明日へ行けるから  


人は不思議。
ラグズもベオクも不思議。

どんどん私の知らない存在になっていく。
一つとして同じモノが無い、それは不思議…それは面白い。

不変を好む私の片割れは嫌がるけれど、私はそれらが嬉しく思う。
それは混沌、変化、自由を望む負の女神と呼ばれる私。
だから正の女神であるあの子には嫌われている私。

三雄と呼ばれる者達に打たれ、メダリオンに封印された時は悲しかったけれど、エルランの呪歌によって眠っていた私は寂しく無く、むしろ暖かな気持ちで過ごしていた。様々な鷺の民の手を渡り、アイクの母エルナそしてミストの手に渡りそして白鷺の手に戻り暖かい気持ちに包まれた。

けれど微睡みは続くことは無く。ミカヤの呪歌で目覚め…過去の繰り返しの様にあの子と闘うことになった。
石になった者達を助けるために。

正直勝つ勝算は少ないと思ったけれど…希望はすぐ側にあった。
ベオクの中でもかなり変わったベオクであるアイク。クリミアの英雄でラグズとベオクを差別する事など無い、私と考えが似ている人。

メダリオンの中で、まどろみながら眠り、そこからミストとアイクを見ていたから私は彼と妹が大好きだった。

けれど初めて私に会ったアイクは、最初は私を邪神扱いした嫌な人だった。
それは一方的に好意を抱いていた私には悲しかったけれど、何も知らずメダリオンに封印されていたのが邪神と教わっていれば仕方がないのかもしれない。
それでも、違うと判れば彼はちゃんと謝罪してくれた。

その姿はメダリオン越しに見ていたから、実際の姿も見ていた通りで嬉しくなった。彼の強さ弱さ優しさ全て見ていたから。

そして…何時だって諦める事をしない。母の死や父の死で悲しみにくれても、それでも生きる事を諦めない。
自分より他人を大切にする優しい子。

迷い無く進むアイクに私は思わずその事について尋ねていた。

「デインと皇帝軍との戦いの時もそうだけど…アイクは何故、迷い無く前に進めるの?」

「迷いだらけだが、今は前に進むしか無いだろ?明日に繋げる為…石になった連中を戻さんといかん」

ハッキリ言いきるその姿は、何処に迷いがあるのか分からないぐらい。

(嗚呼きっとこのアイクを見て人達は勇気を貰うのね)

不意に浮かぶ心の声のままに、私は言葉を紡ぎ出す。

「でもアイクは前に進むのね…その進む姿が皆に勇気を与えているのね」

私の言葉にアイクは、少し悩んだ様子で言葉を返してきた。

「俺を見て勇気が出るかどうかは知らんが…それで皆が頑張れるなら、それで良い。ユンヌやミカヤが居るから俺達は救う術を得て頑張ることが出来るのだと俺は思う。だからユンヌあんたには感謝してるんだ」

不器用な言葉に、私は嬉しくなった。

「明日が来ると信じているから頑張れるの?」

「ああ」

「明日に繋げるために今進むのね?」

「そうだ」

「なら私も皆と共に頑張れるかしら?」

「当然だろう。あんたが居るから皆が居る。ユンヌも皆も頑張るから明日に行ける」

ポンと優しく私の頭に手を置きながら言うアイクに私は笑って返した。

「そうね。なら私も明日に行く為に頑張る…だからアイクは私を助けてね」

そう言うとアイクは柔らかく笑って頷いた。


勝てる勝てない

そんな事は分からないけれど

それでも明日のために

明日に行けることを信じて私は進む


おわし

2007.10.11.From:Koumi Sunohara
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