風鐸
− 涼を与える静かなメロディー −



照り返す日差しは、大地すら熱を帯びている。
見上げる空は澄み切って、雲一つ無い快晴。

そんな暑い日に、そよぐ風。
風が吹く度にチリチリと静かに響く音を奏でる風鈴。

季節は夏で…額に誰もがうっすらと汗をかき…軒下には銅で出来た風鈴が夏のメロディーを刻んでいる。
行き交う人の中には、団扇や扇子で涼をとったり…店先に出来た影の中で涼をとる者もいた。

そんな青空と日の強い光がまぶしいこんな日に、葛生瑣巳は何処か涼しげな顔で町中を歩いて居た。

別に彼自身の額に汗がかいていないとか…そう言った訳では無く…何というのだろうか…熱いのに別に気にしていない顔をしているといった感じなのだ。
そう…言うなれば、この暑さにだれる事無く何時も通りといった感じなのである。

確かに他から見た瑣巳はそうなのかもしれないが、実際問題本人は…周りが思う程涼しい訳では無いようだった。


(いや〜暑いね。本当に…もう少し涼しくならんもんですかね)


瑣巳はぼんやりとそんな事を思いながら、町中をぶらりぶらりと歩を進める。
すると、先程から聞こえる涼しげな風鈴の音色が幾重にも重なって瑣巳の耳に入った。


普段聞くような、銅の風鈴の音とは違う音色に瑣巳はすぐさま音の方へ目を向けた。


(成る程ね…ガラスで出来た風鈴って訳ですか…。そりゃー音色も違うってもんですよね)


ガラス細工の風鈴は、銅が奏でる昔ながらの音色と違い…やけに澄んで聞こえ。
瑣巳は納得気味に頷いた。
そして…。


(お嬢に見せたら喜びそう…と言うか良い和菓子のレシピを浮かんだとか言いそうだねコレわ)


風にそよぐガラス細工の風鈴に…お向かいの和菓子やの千歳の顔が何故だか瑣巳の脳裏に浮かぶ。


(と言うか…何でまたお嬢が浮かんだかね俺ってば)


浮かぶ思いに苦笑が滲み、瑣巳は揺れる風鈴を見つめた。


「まぁ…普段お嬢には世話になってますしね」


不意にこぼれた言葉は何だか、瑣巳にとってみれば言い訳じみた感じがして…言った本人すら思わず苦笑を漏らす程だった。


「さてさて…暑いしね…お嬢の所の葛切りでも食べに行こうかな」


思わず買ってしまった風鈴を手に、瑣巳は少し軽い足取りで家路に向かった。
この風鈴の行方は…近い未来に明らかになるのであった。


おわし


2009.3.9. From:Koumi Sunohara






★後書き+言い訳★
またまた葛生のお兄さんネタ。
千歳嬢の誕生日プレゼント…親密で変わるんですが…その風鈴からの小話にしてみました。これまた微妙ですね(汗)
ともあれ楽しんで頂けたら幸いです。


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