の無い主婦や会社員…果てはお年寄りまで、よく分からずにワインを購入していたりする不思議な日なので有る。
有る意味マインドコントロールの賜物であろう。
そう言う訳で の通っている…此処星奏学院内の教師達も、朝から何だか浮き足立った様子なのだ。
テレビの知識か…はたまた独学で学んだのか…知識の応酬に始まり、結局飲みたいと言う話まで…。
話題はやはり、ボジョレー談義。
朝の軽い教師同士のコミニュケーション中にすら…上がる話題に、教師である は苦笑浮かべるしか無かった。
(老若男女問わずにこの話題?校長先生もそうだけど…ワインに縁のない初老の先生まで…恐るべしボジョレー)
何て思いながら、彼女は繰り返されるボジョレー談義から避難したように、自分の席につく。
が席に着いてからも、仲間の教員達は不毛に近い談義に夢中だった。
しばらく時間が経過した今…。
場の空気も落ち着いたかと思いきや、妙なノリは今も尚続いていた。時間にしてお昼休みだというのに…。
花が咲いたように賑やかに、教師達がざわめきながらも話に花を咲かせてる最中、同じ教員である は混じるコトは無かった。
寧ろ自分の席から微動だに動かず、話に花を咲かせる同僚を観察しているようにも見える。
(楽しそうだね〜。と言うかお祭り騒ぎだね…)
ボジョレー談義に夢中で祭りか何か有ったのか?と言う盛り上がりぶりにも は、我関せずと言った具合に眺めている。
だからと言って勘違いしないで欲しい。話に混じらないだけでは有るが、 はお酒が嫌いな訳でもワインが飲めない訳でもない…寧ろ好きな部類に入る人物だ。
現状として は傍観者と洒落込んでいるのだ。
(お酒は好きだけど…いい加減ずーっとこの話題じゃ正直飽きもくるんだよね…。お仲間とか居ないかな?)
そうお思いながら、 はゆったりと職員室内に視線を巡らせる。
巡らせた視線の先に、 同様に話に交わらない人物を発見した。
(あれ?あれって…金澤だよね。彼奴お酒好きな筈なのに…なんで話に飛び込んで無いんだろう)
不意に見つけた人物が、 のよく知る人物…同期で酒飲み仲間である金澤だと言うコトに彼女は思わず首を傾げた。
そして、訝しそうに金澤に視線を投げると…流石の金澤も に声をかけた。
「何だよ 〜、ジロジロ見ちゃってさ。俺の顔に何か付いてるか?」
自分の顔を示して金澤が首を傾げる に尋ねた。
言われた は、少しハッとした表情を浮かべた後に慌てて彼女は首を振る。
「へ?別に何もついて無いよ。ちゃーんと普通な顔のままだね」
支離滅裂に近い言葉を紡ぎながらそう告げると、訝しそうに金澤が を見た。
その何とも言えない視線に(あちゃー…何か嫌な間合いだよ…何か言わないと…)なんて思った は、先思っていた素朴な疑問を口にする事で、嫌な間合いを埋めようと口を開いた。
「いやね…珍しいと思ってさ。金澤がお酒の話に混じって無いなんて」
呆れと言うよりも感心したと言った方がしっくりする声音で言う 。そして、頬杖をつきながら、本当に珍しい物を見る顔で金澤を見た。
金澤は に言われたそんな言葉に、内心拍子抜けした思いを抱きながら苦笑混じりに言葉を紡いだ。
「去年のヌーボーは美味かったけどな…何せお前に去年飲まされたから…。まぁそれは良いんだけど…別に。と言うか…俺はヴィーノ・ノヴェッロの方が断然好きでね。ボジョレーなんて目じゃ無いって訳」
「ほ〜…だから酒話なのに混じらないって事なんだ。成る程ね〜」
真面目に答えた金澤に は心底感心したように金澤を見る。
すると金澤は意地悪な笑みを浮かべて に言葉を投げてよこした。
「感心してるけど。 お前知ってるわけ?」
ニヤリと言う擬音が出そうな笑みで金澤は を見るが、彼女も負けじと微笑み返す。
「知ってるよ。イタリアのワインだよね…それもイタリア版のボジョレーでしょ…補足を付けるなら解禁日はボジョレーより早いっていうワイン」
ツラツラと並べる言葉に、尋ねた金澤も口笛混じりに感心したように に返す。
「やるね〜。流石酒好きって事か?」
「まぁね。伊達に酒を飲んでないって事だよ」
「寂しいね〜独り者の酒のみって」
ボソリと呟いた金澤の突っ込みに、 のこめかみは小さく揺れる。
「つーか金澤の昔の素性を思えば…ヴィーノ・ノヴェッロが良いって訳かな。何せイタリアはオペラの…」
態とらしく思い出したように紡ぐ の言葉を遮るように、金澤がすかさず口を挟む。
「やだね〜 ってば、言葉の文でしょに。で… は興味無いの?ボジョレー…去年は珍しく買っていただろ?」
無理矢理過去の話題から転換させるべく出した金澤の言葉に、 は微妙な面持ちで言葉を返した。
「いやね一応今年のボジョレーの販売会場には12時ジャストに行ったんだけどね」
何処か遠い目をしながら は呟くように口にする。
そんな言いにくそうな の言葉の続きを促そうと金澤は、冗談めいた口ぶりで先に言葉を紡いでみた。
「で結局…今年のボジョレーを買わずに、去年のボジョレーを買っちまったってオチ?」
“ははははマサカね”と苦笑混じりに金澤が言えば、 は短く肯定を示し言葉を続けた。
「だってね〜。試飲したけどどれも去年のに比べると厚みがない味なんだもん。んで…安い割に、コルク部分のパッキンが蝋でコーティングされてる…去年欲しくても手に入らなかったボジョレーが有ったら思わず買っちゃうでしょ。どうせなら美味い物にお金かけたいわ私は!!」
握り拳をプルプル震わせて力説する に、金澤は小さく苦笑を漏らす。
(オイオイ…大当たり?しかも何か逆ギレしてんな…まぁ俺の話題はすっかり忘れてるみたいだから良いけど)
矛先が完全に変わった事に安心しながら、興奮冷めぬ を宥めるように金澤は言葉を口にする。
「そうかもな。何だまぁ好みは人それぞれだろ…俺もボジョレーよりもヴィーノ・ノヴェッロの方が好きだし…お前らしくて良いんじゃないか?」
「うー…何か釈然としないけど…確かに好みの問題だもんね…。別にボジョレー・ヌーボー買わなくたって良いんだよね」
金澤の言葉を言い聞かせるように自分に言いながら は、やるせない気持をやり過ごそうとした。
そんな に少なからず罪悪感の有った金澤が、お互いの秘蔵酒を飲み比べる会を提案したのは放課後の事だった。
こうして色々な意味で、にぎやかなボジョレー解禁日は幕を閉じたのであった。
おわし
2004.11.19. From:Koumi Sunohara
★後書き+言い訳★ |
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