頑張れるのは |
−闇に差し込む一筋の光− |
ああ嫌になる。
自分一人が不幸だなんて思うことは、ハッキリ言って馬鹿げてるけれど。
思いたくなることだって有ると思う。
(だってそうでしょ…人は結構我侭に出来てるんだから)
まぁ…そんな事を愚痴愚痴言い出した所で何が変わる訳でも無いのだけどね。
それでもね…時間は等しく…へこむ私にも流れるのだから、神様は少し意地悪の様な気もする。
まぁ神様に喧嘩売ったって、どうにかなる訳でも無いから仕方がないんだけどさ。
最近の私は…音楽科の屋上に出没して…外の様子を眺めながら腐ってるのだ。
そんな事で解決するなんて思ってもみないけれど、私はそうやって時間を潰している。
まぁ…音楽科の多い所なら、普通科の友人や…面の知れてる連中に会わずに済むって言うのが大きいのだけどね。
今のところは遭遇していないので、私の作戦(?)は見事に合っているのだろうけど。
そんなこんなで、私は今日も一人腐ってる。
(今日こそは、叫んでやろうかな…)
屋上のフェンスにしがみついた私はそんな衝動にかられる。
何て言うのかな…青春してまーすって感じ。
海に向かって叫びたくなるのや…山で山彦を聞きたくなる様な…そんな衝動的なもの。
クルリと辺りを見わたしても、人の気配が無い。
(よし…叫んでみよう…)
意を決してフェンスを掴む手に力を篭めて私は大きく息を吸った。
丁度その時だった…。
ジャリっという靴と地面が擦れる音が不意に耳に入った。
私は慌てて、視線だけ音の方に向ける。
一瞬目に入ったものは、普通科とは異なる色のズボン。
普通科の制服と違うから音楽科だろうと予想はつく。
(ああ…人が来たなら止めなきゃね…)
小さく溜息を吐き私は、来た人物をマジマジと見る事にした。
目に映るは鮮やかなエメラルドグリーン。
制服を着崩し、相棒の様に馴染みきったトランペットを持った…有名人火原君が其処に居た。
(火原君…か。、まぁ…凡人な私の事きっと知らないだろうな)
そう思っボンヤリと彼を眺めれば、意外な事に火原君から私に声をかけてきた。
「あれ?もしかて俺邪魔しちゃった?」
「別に。ちょっと屋上で腐っていただけだよ。私の方こそ邪魔でしょ…練習のさ」
「え?別に練習の邪魔とか関係無いよ。俺あんまり気にしない質だから。それに…沢山怒って、沢山泣いて…悲しんで。出すモノ出して、沢山眠って大騒ぎすれば…きっと元気になれると思うよ」
“コレ俺の持論ね”っと照れくさそうに笑って火原君は言う。
彼の言う言葉は確かに当たっているけれど、私は…それが出来ないので、思わず顰めっ面で火原君を見ると彼は小さく苦笑を浮かべて言葉を返してきた。
「まぁまぁ…そんな顔しないでよ。それにね世の中そうそう悪く出来てないよ“ ”ちゃん」
火原君の苦笑を横目で見ながら、私は彼の言葉が頭の中で反復していた。
(へー ちゃん… ?って私のこと?つーか何で知ってるの?)
予期せぬ事態に戸惑いがでかく、私は不思議な思いで火原君を見た。
「ちょっと待って。火原君…私の事何て何で知ってるの?」
「俺ね普通科の友達結構多いから、君の事知ってるんだよ」
「へー…って…普通科三年だって結構いるじゃん…」
納得しかけて私は現実を思い出して一人ボケツッコミな私。
かなり変なヤツである。
「ナイス一人ボケツッコミだよ ちゃん。そうそう、 ちゃんは元気が一番だよ」
私の一人ボケツッコミがお気に召したのか火原君は楽しそうにそう言った。
「何か火原君が楽しんでる気がするのは気のせいじゃ無いよね」
ジト目で火原君を見れば、彼は“あっ”と小さく呟いてから言葉を続けた。
「ゴメン、ゴメン。確かにそう言われれば俺ばっかりが楽しんでるよね。よし! ちゃん俺に出来ることならするから言ってみてよ」
滅多にないであろう有名人火原君のお言葉に、火原君のファンに撲殺されても仕方がない機会など滅多に無いので私は乗ってみることにした。
「じゃーさ。火原君がやってみせてよ…君の持つ音楽で私を元気にしてみせて」
自分でも言っていて照れる様なそんな言葉が私の意思とは勝手に紡ぎ出される。
そう言った私に火原君は少し驚いた表情を浮かべた。
それもそうだろう…自分でも驚くし…(なっちゅーことを言ってしまったんだ…しかも初対面に…)と後悔ばかり胸の中で渦巻いているのだから。
自分で言ってしまったたいそれた言葉に、私はやっぱり無かった事にしようと思い…訂正の言葉を紡ぐ為に言葉を紡ごうとしたのだが…。
困惑とかで固まっていたのか…黙っていた筈の火原君が不意に言葉を紡ぎ出してきた。
「うーん…。そっか…そうだよね。音楽ってそういった力有るよねきっと」
予想だにしない彼の言葉に今度は私が、驚く番だった…。
(ちょっと…何?ええええ?)
火原君のから紡がれる言葉の真意が、今の私の脳味噌は拒否してしまって…。
より一層私の困惑の度合いが増すばかり。
そんな私にお構いなしに火原君は言葉を続けた。
「土浦みたいに…しんみりとした曲は俺的に難しいけど。俺の奏でる曲って元気出るって定評有る方だし…何とか ちゃんを元気づけられるかもしれないもんね」
ニッと笑ってトランペットを掲げる火原君。
私は信じられない思いで、彼をぼんやりと眺める。
すると彼は不意に真剣な表情で、トランペットを吹く準備をした。
(って…早速吹くの?)
突然すぎる火原君の行動に私は、色々な意味でドキドキしながら彼の奏でる音色に耳を傾ける。
(何を吹くのかな…ガボットかな?)
そんな予想を胸に、彼の音に集中した時だった。
良く響くトランペットの調べは…あまりに意外な音楽を奏で始めたのだった。
それに対して思わず笑いが零れた…だって火原君の奏でた曲は…。
日本人なら一度は耳にしたことが有る…笑点のテーマ曲だったんだから。
真剣な顔をして弾くものだから…かなりの不意打ちで…これを笑わないでやり過ごせるほど私に余裕は無かった。
「笑った♪少しでも効果有りかい ちゃん」
不意打ちの火原君の音楽に笑ってしまった私を見て彼は、してやったりとそう言ってきた。
なので私も…。
「そりゃーね…思わず笑いが込み上げるほど効果覿面だよ」
と私も笑って返す。
そしてふと気が付く…。
あんなに悲観的でウジウジしていた私の気持は、何処か遠くに行っているように軽くなっていた。
(そう思うと火原君様々なのかな…)
何て私はボンヤリと彼のトランペットの音色を聞きながら心底そう思った。
おわし
2004.8.4. From:koumi sunohara