本気だぜ!!
−親とは結構勝手なモノです−




サワサワ揺れる木々の音と、緑の香りを含んだ風が通り抜ける山道。
その山道を疲れの色を見せない様子で歩く少女が一人。言わずとしれた赤月巴その人である。

彼女は、山道を軽い足取りで歩みながら家路へと何時もと変わらぬ調子で進めた。ともあれ…学校から家までの山道を何時もの様に登っていくのも 巴の習慣…と言うか日常だから…。


学校から帰りつかの間の休息だと言いたげに、巴は居間のリビングで毎日繰り返される会話も彼女にとっては変わらぬ一環のはずだった。
そう…日の中にあるそんな一幕。
だが今日は、少し様子が違ったのだった…。


「おーい…巴」


何処か気の抜けた声で娘を呼ぶ父の声に、巴は京四郎を見返しながら彼に応じた。


「ん?何父さん…ちなみにご飯はまだ出来てないよ」


かなり所帯じみた科白を平気で吐きながら、答える巴に少し若者らしさが少ない様に思うが…この父は別段気にすることもなく娘に軽く返事を返した。


「いやそれは見れば分かるぞ巴」


「そうだね。と言うか今日はお父さんが食事当番だし違うもんね」


ポムと手を打って巴は京四郎に言う。その言葉に、父は少し顔を引きつらせて小さく「忘れていた」と呟いた。
巴は父の不吉な言葉を聞き流し、「じゃぁ何?」とさっさと話題転換に切り出した。

その言葉に京四郎も、釣られる形で本題である言葉を紡いだのである。


「そうそう本題な。おめでとう巴…中学は東京の学校に進学だぞ」


娘の肩をポンポンと軽くたたきながら、京四郎はにこやかにそう言った。
そんな満足そうな父とはうって変わり、言われた側の巴は何を言われたのか理解しきれなかったのか不思議そうな表情である。


「はい?」


思わず聞き返す巴に京四郎は笑顔のまま同じ言葉を繰り返した。


「だから中学は東京の学校だって。田舎暮らしとおさらばだぞ良かったな」


グッと親指を立てて、ご満悦気味の父親に巴は小さな溜め息を漏らした。
そして…。


「四月一日にはまだ早いよ」


カレンダーを見やりながら巴は父親にそう返すが、返された京四郎は至って真面目に娘に言葉を返した。
同じようにカレンダーに視線を向けながら…。


「何ってるんだ。四月だったら巴はもう東京に居なくちゃいけないだろう…」


“はははは”と軽く笑いながら言う京四郎に、巴は眩暈を感じたがグッと堪えて巴は京四郎に対峙した。


「それって決まってる事なわけ?…と言うか私の意志は何処ら辺に行ったの父さん?」


首を傾げて言葉を紡ぐ娘に、父もまた首を捻って言葉を紡ぐ。


「何か問題有るのか?田舎の暮らしよりも都会に行った方がお前にとって喜ばしい事じゃないか」


「そう言われるとそうだけど…」


「それにな俺の母校なんだぞ其処。スポーツトレーナーを目指したいんなら尚のこと行っておくにこした事は無いしな」


“うんうん”と一人納得気味に頷くと父は娘にそう言い渡す。
巴にしても、自分の夢に近づける場所に行けるなら良いかな?何て思いつつ小さな疑問を口にした。


「即ち私はどう転んでも東京の学校に行くって事でしょ。勿論お父さんもなんだよね」


「巴が東京の学校に行くのは決まってるけど。俺はいかないよん」


「ええええ?じゃ私は何処に住むの?野宿?」


顔に悲壮感全開に巴は京四郎に尋ね返す。
そんなお約束な娘の反応に京四郎は、不敵に笑って言葉を紡ぐ。


「一人暮らしさせても大丈夫とは思うけどな。残念ながら違うぞ娘よ…下宿だ下宿」


肩をポンポンと叩き京四郎はそう言った。
巴は解せない思いを燻らせながら、父親の言葉を承諾したのだった。



かくして巴の青学での生活は、そんなこんなで始まるのである。
これは巴が越前宅に厄介になる数ヶ月前の出来事であった…。


おわし


2004.11.10. From:Koumi Sunohara




★後書き+言い訳★
今回は趣向を変えて、巴ちゃんのお父さんとの一幕をお届けしてみました。
地味に京四郎さんもお気に入りなキャラ何ですけどね…あまり見かけないですね。
日常ポイ話を置いてあるサイトさんを見つけれると良いんですがね。
取りあえず楽しんで戴けたなら幸いです。
こんな所まで読んで下さり有り難う御座いました。


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