傭兵家業は何時だって理不尽なものばかりだ。
良い雇い手に恵まれれば、それなりに辛いことはないが…だが大抵は雇用主の捨て駒扱いが関の山。
だから傭兵は雇用主との駆け引きが必要になる。

真に自分の命をかける価値が有るのか?

金に見合う仕事をして、キレの良いところで手を引くか…。

その駆け引きをしなくては、この傭兵家業はやってはいけない。傭兵の鉄則と言っても良い。


誓い
−彼の望む世界の行方のために−




変わった奴がリーダーだと思った。

まぁ…パント様も人に優しい方ではあったが…お人好しな若い雇い主。
だがそのお人好しは、期待に応えれるほどの力と周りへの影響力のある奴だった。それが幸か不幸か何て俺には計る事は出来やしぇが…。
何せ俺はしがない傭兵に過ぎない…一応小規模ながらの傭兵団の団長なんてモンになっていまってるが…それだけのしがない存在だからだ。

その変わり者が今回の雇用主って言うんだから、人生ってモンは奥が深い気がするわけだ。

敵国の王女様を平気で守ってみたり…見ず知らずの得体の知れない奴までホイホイ仲間に入れちまう。
まぁ…俺のような傭兵に言われたくは無いだろうけどな。それは兎も角としてだ…。
何より、傭兵だろうが…自分の家臣だろうが…関係なく、ロイって言う奴は分け隔て無く接するんだ。

何つーのかね…ロイの世界には、盗賊だろうがなんだろうが関係ないってワケだ。
家臣の一部は、そんな親方に気が気じゃ無いようだが…他の連中にしてみれば有り難い事なんだろう。
第一領主や偉い雇用主って奴は、盗賊や明らかに怪しい神父や子供を置いておくほどお人好しは居ないの常識だ。要は使える使えないか…自分にとっての利益にならない存在などゴミ同然ってわけ。

それに比べて、ロイって奴は、微塵にそんな野心を持っては居なかった。
まぁ此奴の父親で有るエリウッド卿も、今も昔も穏やかな良い人物だとパント様にも昔聞いた事があったが…ロイも又、そんな存在なのかもしれない。

だからこそ…良い領主になるだろうと思った。
世が世じゃなければ、ロイの家の領地するフェレは良い領主の元に平和な生活が…。私利私欲を求める事の無い、平和と平等を求める…そんな良い領地になるだろう。

だが皮肉な事にこの心優しい領主は戦火の中に巻き込まれている。
何時命を落ととも知れない戦火の中に。
それでも挫けることも諦めることもなく、信じた道を突き進む。正直羨ましいと思う。


(進むべき道に迷いが無いってヤツはそうそう無い。若い故に持つモノって訳でもねぇ…それは特質すべき才能なのだろう)


ロイを見るたびに常に思う心の呟きに、昔自分に無く…欲しかった信念みたいなモンを感じちまう。
その感情が生まれる度に俺は、感情的にこの幼い雇い主に何処までもついて行きたい気持になる。本当にらしく無いのだが…。




だから俺は、ロイと二人になった時にポツリととある疑問を口にした。
それはロイにとっては晴天の霹靂だったに違いないが…。


「もしもだ…土壇場でお前を置いて…俺達が逃亡したらどう思う?」


我ながら意地悪な質問だと思った。
その証拠にロイは瞳をしばたかせ…不思議そうに俺の瞳を覗き込んできた。


(まぁ唯一の救いは、此処には俺とロイの二人だけで周りにお付きの連中が居なかったって所だろうか…)


俺の心の中の苦笑など知らないロイは、少し考えながら言葉を紡ぎ出していた。


「それはそれで仕方がないんだと思います。僕は僕の意志でこの軍を動かしているように…皆も一人一人何かを思って行動しているんですよね…だから例え逃げ出したとしても、僕にはそれを止める権限も咎める権利も有りません…正直、実際あったら心は痛みますけど…仕方がない事じゃ無いかな」


真っ直ぐな曇り無き眼で言うロイの言葉には嘘なんて感じる事が無かった。
もしも此処で、嘘を感じることが出来たなら…俺は宣言通りに土壇場でロイを裏切る行為を取ることが出来たかもしれない。
だが、ロイは見事ロイらしい言葉で俺に返しきやがった。正直、予想はしていたが…正直安心した答えだった。



「成る程な。お前さんらしい良い答えだ」


失礼な行動とは分かってはいたが俺はロイの頭をクシャリと撫でて言葉を紡ぐ。
クシャクシャにされた髪に対して怒るわけでも無くロイは、俺にされるがままになりながら言葉をゆっくりと紡ぎ出してきた。


「だけど今はそんな事は無いですし。ディークさんを始め皆良い人たちばかりですから、僕は信じてるんです」


「面白いなお前。ウチの連中がお前に肩入れするのも無理ねぇな(そう言う俺もその一人なんだがな…)」


心に思う言葉は隠して俺はそう言った。


「え?何か言いましたか?」


「気にするな。大きな独り言だ…」


「はぁ…そうですか。じゃ気にしませんけど」


「まぁ…ロイを不安にさせちまったのは悪いとは思ってるが。俺の言った言葉も頭の何処かに入れとけよ…何時か、そん時が来たとしても驚いたりしねぇだろ」


ニッと笑ってそう言えば、ロイは笑って「そうですね」と返した。
そんな前向きな雇い主を皆の輪に促しながら俺達は歩き出したのだった。




傭兵家業は性に合う

だが…一端の騎士の様に

ただ一人の主の為に命を賭けるのも悪くない

そう…この少年の築く平和の世を見るために




剣に誓って守ってみようと…らしくもなく思ったのだ。


END


2004.11.30. From:Koumi Sunohara


★後書き+言い訳★
今まで書こう書こうと思いつつ…結局書いてなかったのですが…。
CP系の話以外を探すとなるとあまり見かけないので、自給自足に努める気になったので…。
相変わらずの動機ですが…同志は果たして居るのだろうか?
ともあれ、楽しんで頂けたら幸いです。


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