君の幸せって?
不思議な少年が居た。
実家はベグニオンの裕福な家庭で育ったと風伝えで聞いた。
それなのに、ラグズ解放軍首領をして家を捨て、ラグズと共に居る少年トパック。
僕にとっては不思議でしか無かった。
僕の全てはアイクから始まったから、アイクの為に成ることをすることが僕の存在意義だと思っている。
確実に印付き…所謂親無しと呼ばれる存在であろう僕を認め、共に歩んでくれる存在だから。
けれど彼トパックは僕とは違う。
ラグズに命を救われたとか…そんな事では無く、自ら自分の家に居た奴隷にされたラグズ…ムワリムを救い、同じ境遇の者を解放するべく全てを注ぐ。
遊びたい盛りだろう…。
裕福な家庭に何も考えずにいれば、苦労も無く過ごす生活が待っていた。
けれど、少年は全てを捨てて…その苦労を苦労と思うわない。
そんなトパックに少しずつ興味がわいた。
僕にしては実に珍しい事…例えば同じ魔導を極めるものであってもさほど興味はわかない。
だから珍しく僕は彼に声をかけていた。
「少し良いですか?」
「あ…アイク将軍所の参謀さん…確かセネリオさん」
「はい間違い無いですよ」
「えっと…オイラに何かよう?」
困惑気味に尋ねる彼に、僕は素朴な疑問を口にした。
「色々聞きたいことが有りますが、単刀直入に言います」
「おう」
「君は今幸せですか?ラグズ解放軍と言う正直日の当たらない…苦労ばかりのそこで君は幸せですか?」
我ながら、言い方が悪く用件ばかりの言葉だったと思う。
けれどトパックは、少しきょとんと顔をしてから言葉をサラリと吐き出す。
「幸せだよ。と言うかセネリオさん所だって、そんなに裕福な傭兵団じゃないんでしょ?それと一緒だと思う…ムワリムも居る…ラグズの仲間達が居る…ご飯が食べれて笑いあえれるから幸せだと思う」
「それって凄く普通のことじゃないですか。それが君の幸せ?」
「うん。そうだよ…変かな?」
「変では有りませんが…幸せと言うには少々安いように思いますよ」
「そうかな〜。でもさセネリオさん」
「はい?」
「そう言う普通が…今こうしてセネリオさんとかと話したりラグズのみんなと一緒に居れる当たり前って…この戦争の中では幸せな事だよ。クリミアのお姫様だって…ある日突然何時もが無くなっちゃって…そう考えたら俺は幸せだと思う」
さも当たり前の様に…紡がれた言葉は子供特有の考えだけど言われてみればと納得するものだった。
「セネリオさんは幸せじゃ無いの?」
「いえ。そうですね…この平常の平凡さが幸せですよ」
「だろ?しかもさ…ここの傭兵団の飯凄く美味しい。オスカーさんのご飯美味しいし…すんごく幸せだ。セネリオさんがカリル先生みたいに魔法教えてくれた尚言うこと無しだけど」
とおどける彼に僕は、珍しく笑みが零れた。
(こんな風にアイク以外と話すのも悪くない)
「まぁ手が空いてたら構いませんよ」
「本当?約束だぜ…」
そう言って本当に嬉しそうに、幸せそうに笑うから僕も「嘘は言いませんよ」とさらっと返す。
そして少年は、せわしそうに風の様に去っていった。
幸せの有る種違う定義を教えて。
トパックは珍しく居ても苦にならない…寧ろ、心地がよい…少々にぎやかすぎるけれど。
そしてアイク意外の人間に…傭兵団以外の人間にそんな風に思ったのは僕にとって珍しい事だった。
もしかしたら…有る意味アイクに少し感性が似ているのかもしれない。
そう何となく思った。
そして幸せと言うものは、些細な…日常にあるのだと思い知らせれた。自分よりもずいぶん小さな少年に…。
おわし
2008.2.21. From:Koumi Sunohara
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