不幸こそ幸せ
急な幸せに人は不意に臆病になる


自分は初めから良い事なんて何もなかった。
生まれも生来の故郷である場所では無く、主である家の独房の様な古びたあばら小屋。

何時も悲しげな表情を浮かべる母と、主人の機嫌を伺う毎日。
機嫌を損なえば、ひとたまりも無い命の価値。

生命は平等だと女神は説くけれど。
現実はみた通り、虐げるものとされる者とハッキリしている。

私が何かして、そうなった訳でも無く。
負の連鎖の様に親の前から続く抜けられないループ。

自由になれるのは、死んだ時だけだと同じ様な境遇の誰かが言っていた。

だから変な期待も持たないで、主の言う事だけを聞く日々を続けた。
実の母や仲間が、また一人また一人と居なくなる中で。
無気力に、何時かくる終わりを待っていた。

今日もまた…。

けれど、今日は何か違って居た。
屋敷がザワザワと騒がしく…変だと感じた時に事は起こった。

大きな爆発音と、魔法の波動が届く。

(何が有ったのだろう?)

他人事の様にそう思ったら、聞き覚えの無い足音が自分の方に向かってくる。

「おーい。誰か居ないのか?」

小さな子供の様な声が私の居る方に向けて聞こえる。

(何で?子供が?)

そんな事を思っていたら、その声の主である子供はやって来て私の手を掴んだ。

「どうしたんだよ。早く逃げるんだよ」

「…」

「今しかチャンス無いんだぞ、早く来い」

「何処に行くんですか?」

「何処って…こんな所じゃ無い場所だ。制限は多少あるけど、自分の望みが少しでも叶う…家に帰るんだ」

「此処に居ても…行かなくても変わらないです。だから行きません…これ以上辛くなりたくないんです」

「そうかもしれないけど。でも今チャンスが有るなら掴めば良いじゃねぇか!それでも辛ければ、諦めれば良い」

そう言って、もう私の話を聞かないで少年は私を光の世界に連れだした。
力は弱いのに、何故か振り解けない力で。

「あ…言い忘れてた。俺トパックよろしくな」

お日様のような輝く笑顔で言う少年が、何だか私には堪らなく眩しかった。
陽ざしを知らない私には、その優しい日溜まりは少し怖く感じた。

そんな私が、その日溜まりに慣れる日が来るなんて…その時はまだ思っていなかった。


おわし


2008.3.27. From:Koumi Sunohara

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