幸せ計画
「笑顔を上手は幸せ上手なんだぜ」
自信満々にそう笑う人の子供の名はトパックと言った。
ベオクには珍しくラグズ寄りの考えをする不思議な子供。
燃えるような真紅の髪、好奇心旺盛な瞳。
何処までも前向きで…側に居るだけで周りが明るくなる。
ベオクに嫌悪感を持つ私でさえ…不思議とトパックを嫌だと感じない。
アイクと違う不思議な雰囲気を持ち、ラグズ奴隷解放に小さいながら頑張る不思議な少年だった。
その少年は、何時も大抵笑みを絶やさない。
それが不思議で尋ねると…。
冒頭の言葉を、サラリと言われた。
早くに親元から家出した少年に、簡単な魔法と生きる術を教えた老人が…ラグズ奴隷解放が上手くいかずに、落ち込む日々が続いた時、少年に老人が言ったのだそうだ。
「笑顔が喜びを呼び…涙が悲しみを呼ぶ。それなら少しでも笑っていなさい。トパックの笑顔は儂を元気にしてくれるよ…笑っていたら幸運の妖精も楽しそうだと感じてやってくるものだからね」
そう幼いトパックに魔法の言葉をかけたのだと言う。
それからトパックはなるべく、悲しい顔をしないように…笑顔が幸せを呼ぶと信じてそう過ごしているのだと言った。
正直それが本当の事なのかは分からない。
けれど、トパックの周りは実に明るい。
ムードメーカーと言う存在に相応しい。
そんな不思議な彼は色々な言葉の魔法を持っている。
彼を自質的に育てたであろう老人から学んだことなのだろうが…不思議な言霊が宿るような気がする。
「リュシオンさん。あのさ…“ありがとう”って魔法の言葉なんだぜ」
そう笑ってトパックが言うものだから、私は思わず何故だ?と尋ねると。
「んーっとね。ああ…そうそう。すぐリュシオンさん何かやって貰うとき謝るだろう?“悪い”“すまない”“苦労をかける”そんな言葉を使うじゃない。確かにそれって大事かもだけど、何ややってもらった時に“ありがとう”って言うとさ、やった方も“ああ、喜んでくれたんだ”って思う訳ね。そうしたら、困ったときはお互い様って感じで気兼ねなくなって…人との距離が短くなるよ」
「そんな言葉でか?」
半信半疑でそう言うと、彼は笑顔で応える。
「そう。貴族のお偉いさんとか…サナキ様もそうだけどさ…皆すぐ謝るんだ。そうしたら周りは気を遣っちゃうんだ。でねこの前エリンシア様にも同じ事言ってさ…エリンシア様アイク達に“ありがとう”って言ってみたら、皆との距離がさ少し減った気がしたって言ってたんだ。だからね案外リュシオンさんもそう言ったら、ベオクだけじゃなくてラグズとももっと仲良くなれるようになると思う」
「それは、ヤナフやウルキに対して言ってるのか?」
「うん。だって同じ…鷺の民じゃないけど同じ釜の飯を食った仲間と言うか家族みたいなのに…壁があってさ…何かそう言うのが寂しい。少しでもリュシオンさんが楽しくなれば良いんだ」
「変わってるなお前は。普通は自分の幸福のみを考えるものだろう?」
「そりゃー俺だって幸せになりたいけどさ。やっぱり皆笑顔の方が嬉しいよ…第一リュシオンさん鷺の民はさ色々大変だったんだからこれからどんどん幸せにならなきゃだと思うんだ。だから幸せ計画の一環でさ…“ありがとう”を沢山言うようにして笑顔になれば…少し幸せに近づけると思うんだ」
自分の事のように嬉しそうにそう提案するトパックに、私は何となく頷いていた。
「そうだな。そんな些細な事から始めるのも悪くないかもな」
そう応えたら、トパックはやはり嬉しそうに笑顔で返してきた。
よくは分からないが、そんな嬉しそうなトパックを見ると少し嬉しい様な気がした。
これが彼少年の言う…幸せ計画の一環なのかもしれない。
おわし
2009.7.3.(web拍手掲載→2009.5.7.) From:Koumi Sunohara