かけがえのないもの |
−ある日突然生まれる信念− |
クリミアとデインの戦争が起きた3年前。
俺はミカヤとはぐれ、よりにもよって祖国の敵となるクリミア軍のアイク団長の傭兵団に居た。
そこは色々な国の人間がひしめき合っていて、ベオクもラグズも関係無く普通に居た。
デイン生まれで生粋のデイン人である俺は、半獣教育の所為もあってラグズは恐ろしい獣でしか写っていなかった。
印付きと呼ばれるミカヤと居ても、他の奴は兎も角ミカヤだけが特別だったあの頃。
ミカヤを見失って、凄く慌てて、気がつけばアイク団長率いる傭兵団に身を寄せた。
そこから、世界は…広かった事に気が付いた。
アイク団長は、始めっからラグズとベオクと間に何の障害も無いと言う雰囲気だし…その所為なのか傭兵団の面々やクリミアの人間もあまりラグズに抵抗感を持っている様子は無かった。ベグニオンの貴族はやはり俺の考えに近いのか、あまり近寄ろうとしなかったが…凄い例外が居んだ。
年頃は俺とさほど変わらない深紅の髪の魔導師トパック。
自称ラグズ解放軍の首領だと言って、ベオクの癖にラグズよりの考えをする…生まれは貴族の子息らしいが、家出をしてラグズ解放軍首領なんてやってる変わり者だ。
脳天気で凄く緩い奴だけど、アイク団長の参謀も認める程の魔導の使い手だったりする。
そんな彼奴は俺と年が近いという理由だけでよく近くにやってきては、勝手に親睦を刻んでいく。
こっちの事などおかまい無しに、保護者のラグズ…ムワリムを伴って。
そうして、半獣では無くラグズだと言い聞かせるように。
じわりじわり浸食するように、彼奴は俺に半獣と口していたのを変えていった…本当に変なヤツ。
でもトパックに出会い…変化が産まれたお陰で今の、ミカヤと共に歩ける俺が生まれたのは事実で…勺だがしかたがない。
クリミア戦役−
「なぁサザ…お前は何を信じる?」
「何だよ藪から棒に」
「いやな…このご時世じゃんか。信じて強い気持ちが無いと生き抜けないと思ってさ」
珍しく真面目な表情で、紡ぐ言葉に普段の軽さは見受けれれない。
そんな彼奴の言葉に俺は、すぐに言葉を出すことができなかった。
いや…出せなかったのが正しいのだろう。
「サザの祖国の王様…今回の戦争の首謀者だってさ…信じるべき信念の元に戦争してるから。強いじゃんか」
そう分かり易い説明をされても、正直俺は、ミカヤに生かされて…ミカヤと共に居ることが全てで…なのに、そのミカヤは側に居ないこの現状に俺は答えに困っていたのだから。
俺の困惑など知るはずの無いトパックが、独り言のように言葉の続きを紡ぎ出す。
「傭兵団はアイク将軍を信じてる…クリミアの騎士の人達は…エリンシア様を信じてる。だから迷いがあっても信じる者があるから頑張れる。つーか皆何かを信じて…まぁ自分て奴も居るけど…信じて進んでる。けどさ…お前何か迷ってるだろ…」
「俺?」
「そう迷ってる。奴隷解放したばかりのラグズ達みたいにさ…何をすべきか迷ってる感じがすんだよね。違うならいいけどさ」
手を頭の上で組みながら、トパックは言い切るように言葉を紡ぐ。
分かったような…見透かされたような言葉を聞かないふりをして、俺は逆に聞き返した。
「偉そうな事を言ってるお前はどうなんだよトパック」
そう聞いてやったら、トパックは自信に満ちた笑みで言葉を紡ぐ。
「俺は勿論ラグズとベオクが仲良くなることを信じてる。つーかラグズ奴隷を完全に解放出来ると信じてる。だから立ち止まってる暇は無いの」
「暇。無謀…成功の兆しねぇ目標だな」
冷たい目でそう返せば、トパックはニッと口に端を持ち上げると俺を見た。
「あっでも…手始めにサザをラグズ嫌いが治る。これが今一番の信じてる事かな」
サラリと事も無げに紡ぐ言葉に、俺はやはり冷たく返す。
「ふん。俺は根っからのディン人だ…そう簡単にラグズ嫌いが治る訳無いな」
そんな俺の言葉など気にしないのか、トパックはやっぱりあっさりと次の言葉を紡ぐ。
「そうかな?ジルもそうだけど、今はラグズをちゃんとラグズと見てるぜ。それにさ、今日とか明日とか明後日に好きに慣れなんて言わないし…生きてる内にラグズ嫌いが治れば良いと思ってるのだぜ。長い目を見ないと駄目なんだよそういうヤツはさ。ちなみにコレはラグズ奴隷解放にも繋がる言葉だけどな」
そうやって彼奴は、アイク団長と共に全ての連中を巻き込んで、ラグズとか関係無い雰囲気を作り上げていった。
そして、再びミカヤと再会を果たし…暁の団として活動している。
そうして漸くトパックの言う信念と言うモノが分かったような気がする。
信じる…そこから始まるものがある。
そう…必ず。
おわし
2008.8.3. FROM:Koumi Sunohara
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