下克上 |
−敵わないこらこそ、対等になりたいと想う事− |
同じ時期に教師になって
同じように教員としての経験を重ねているのに、何故だろう
彼奴に敵わないのは…何故なんだろう?
此処は星奏学院の職員室。
普通科の先生から音楽科の先生もごちゃ混ぜに混在する場所である。
其処は職員室と言うだけ有って、静寂が支配する…生徒はなるべくなら足を踏み入れるのを遠慮しがたい…そんな場所。まぁ一部を除いては…。
それは、音楽教師である金澤と普通科で古典を教えてる との同期の桜である二人の
客観的から見れば面白く、別段迷惑を被る事は無いので周りの教師陣も彼等を注意することも無い。
そう言う訳で…お馴染みになりつつ有る、同期の桜どうしの下手するとコントの様なやりとりが今日もまた変わることなく行われていた。
静かな空間に良く響く声が辺りを包む。
「金澤〜、今日こそギャフンと言わせるから覚悟しな」
開口一番に大人の癖に大人げない…どこぞの昔の田舎ヤンキーみたいな科白を は気怠そうに机に突っ伏していた金澤に言った。
言われた金澤は、 の言葉にゲンナリとした表情で面倒臭そうに言葉を紡いだ。
「オイオイ。開口一番に言う言葉がソレかよ勘弁してくれよ…俺二日酔いで辛いんだからさ〜」
突っ伏していた顔を少しだけ上げて、金澤は気怠そうに に返す。
気怠そうな金澤と対照的に は、良く響く声で金澤に言葉を投げつける。
「二日酔いだろうがなんだろうが。今日こそ金澤を倒し下克上を成し遂げると決めたんだ!」
ビシッと指を金澤に指して、 はそう言葉を言い切った。
流石にその のノリに気怠さ全開の金澤もノロノロと顔を上げて顔を引きつらせた。
(今度は三国志とか…戦国絵巻系にはまったのか?…つーか下克上の使い方間違って無いか?)
渦巻く疑問を胸に押し込め金澤は、冷静を装って言葉を紡ぐ。
「 センセイ殿。日本語間違ってるんじゃ御座いません?」
丁寧語の使い方をわざと間違えたように使いながら、金澤は顔を引きつらせてそう言った。
その表情には(また新しい面倒事思いついたのか?)と貼り付けながら…。
そんな事を言う金澤に は…。
「間違ってないよ金澤。下克上は下位のモノが上位のモノとの関係をひっくり返すって言うのも有るけれど、敵わない相手に打ち勝つことに使われるから…強ち間違ってない。つーか“センセイ殿”は止めてよ…なんか小馬鹿にされた気がして腹立ち度が2割増だよそれ」
眉間に出来た皺を指で揉みほぐしながら は、憮然とした態度でそう言えば金澤はというと…楽しそうにそんな の様子を見つつ口を開いた。
「そりゃーな、ムカツク様に言ってるしな。誤字脱字が多いけど腐っても古典担当だもんなお前さん」
ニシシシと悪戯っ子の様に笑いながら金澤は に言った。
「くぅ…有ってることを言われるから余計腹立つけれど言い返せない自分が歯がゆい」
拳をフルフルさせながら は、ブチブチと金澤に文句を言う。
どこぞの学生と教師の会話に近いやり取りに、金澤普段滅多に教師口調で に言葉を紡ぐ。
「 は俺に喧嘩売ってる前に、それ直す努力するんだな」
得意気に言う金澤の言葉に、 の表情は益々顰めっ面に磨きをかけた表情で唸るように言葉を紡ぐ。
「そう言う所が勝てない所だよね。すんごく先生ポイし…同期なのに悔しいたりゃありゃしない…しかも言ってること正論だしさ」
恨みがましく紡がれる言葉に、金澤は小さく笑いを漏らしながら に言葉を返した。一応笑いを噛み殺しながら。
「そりゃー同期って言ったって、俺の方が年が上な訳だし…その分は上手じゃないとお話し合いにならんだろう」
「でもさ〜一応教師としてのキャリアは一緒なんだよ。何か悔しいじゃ無いか」
いじけ口調で はそう言った。
そんな の様子を見て、心の中で(なーるほど…俺と張り合ってたワケね…)と思いつた。
の真意が分かった金澤は、ヤレヤレと肩を竦めて にフォローすべく口を開く。
「今更だろ?急がなくても…俺は逃げも隠れもしないんだしさ。気長に下克上とやらに励めば」
「うっ…じゃーそうするよ。何か悔しいけどさ」
“はぁ〜”と溜息を吐きながら、 は金澤の言葉に納得の姿勢をした。
そんな を見て金澤は、小さく苦笑をもらした。
「 はどう思って俺に敵わないっておもってるかも知らんけど…なんつーのかね、俺も に敵わない面も有るんだぜ」
に届くか届かないかの声で、金澤はボソリと言葉を漏らす。
にはその言葉が届いていなかったのか…彼女は不思議そうに金澤を見た。
「何か言った?」
首を傾げて、尋ねる に金澤はヒラヒラ手を振りながら言葉を紡いだ。
「大きな独り言だよ。気にするなって」
「そう言われると気になるんだけどな〜」
が少し眉を顰めてそう言えば、金澤は「深く考えない考えない。コーヒーご馳走してやるから気にするな」と言って彼女を促した。
話は終わりと言いたげに。
は納得出来ない気持も有ったが、(まぁ良いかコーヒー飲めるなら)と思考を切り替えて金澤に従うことにしたのだった。
が金澤が漏らした、意味深な言葉が理解できる日は、どうやらまだまだ先のお話である。
職員室は、今日も賑やかな二人のやり取りが響き渡っていた。
END
2004.6.3. From:Koumi Sunohara